PAELLASの動向を追っているこちらの連載。今回は去る11月29日に行われたThe fin.の主催イヴェント〈Is This It? vol.1〉にPAELLASが出演するタイミングで、PAELLASのヴォーカリスト・Tatsuya Matsumotoと、かねてより交流のあるThe fin.のYuto Uchino(ヴォーカル/シンセサイザー)& Ryosuke Odagaki(ギター)による対談取材を敢行! 関西出身(PAELLASは大阪、The fin.は兵庫出身)の同世代、現在は東京を拠点に活動を展開しているのをはじめ、共通点も多い両者が、いまどんなことを考えながら音楽をやっているのか、そして今も昔も多くの優秀なアーティストを輩出する関西のインディー・シーンの現在についても訊いてみました。
――まずは両バンドの出会いは?
Yuto Uchino(The fin.)「初めて一緒にライヴしたのは地下一階(大阪のライヴハウス)でやったスターファッカーの来日公演(2013年7月)ですね。PAELLASの元ギタリストが俺らの高校の同級生だったんです」
Tatsuya Matsumoto(PAELLAS)「でも最初に会ったのは俺らがNoise and milkのライヴに呼ばれた時で……楽屋におったよな?」
Yuto「そうそう、遊びに行った!」
Matsumoto「わりとお互いライヴしてない時に会うことが多かったな。HAPPYとSlow Beachのライヴとか、JESUS WEEKENDのリリース・パーティーとか(笑)」
Yuto「そうそう、遊びに行ったらいたとか、そういう感じ(笑)。でもちゃんと話して仲良くなったのはホント最近で……」
――あ、そうだったんですね。
Matsumoto「Yuto以外のメンバーとまともに話したのはこの間のたこ焼きパーティー(今年の夏にプライヴェートで行われたらしいです)が初めて」
Yuto「いまだにメンバー全員と話したことがあるわけじゃない(笑)」
――ところで、お互いの音楽についてはどういう印象を持っていましたか?
Matsumoto「The fin.はAno(t)raksのコンピ(2013年のコンピ『World Awake』)に参加していた時に初めて聴いて」
Yuto「最初にPAELLASのライヴを観た時、〈めっちゃイイやん〉て言ってて、でも俺の周りがあんまイイって言ってなくて……なんでなんやろって(笑)」
Matsumoto「ハハハ(笑)。最初っていつ?」
Yuto「だいぶ前。ギターはタル(樽本涼平、こちらの記事を参照)が弾いてたで」
Ryosuke Odagaki(The fin.)「最近SoundCloudで上がっているのをよく聴いてる」
Matsumoto「俺カラオケでもう3回くらいThe fin.の曲歌ってる」
――ハハハハハハ(笑)!
Ryosuke「マジで? ていうかカラオケ行ってんねや、ハハハ(笑)」
Matsumoto「新曲(“Night Time”)のPVも観たしな。あれマジでいいよな」
Yuto「あれ朝の5時くらいまで撮ってた。寒いし大変やったな」
Matsumoto「“Night Time”はデモで公開された時からめっちゃイイなと思ってた」
〈洋楽っぽい〉……の真意
Matsumoto「The fin.がAno(t)raksのコンピに参加したくらいの時だったと思うんですけど、まだ俺がThe fin.の曲を聴く前にTwitterかなんかで〈(PAELLASに)似てる〉って書かれてて」
Yuto & Ryosuke「へぇ~」
Matsumoto「それでちゃんと曲を聴いたら、何が似てるんやろ?と思って。すごい洋楽っぽい感じ、みたいな言われ方されへん?」
Yuto「するする」
Matsumoto「めっちゃ嫌いで、〈洋楽っぽい〉とか言われるのが」
――洋楽とか邦楽とかじゃないんだよ!って感じ?
Matsumoto「〈○○っぽい〉って言われるってことは、結局そこ止まりなんだなと思ったりする。だからそこを超えたい。でもThe fin.はそこを超えてるなと思う。The fin.だけですかね」
Yuto「マジで?」
Matsumoto「(そう言われがちなバンドで言うと)HAPPYはすごくイイ曲を書くし、メロディーとかは逆にすごく日本人的だと思う。The fin.は洋楽っぽいとかじゃなくて、何と並べても遜色ないっていうか……言いたいことわかります(笑)?」
――はい、なんとか(笑)。〈○○っぽい〉ではなく、個が立っているってこと?
