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経験していないことや感じていないことは歌詞にできない

――最初に僕が言った〈歌に他者がいる〉という点は、ご自身で振り返るとどう感じられますか?

「人間が生きていくことは他者との間で物事が進んでいくことなんだ、というのは凄く感じます。このアルバムには確かに、誰かを意識して作った曲もあるし、それが現実の体験である場合もあれば、そうでない場合もあって。〈こうなったらいいなぁ〉という妄想のようなものもある。他者は、生活の中で切っても切れないものだと思います」

――例えば、“言わせばない”で歌われる人と人との景色には幸福なものを感じますが、“氷”で歌われる人と人との関係には、絶対に存在してしまう隔たりや、時間が経つほどに変わってしまうものがあることを感じさせます。様々な種類の人と人との関係性がこのアルバムからは浮き彫りになってくる感じがする。これらのことは全部、和久井さんがこれまで生きてきて感じてきたことが表れているんだろうなと思ったんです。

「そうですね、感じたことを歌にしているので。“言わせばない”は、1番の歌詞は2024年に作っていて、2番は2026年に作っているんです。だから、1番と2番で全然違うんですよね。1番の歌詞を書いた頃は幸せな光景を思い浮かべていたけど、2番からは影が入ってくるというか、危うくなっていく。それは自分の経験から、そういう見方が生まれたんだと思うんです。“言わせばない”は、時間を経ると人間も変化していくということが、本当に時系列で1曲の中で表れているのが自分でも面白くて。

でも、最後の方のCメロは2024年のままなんです(笑)。それで世界観が損なわれるかなと思ったけど、意外と繋がっていく気がしなくもなかったんですよね。それで結果的に〈それでもふたりは一緒にいる〉という感じの終わり方になった。2年かけて歌詞を書いたので、これはこれで〈時〉の作品だなと思います」

――1stアルバムの『Time Won’t Stop』から、和久井さんにとって〈時〉はずっと大きなテーマですもんね。“氷”は和久井さんにとってどんな曲ですか?

「“氷”は、フランコ・リードさんというLAのプロデューサーの方が来日したときに一緒に作った曲なんですけど、この曲は本当にそのとき自分がタイムリーに感じていたことを歌にした曲ですね。お互いに怖すぎて、何も前に進めることができなかったふたり、というか……。あまりにも個人的なことだから、インタビューで言うのもなんなんですけど」

――そのくらいパーソナルなことを歌で表現することは、和久井さんに何をもたらすんですか?

「それをすることで何かが解決するわけではないんです。日記みたいな感じなのかな。私は経験していないことや本当に感じていないことは歌詞にできないタイプなんだろうなと思います。だからどんどん歌詞が個人的になっていく。いつか曲になった人たちに〈金払え!〉って言われるかもしれないですけど(笑)」

 

不器用ながら何かを伝えたい、でも伝えるとひとりになるかも

――(笑)。今作は和久井さんが全部おひとりで作っている曲もあるし、イシイトモキさん、高橋佳輝さん、上原俊亮さんというライブも一緒にやっているバンドメンバーたちと演奏している曲もあるし、“氷”のようにプロデューサーを招いている曲もある。音楽的にはかなり多様になっていると思うんです。例えば1曲目“FAR”は和久井さんひとりの宅録で、11曲目“こそばゆい”はバンド演奏で作られている、そこには明確に曲が求めるものの違いがきっとあるわけですよね。

「そうですね、明確にあって。“こそばゆい”は『utas』を引っ提げてライブをやるとなったときに、このバンドメンバーと歌ものをやるとしたらどんな曲を歌いたいか?ということを考えた末にできた曲なんです。だからライブを前提とした曲でもあるし、結構エネルギーを使って作った曲でもあるんですよね。

そのくらいしないと消化できないくらい自分にとって重たい経験のことをこの曲では歌っているんです。そういうヘビーな経験のことを、ギターの爆音で散らしたかったんだと思います(笑)。この曲は自分にとってヘビーすぎて、アルバムの中でもあまり聴き返したくない曲ではあるんですけど。

“FAR”は逆に、ほとんどボーナストラックのようなノリで作った曲で。朝4時くらいに部屋でひとりでうわーっと作った曲なんです。部屋で完結している曲なんですよね」

――“FAR”の歌詞にはどんなイメージがありました?

「“FAR”は遠くにある島をイメージして作った曲なんですけど、そもそも私は、伝えることが得意ではないので。思っていることや本当の心を塞ぎ込んでしまうタイプなんですよね。でも、伝えたいことはある。そういうところから始まった歌詞だと思います。

不器用ながらも一生懸命何かを伝えたいと思っている自分がいて、でも伝えたところで結局ひとりになってしまうのかもしれない……みたいな気持ちもある。そんな自分が出ている曲だと思います」

――和久井さんが〈伝える〉ということに向き合ったり、敏感に何かを感じ取ってきたことが、このアルバムには入り込んでいると思いますか?

「そうですね。〈伝える〉はキーワードになっているかもしれないです。苦手なことだからこそ、大事なことでもあるので」