砂のチリチリした感触や、きめ細かいシルクのような空気感――海外で体感したテクスチャーが、音楽として甦る。繊細な深みのなかから浮かび上がる、捉え切れない〈何か〉とは……

 欧米のインディー・シーンとも共振するサウンドで評価の高い4ピース・バンド、The fin.から新作EP『Through The Deep』が届いた。すでにライヴではお馴染みの“Anchorless Ship”や、ドミノ傘下のダブル・シックス所属の鬼才=ペティート・ノワールによる“Night Time”のリミックスを収録した全6曲には、彼らの目覚ましい成長と現在地がくっきりと刻まれている。

The fin. Through The Deep HIP LAND(2016)

 「アルバム(2014年作『Days With Uncertainty』)が結構コンセプチュアルだったんで、もうちょっと自由に、肩の力を抜いて出来た曲が多いですね。2015年は〈経験の年〉だったと感じていて、アメリカやアジアでのツアーを通じて自分たちのレヴェルが上がっていく――その〈過程〉が作品にも表れています。個人としても、バンドとしてもすごく変わりました」(Yuto Uchino、ヴォーカル/シンセサイザー:以下同)。

 刺激に満ちた海外での経験は、彼の価値観をも変えたようだ。制作期間中にはジェイミーXXテイム・インパラピュリティ・リング、あるいはフォニー・ピープルなどを好んで聴いていたそうで、オーガニックな生音、それも〈テクスチャー(質感)〉を表現することに強く惹きつけられたという。

 「アメリカ西海岸のザラッとしたイメージとか、砂のチリチリした手触りだとか、あとはアイルランドのきめ細かいシルクのような空気感とか……。そういう言葉にできない感覚をサウンドにしたいと思って。たぶん、自分にとってデジタルなものがリアルではなくなってきたんですよね。“White Breath”はドラムとベースは温かくてラフな感じだけど、ギターとヴォーカルはどこか冷たい。相反するものが共存している感じを、思った通りに再現できた気がします」。

 テクスチャーといえば、The fin.の音楽やアートワークには〈海〉や〈船〉、そして〈水〉にまつわるモチーフが数多く登場する。それは、4人が神戸出身だということも大きいのだろうか?

 「僕の実家はベランダから海が見える場所にあるんですけど、やっぱり原風景ですよね。波が突然激しくなったり、静かになったり、姿カタチを変えるところが自分の内部とリンクするものを感じるっていうか。昔、ブルース・リーが〈Be Water(水になれ)〉と言っていましたけど、自分がイメージする〈強さ〉っていうのは鉄とか固いものじゃなくて、水のように柔らかくて、捉え切れない〈何か〉なんでしょうね」。

 今回もレコーディング&ミックスをYutoが、マスタリングをUSの兄貴分、ジョー・ランバートアニマル・コレクティヴウォッシュト・アウト他)が手掛けているが、ソングライターとしても飛躍的に進化を遂げていることは間違いない。タイトル曲の“Through The Deep”は、来たるセカンド・アルバムの方向性を占ううえでひとつの〈核〉になったと明かしてくれた。

 「高校生の頃って、アートに触れても〈なんやコレ?〉って感じで全然わからなかったんですよ。それがここ1年くらいで腑に落ちたというか、〈この人には世界がこういうふうに見えてるんやな〉って、だんだん理解できるようになって……。そういう感情とか、見たものとか、それらすべてを自分のフィルターを通して、音楽にトランスレートしていった曲ですね。素の自分が出ているせいか、思い入れも強いです」。

 ガチガチに設計図を作り込んだり、無理やりアイデアをひねり出すのではなく、もともと自分のなかにあるものをアウトプットするだけ。この自然体のスタイルこそが、The fin.の生み出す白昼夢のように心地良いサウンドスケープの秘訣なのかもしれない。4月には本作を引っ提げての東名阪ツアーも控えているが、今後の目標は?

 「人間がまだよくわかってない感情とか、言葉になってないようなものっていっぱいあるじゃないですか? でも、音楽の世界はそれを知っているアーティストが大半で、みんなその〈何か〉を表現するために曲を作っている。僕らもそうでありたいなって思います。セカンド・アルバムは……早くて秋頃にはリリースできれば良いですね(笑)」。