Matsumoto「そうですね。そんなラインで勝負してないっていうか」
――The fin.は〈洋楽っぽい〉と言われてしまうことについてどう思いますか?
Yuto「それはもう言われすぎて、ある段階からスルーし出したよね」
Ryosuke「そういうふうに言われたり、括られたほうが(リスナーの)入口になりやすいのかな、というのはありますよね」
Matsumoto「まあね」
――うん、うん。
Ryosuke「〈○○っぽい〉っていうのは聴く動機を与えるためであって、例えばロイヤル・コンセプトがフェニックスっぽいって言われるのも、単にそれらを聴いている人の目を向けさせるため……というのを見たことがあって」
――おっしゃる通り、〈洋楽っぽい〉という言い方はざっくりしすぎだと思いますけど、他のバンドを引き合いに出して解説するのは、あくまでも〈聴いてみよう〉と思ってもらうための術ではありますよね。
Ryosuke「僕はそう捉えています」
東京の人が思っているほど関西に〈シーン〉はない
Matsumoto「The fin.は東京に出てくる前はほんまにライヴしてなくて、俺も全然観てないんですよ、実は」
Yuto「俺らはライヴ活動をたくさんしていたわけじゃなく、おもしろそうなイヴェントに誘われたら出る、っていうスタイルだったので。でもPAELLASも……」
Matsumoto「俺らもいろいろライヴに出るようになったのは東京に来てからで、大阪におった頃はあんまりやってなかった(詳しいいきさつはこちらへ)」
Yuto「たぶん東京の人が思っているほど(関西に)シーンはない」
――あ、そうなんですね。
Matsumoto「ないっていうか、俺らがちゃんとやり出した頃が全盛期で、徐々に落ち着いていっちゃった感じかな」
――全盛期っていうと?
Matsumoto「はっきりとはわからないけど2012年」
――HOTEL MEXICOあたりが活躍していた頃ですか。
Matsumoto「そうですね、SECOND ROYALの面々とか〈kyoto indie village〉(〈京大インディー部〉なる謎の団体が主催するイヴェント)をやってる人たちにエネルギーがあって。インディーものが好きな人たちのコミュニティーがすごく盛り上がってた。それがいまはたぶんバンドよりトラックメイカーの方々が目立ってきているから、いまバンドはインディーっていう括りだとあんまりいないよな?」
Yuto「ないなー」
――トラックメイカーというのはtofubeatsやSeiho、Avec Avecなどの?
Matsumoto「そうです。okadadaとか、PAELLASのリミックスもやってくれているSoleil Soleilやin the blue shirtとか」
――うんうん、なるほど。
Yuto「PAELLASや俺らもそうだし、同じ時にやってたHAPPYもみんな東京に出てきたから」
Ryosuke「こっち(東京)に来てみたら、周りが関西出身の奴らだった、みたいなことはあるな」
――なるほど、皆さんが地元にいる時に盛り上がってシーン的なものが出来ていた、みたいなことではなかったんですね。
Matsumoto「全然ない。そういうことに関しては東京のほうがありそう」
Yuto「うん、あると思う」
――あ、そう。
Matsumoto「例えばYogee New Wavesとか、東京にいる同世代のバンドの人たちはそれぞれに〈バンド遍歴〉があるわけですよ。俺らはPAELLASでずっとやってきたけど、東京にいるバンドっていろんなバンドを経てきている人たちが多くて、このバンドの人はもともとこっちのバンドにいて、とか、いまは別のバンドをやっているこの人とこの人は前にこのバンドで一緒にやってて……みたいに繋がってるから、人物相関図を作ったらすごい、みたいな(笑)」
Yuto「すっごい大きいのが出来そうやな(笑)」
Matsumoto「バンドをやってる奴らだけじゃなくて、その周りにいる関係者の人脈も凄いし。関西にはそういうのはあんまりない」
――そういう繋がりがシーンと言われるようなムードを作ってるんじゃないかと。
Matsumoto「関西は東京みたいに毎週末イヴェントをやってたりする感じじゃないし。向こうはホント月に1回とかやもんな」
Yuto「そのくらいやな。そこでちょっとインディー好きな奴が出会うくらいで」
――そうなんですか。それはちょっと知らなすぎましたね、私。いっぱい良いバンドが出てくるから、よっぽど熱いんだろうなと思っていましたよ。
Matsumoto「2012年の春くらいは関西が熱かったと思うんですけどね。その当時〈kyoto indie village〉やいまは〈LONDON CALLING〉というイヴェントでDJもやっているしょうた君に教えてもらって、実際にその場で体感できたのは幸せでした」
――本当に一瞬の出来事なんですね。
Matsumoto「そうですね……やっぱり盛り上がっているとはいえその規模にも限界があるじゃないですか。やっぱり東京のほうがデカイし。イヴェントを開催する人がオーディエンスの人たちやから皆さんそれぞれ生活や仕事あるやろし」
――取り巻く雰囲気もまた違うんですか?
