海外でのさまざまな経験を経て、久々に訪れた自分と向き合う時間。精神世界の内と外をドリーミーなサウンドスケープで繋いだ先に見えるものとは……?

精神世界と外の世界

 The fin.がサード・アルバム『Outer Ego』を完成させた。イギリスに拠点を移して制作した2作目『There』から3年9か月、世界中をツアーで回る生活に一区切りをつけ、東京に自宅スタジオを構えたのがEP『Wash Away』リリース後の2019年11月。そのわずか数か月後に世界中でロックダウンが行われ、ここ日本でも緊急事態宣言が発令された。

 「『Wash Away』の頃はイギリスと日本を行き来して、その間にライヴで中国にも行ったり、1か月に何回も飛行機に乗る生活にちょっと疲れちゃって。一回落ち着いて、自分のスタジオで制作をしたいと思ったんです。それで引っ越しをしたら、数か月後に大きく状況が変わって……。改めてセルフ・プロデュースに戻ろうと思ってたタイミングでもあって、最初はまたEPを出そうと思ったんですけど、家にずっといることになってゆっくり曲を作るなかで、〈アルバムになりそう〉と思いました」(Yuto Uchino、ヴォーカル/ギター/シンセサイザー:以下同)。

The fin. 『Outer Ego』 HIP LAND(2021)

 久々に訪れた一人でじっくり音楽と向き合う時間。そのなかでこれまでの人生を振り返り、〈自分の中にある精神世界と外にある世界を行ったり来たりするアルバム〉というテーマが自然と浮かび上がってきた。

 「海外に行き出したのが2014年とか2015年くらいで、そこからは常にチャレンジやったというか、アドベンチャーですよね(笑)。ずっと外からの刺激を受けて、それを処理するのに精いっぱいで、自分に目を向けることがほとんどなくて。でも、コロナで強制的に一回止まることになって、外からの情報がストップしたぶん、自分の中に溜まってた経験をまた違うプロセスで組み上げていったというか。自分の中の世界と外にある世界を線で繋いで、大きなユニバースが出来上がるイメージでした」。

 ニューウェイヴにドリーム・ポップ、アンビエントなどの要素を含みつつ、Yutoの透明感のある声質で歌われるメランコリックかつポップなメロディーと、再現性を一切考えることなく作り込んだサウンドデザインの組み合わせは、まさにThe fin.だけのシグネチャーを感じさせる。ギターよりもシンセの割合が増え、ルーツのひとつである80年代的な雰囲気も感じられるが、Yutoが最初にイメージしたのはビートルズだったという。

 「最初は〈ホワイト・アルバム〉みたいにいろんな曲が入ってるイメージだったんですけど、作ってるうちに自分の中でストーリー性が大きくなって、どちらかというと『Abbey Road』的な、ストーリー重視の方向にシフトしていったんです。一時期はラップものばっかり聴いてたんですけど、やっぱりメロディーが欲しいと思って、それで60年代とか70年代に戻り、制作の後半はメロディーがきれいなソウルやジャズをよく聴いてました。なので、シンセも歌えるようなメロディーを意識してます」。

 アルバムはゆったりとしたBPMの“Shine”、80年代UKポスト・パンク風の曲調が今作の中では異色な“Over the Hill”で〈外〉から始まり、自身の声を子どものように加工したインスト“Short Paradise”で徐々に〈内〉へと沈み込んでいく。

 「“Shine”を作ったのはまだイギリスと日本を行き来してた頃なんですけど、ロスト感の強い時期だったというか、ギタリストが抜けて、付き合ってた彼女とも別れて、自分がどこに向かっているのかもわからず、ポジティヴになってないとどうにもならない、くらいの感じだったんですよね。最後に付け足した〈The heavy fog with me/Shine me through my heart〉が当時の心境をよく表していると思います。“Over the Hill”ももともと古い曲で、地元の神戸で友達と遊んでたときに〈今のこの感じを曲にしてみて〉と言われたのを本当にやってみた曲。“Short Paradise”はインナー・チャイルド的なイメージで、完全に自分の中だけの世界ですね」。