インタビュー

The fin. 『Days With Uncertainty』

USインディー界を陰で支える音の名士を迎え、海外のインディー・ロックが持つ甘美な浮遊感を昇華しながら新鮮なサウンドを生んだファースト・フル・アルバム

The fin. 『Days With Uncertainty』

 兵庫は宝塚出身の4人組、The fin.からファースト・フル・アルバム『Days With Uncertainty』が届けられた。小学校時代からの幼馴染だという彼らの奏でる音は、20代前半の新人とは思えないくらいに堂々とした落ち着きを感じさせる。といっても、決して老けているというわけではない。生音と電子音の融合した美しいサウンドの上で瑞々しいメロディーがゆったりと鳴り響く様は、英詞であるという点も踏まえて、国内のバンドよりもむしろ海外のインディー・ロック勢と共振する部分が大きい。

 「2年前の夏、イギリスとフランスに4人で旅行して、パブやクラブで遊んだりしたんですけど、その時の感覚がいまの音楽性に繋がるきっかけのひとつになりました。街中に音楽が溢れていて、音楽の在り方がすごく自然だったんです」(Yuto Uchino)。 

The fin. Days With Uncertainty HIP LAND(2014)

 自然──『Days With Uncertainty』を形容するのにこれほど相応しい言葉はないだろう。淡々としたミニマルなサウンド、決して急がないスロウなテンポ、滑らかで穏やかな歌声、日常生活にごく近い感覚がこのアルバムには根付いている。ヴォーカル&シンセ担当のYutoがレコーディングからミックスまでを自宅で行っていることもそうした日常感の強さの一因かもしれない。ただし、唯一マスタリングだけは外部の力を借りているという。その人物の名はジョー・ランバートアニマル・コレクティヴウォッシュト・アウトディアハンターの諸作、最近ではリアル・エステイトの『Atlas』を手掛けたUSインディー界を陰で支える音の名士だ。

 「マスタリングする段階になって、大学時代によく聴いていたLPを引っ張り出してみたらジョーさんの名前がたくさん出てきて、〈これはもう頼むしかない〉と(笑)。彼の作品って魔法みたいに気持ちの良い音が鳴るんですけど、このアルバムにもそれが生まれました」(Yuto)。

 こうして完成した本作には、それまで親しんできた海外のインディー・ロックが持つ甘美な浮遊感を消化/吸収した結果、あるいは〈チルウェイヴ以降のポップソングとは?〉という問いに対する日本からの誠実な回答とも言える新鮮なサウンドが生まれている。なかでも、その〈音数の少なさ〉は特筆すべきだろう。

 「例えばピカソの絵は〈ヘタウマだから俺でも描ける〉っていう人いるじゃないですか。でもあれは修行を重ねて技術を磨いたうえでの表現なんですよね。本当に絵の上手い人はどこに何を描けばいいかがわかっているから、線一本だけで説得力のある作品が作れる。だから〈無駄なことはせずに、的確な表現をしていこう〉という意識が生まれたんです」(Yuto)。

 「〈ビート感を出したい〉って意識が個々のメンバーのなかにあって、それが〈必要な音だけのほうが絶対ビート感は出るな〉という考えで一致した結果、自然とこうなりました」(Ryosuke Odagaki)。

 ちなみに、アルバム・タイトルの『Days With Uncertainty』は、日本語に訳すと〈不安を抱えた日々〉となる。

 「〈いつ何が起こるかはわからない〉っていう感情はいま、誰もが持っているものだと思っていて。でも、僕自身はそういう感覚をネガティヴな意味では捉えてないんですよ。みんなそういう気持ちのなかで生きているんだから、別に〈不安を抱えた日々〉でもいいんじゃない?って。だからこれは一種の肯定なんです」(Yuto)。

 誰でも簡単にネガティヴになれるいまの世の中だからこそ、あえてポジティヴに、それでいて不自然でない〈生活に馴染むポップソング〉をめざした4人。ここには、現代の人々の心象風景を映し出す音が、穏やかな肯定の眼差しと共に刻み込まれている。今後は国内/国外にこだわらない自由な活動をしていきたいという彼らだが、その〈心地の良い不安〉に対する共感が、やがて日本を飛び越えて世界に広がっていく日もそう遠くはないのかもしれない。

 

 

The fin.

Yuto Uchino(ヴォーカル/シンセサイザー)、Ryosuke Odagaki(ギター)、Takayasu Taguchi(ベース)、Kaoru Nakazawa(ドラムス)から成る、宝塚出身/神戸在住の4人組。2012年に結成。当初は音源制作をメインに活動を行い、SoundCloudやYouTubeにアップロードした楽曲に対して日本のみならず海外からも問い合わせが続出する。2014年3月に初の全国流通盤となるEP『Glowing Red On The Shore EP』を発表。その後は徐々にライヴの出演回数が増え、今夏には〈フジロック〉〈RISING SUN〉といった大型フェスの舞台にも立つ。着実に注目度を高めていくなか、ファースト・フル・アルバム『Days With Uncertainty』(HIP LAND)をリリース。

関連アーティスト
TOWER DOORS