Yuto「違いますね。東京は単純に人が多いというのと、俺らは今年の4月にHIP LANDの所属になったというのもあるんですが、バンドに関わる人たちがすごく多くなったんですよね。規模感がまったく変わりました」
Matsumoto「The fin.は俺らよりももっと違うよな。こっち出てきてすぐにそういう環境になったわけだから」
Yuto「いわゆる普通のメジャーなロック・バンドが出るイヴェントにも出してもらうようになって、そうなると客層も全然違うし、やっぱり〈こっち〉のほうが盛り上がってんやなというのは感じました」
Matsumoto「〈こっち〉っていうのは?」
Yuto「KANA-BOONなどのよりメジャー感のあるバンドかな」
Matsumoto「なるほど」
――KANA-BOONも関西出身か!
Matsumoto「バリバリ大阪ですよ。俺らとKANA-BOONの初ライヴの場所は一緒です(笑)。まったく面識はないけど」
ライヴにおける自分たちの音楽と日本のオーディエンスが求めるもののギャップ
Matsumoto「大阪はコミュニティーがそんなに大きくないぶん、みんな仲がいいんですよ。来てるお客さんの顔ぶれも一緒だから、ライヴをやっていても勝手に盛り上がってくれるんです。でも東京は規模が大きいからか、自分で調べて一人で来ているお客さんも結構多くて、ノリがやっぱり違う。東京の人はめっちゃ静かなんですよ」
Yuto「みんな大人しいよな」
Matsumoto「俺ヴォーカルだからよくフロアが見えるんですけど、〈イケてる?〉と思うことがよくある」
Yuto「あるある。ホンマに聴いてくれてるんか?と思ったりとか(笑)」
Matsumoto「もちろん自分たちのライヴが良い時も悪い時もあるんですけど、どちらにしても(反応は)変わらないんで」
Yuto「ホンマにそう」
Matsumoto「自分的には良いライヴだったからまあいいか、と思ってると、ライヴ終わってからお客さんに〈すごい良かったです~〉って言われたりして(笑)。あ、そうなんやな~と思って」
――まあ人それぞれ楽しみ方がありますからね……東京の人はみんなシャイなんですよ(笑)。
Matsumoto「そうそう。だからもうあまり気にしなくなりました。こういう感じなんやなと。関西人はノリがいいとかそういうことではないと思うんですけどね、決して。あと東京は若い子が多い」
Yuto「確かに多いね」
Matsumoto「関西はわりとすごく音楽が好きな年上の人が来ていることが多くて、そういう人たちはノリがいいんですよ。東京は大学生とかが多いので。まあ自分らの音楽がそういう感じ……いわゆるイケイケな感じじゃないというのもあるんでしょうけど」
――タオルを首に巻いて行く感じじゃないですもんね(笑)。
Yuto「たぶん日本の人って、ライヴで盛り上がる=バーン!(飛び跳ねる感じ?)っていう引き出ししかないんじゃないかと思います。いまの若い子には〈踊る〉という概念が、海外と比べると幅が狭い」
Matsumoto「〈踊る〉の定義が違うというか」
Yuto「そうやね。俺らがやっている音楽と、リスナーのなかにある〈踊れるもの〉にギャップがあるというか。だからライヴの時に上手く合わないんだと思います。俺らが作ろうとしているものと、オーディエンスが得ようとしているものが違うから」
――そういうのをいちばん感じるのは、さっき言っていたたくさんのバンドが出るフェスとかそういう現場ですか?
