トニーニョ・オルタ、輝かしい新作『スタンダーズ&ストーリーズ』を携えて久しぶりの来日!
約8年ぶりにトニーニョ・オルタがブラジルから来日する。1990年の初来日以来、その来日回数は何と30回近くに及び、日本のブラジル音楽シーンにおいて最も親しまれてきたアーティストの一人であることは改めて説明するまでもない。
今回のツアーでは、7年ぶりとなるニュー・アルバム『スタンダーズ&ストーリーズ』(THINK! RECORDS)を携えてのステージが披露される。忙しいヨーロッパ・ツアー中のトニーニョにインタヴューをさせてもらった。アルバム・タイトルが示すとおり、本作はアメリカン・スタンダードに焦点を当てた作品である。全12曲を収録しながら、トニーニョ自身のオリジナル作品は一曲も含まれていない。50年以上に及ぶレコーディング・キャリアを振り返っても、このような内容のアルバムは初めてと言ってよい。その背景には、兄パウロ・オルタの存在がある。ベーシストだったパウロは、幼いトニーニョに音楽の手ほどきをした人物でもあった。兄が手に入れたアメリカ盤レコードを通して、ジャズ、ポピュラー音楽、そして映画音楽に親しみ、それらを貪欲に吸収した少年時代の体験は、その後のトニーニョ独自の音楽性を形成する重要な礎となった。本作は亡き兄へのオマージュであると同時に、自身の音楽的原点を見つめ直した作品でもある。
2019年に発表された前作『ベロ・オリゾンチ』はCD 2枚組による壮大なスケールで、それまで歩んできた音楽人生の集大成とも呼ぶべき力作だった。そして翌2020年、その作品はラテン・グラミー賞ブラジル音楽部門最優秀アルバム賞を受賞する。この受賞を契機として、しばらく距離のあったアメリカの音楽業界との交流が再び動き始め、アメリカを拠点に活動するブラジル人ギタリスト、サンドロ・アルベルトとの出会いが実現した。『スタンダーズ&ストーリーズ』は、彼のプロデュースと協力のもとで制作され、リズム・セクションなどのベーシック・トラックはアメリカで現地ミュージシャンと録音、その後ブラジルでトニーニョ自身のギターとヴォーカルをオーバーダビングしている。
選曲も実に興味深い。“When I Fall I Love”“What A Wonderful World”“Alice In Wonderland”“Smile”など、20世紀アメリカ音楽を代表する名曲が並ぶ。しかし本作の魅力は選曲そのものではない。これらのスタンダードを、トニーニョがいかに〈自分の音楽〉として再構築しているか、その一点に尽きる。柔らかく語りかけるようなヴォーカル、空気を震わせるような繊細なギター・タッチ、そして微細に揺れ動く独特のハーモニー。オリジナルの旋律は尊重しながらも、コード・ヴォイシングやリズムの置き方によって、楽曲はいつしか〈トニーニョ・オルタの作品〉としか思えない表情へと変貌していく。その変換能力こそ、この音楽家だけが持つ比類ない個性であり、本作最大の聴きどころである。
この数年間、彼は相次ぐ私的な悲しみに直面した。最愛の娘をがんで失い、長年ツアーマネージャーを務めた姉ベレニッシとも別れ、さらに昨年11月には半世紀以上にわたって歩みを共にした盟友ロー・ボルジェスも旅立った。それでもトニーニョは、悲しみをことさらに作品へ投影することなく、生来の穏やかさと揺るぎない生命力によって前へ進み続けている。今回のインタヴューでは、「これからはアメリカにも自分のグループを作り、本格的に活動していきたい」と静かな口調で語ってくれた。その言葉には、80歳を目前にしていまなお尽きることのない創作意欲と、新たな音楽へ向かう確かな意思が感じられた。
『スタンダーズ&ストーリーズ』は、単なるスタンダード集ではない。少年時代に胸を躍らせながら聴いたアメリカ音楽への敬意、兄への追憶、そして半世紀以上にわたり独自の音楽世界を築いてきた一人の芸術家が、あらためて自らの原点と向き合った作品である。トニーニョ・オルタという音楽家の本質を知るうえでも、近年の代表作としても長く聴き継がれるべき一枚と言えるだろう。
トニーニョ・オルタ(Toninho Horta)
ブラジル・ミナスジェライス州出身。1960年代から音楽活動をはじめ、同じミナス出身のミルトン・ナシメント&ロー・ボルジェスのアルバム『Clube Da Esquina』を筆頭に、数多くのブラジル音楽のアルバムに参加。1977年には英国の音楽誌「Melody Maker」によりジャズ・ギタリストの第5位に選ばれ、多くの音楽書籍においてジャズ・シーンを代表する最も重要なアーティストの一人としても認知されている。
LIVE INFORMATION
Jazz in Hokutopia Vol.4
2026年9月26日(土)東京・王子 北とぴあ さくらホール
開場/開演:14:30/15:00
トニーニョ・オルタ・ソロ
2026年9月27日(日)東京 武蔵野市民文化会館 小ホール
開場/開演:13:30/14:00
2026年9月30日(水)静岡 Life Time Jazz Club
開場/開演:19:00/19:30
トニーニョ・オルタ with guest 小野リサ
2026年9月29日(火)大阪・梅田 Billboard Live OSAKA
1st 開場/開演:16:30/17:30
2nd 開場/開演:19:30/20:30