Yuto「そうですね。〈フジロック〉(The fin.は2014年の〈ROOKIE A GO GO〉に出演)の客層はちょっと特殊なのでまた別ですけど、日本のロックが好きな高校生や大学生が集まるイヴェントでは感じます。そこに来ている子たちが〈oi! oi!〉だけじゃない(ノリ方の)引き出しを持てば、俺らももっと受け入れられているだろうけど、そうじゃない現場に立たされた俺らは、すごく難しい戦いを強いられる」
Matsumoto「そうやな。基本縦(ノリ)やからね。でもなんか……文化の違いじゃない?」
――それもそうだし、教育の問題もあると思いますよ(笑)。学校で習うという意味ではなく。
Matsumoto「だって、例えばロビン・シックが去年(2013年)出した曲(“Blurred Lines”)が何週も全米1位になるんですよ。日本だったらあり得ないじゃないですか。幼い頃に自然に耳にできる音楽の種類がまったく違うし。どうしても難しいですよね」
――やはりそのあたりのもどかしさは、両者共にあるんですね。
Yuto「曲を作ってる時は全然関係なくて、自分らが好きなことをやっているんですけど、実際にライヴをして、自分らが外を向いた時に感じる」
Matsumoto「いま立っているステージは俺らとThe fin.とでは違うけど、たぶん同じことは感じてますよね」
――そういうのを目の当たりにしているいま、自分たちでこの状況を変えてやろう、みたいな気持ちはありますか?
Yuto「いや……俺はそこまで思ってないけど(笑)、俺らの音楽をいいなと思ってほしいし、みんながライヴでの楽しみ方を知って、良い音楽がいっぱい生まれるといいな~と」
Ryosuke「最近思うのは、俺らとかYogee New Wavesみたいなバンドが注目されはじめて、それこそKANA-BOONを聴いているような子が俺らを好きになってくれたりすることもあって。それはおもしろい傾向だし、これからどうなっていくんやろと思いますね」
Matsumoto「そこからいろいろな音楽を掘り下げたり、広げていってもらえたらいいよね」
――そうですね、懐を深く持ってほしいというか。
Yuto「でもね……そこで止まりがちなんですよ、きっと。大多数の人は掘り下げるところまではなかなかいかない」
Matsumoto「The fin.はいまいろんなフェスに出て、いわゆるメジャーなフィールドで勝負してるじゃないですか、それってすごく大事だと思うんですよ。つまりアウェイな環境で、自分たちを目当てに来ているわけではない人たちにもイイと思わせられなければ生き残れないと俺は思うし――でもThe fin.がそういう現場で〈戦っている〉と言っていたのはちょっと意外だったけど」
Yuto「ギター・ロック系のライヴ・イヴェントに出たりすることも多いんですけど、俺らがステージに出ていくとザッとフロアが静まって、俺らが終わって別のバンドが出ると、みんな見違えたようにジャンプしてたりして(笑)」
Matsumoto「もはやライヴではなくレジャーやな(苦笑)」
Ryosuke「そういうところでも上手いことバランス取ってやっていけるといいんやけどな」
――初めて観るアーティストのライヴはまず様子見……的な雰囲気になったりしますよね、日本人は特に(苦笑)。いいな、と思ってもなかなか前のめりに行けないとか。黙って聴いていたとしても決しておもしろくないと思っている人ばかりではないのは確かです。
Matsumoto「まあ〈全然わからへんけど、なんか良かったな〉っていう感じで良くない? とりあえず」
Yuto「そうやな。〈なんか良かったな〉っていう印象を残せたらだいぶ違うかも」
Matsumoto「みんなと一緒のタイミングでジャンプして、拍手して、っていうある種の文化があるじゃないですか。そういう環境で育ってきた人が多数やと思うから、なかなか難しい」
Yuto「別のバンドがライヴしているのを観てると、お客さんがホンマに同じタイミングで同じ動きをしていたりする(苦笑)。でも海外のフェスを観てるとみんな動きがバラバラで、それぞれ自分のペースで楽しんでるもんな」
Matsumoto「国民性やな。たぶん(日本では)そういうライヴしか観たことないから、それがあたりまえになっている……っていうのもあるやん」
――大勢で同じ動きをすることが快感っていう気持ちもわかりますしね。
Yuto「以前、ツアー先でクラブへ遊びに行ったことがあるんですけど、そこに来ている人が首にタオルを巻いて、半袖半パンで暴れ回ってるんですよ、J-Rockで。汗かきにきてるっていうか(笑)」
――もうある種のスポーツですね(笑)。DJイヴェントなのに……。
Ryosuke「昔はそんなことはなかったらしいですけどね。最近変わってきたって。クラブはおしゃれをして遊びに来るところだったけど、徐々に変わってきて、いまはおしゃれしてきた服をわざわざTシャツに着替えて、首にタオルを巻いて、汗をかく場になってきたってDJの人が言っていました」
――日本のロックがかかるパーティーではそうなっているんですか……。
Yuto「スーパーカーとかミッシェル・ガン・エレファントがいた時代はまだみんな踊ってたって。いまのような状況になったのは本当に最近らしいです」
――つまり2000年代の前半くらいまでだから、ここ10年くらいの間に変わってきたんですね。Tシャツにハーフパンツに首タオル、というロックのライヴにおける基本スタイルが定着しはじめたのがちょうど90年代後半あたりだったような気がしますし……。
Ryosuke「そう考えると俺らの世代っておもしろいかも。中学生くらいの時にそういう時代になったわけやから」
――でもその一方で、いまThe fin.もそうだし、さっき名前が出たYogee New WavesやPAELLASのような良いインディー・バンドがたくさん出てきて、注目度も上がっている状況だと思うんです。この勢いでどんどんメジャー・フィールドにもガッと入って行けるんじゃないかという予感はしているんですが、皆さん自身はどう感じていますか?
Yuto「確かに注目されてる感はあるよね」
Ryosuke「でもそれがホンマに俺らみたいなバンドに還元されるかっていうと、どうなんやろって思う。やっぱり一瞬のアレ(ムーヴメント)っていうか」
Yuto「注目してくれる音楽好きの人がいっぱいいても、実際はさっき言っていたようなメジャーなフェスやイヴェントに出ると、現状はまだ全然そんなことなくて」
Matsumoto「やっぱりまだまだマイノリティーやな」
Yuto「うん。まだまだこれからかな、と」
Matsumoto「逆にThe fin.やHAPPYとか、俺らがいい音楽をやってるなと思っているバンドが注目されて、メジャーなフィールドに近いところでやっているからこそ、俺らみたいなインディーのバンドたちはがんばり時で、いまがんばらないと波に乗るというか、波が出来る前に終わってしまうと思うんです。他のバンドも含めてみんなが本気出してやっていかないとマスには届かないんでね。でも徐々に届くようになってきているとは思うんです。俺らがすごいと思っていたmitsumeが〈JAPAN〉に載った!とか」
Yuto「うん、そう感じる時は多くなってるよな、〈お、このバンド出てきたな!〉と思ったりすることもあるし。だから俺らがデカいステージに立った時に、俺らを観ていいなと思ってくれたお客さんが今日のようなイヴェント(The fin.の自主企画イヴェント)に来て、自分たちが呼んだ良いバンドのライヴも観てくれたらいいなと思うし。チャンスはいまたくさんあって、それをどう掴んでいくか、どう形にしていくかが大事なんかなと」
Matsumoto「俺らは東京に出る前に、いまのインディー勢がアンダーグラウンドに留まらなくなっているのを感じていたし、そういうのとは別にThe fin.やHAPPYが東京で良い形で活躍しているのを見て、これはもう(東京に)行くしかないと思ったんですよね。ここ1~2年でがんばらんとあかんと思って、タイミング的に。さらに俺らが東京に出てきてからも状況は変化していて、一緒にやっていたバンドに人が集まるようになってきたりとかもするし。もともと東京で活動していたバンドはそこまで実感がないままやってたかもしれないけど、そういった目に見える形で状況が変わってきてる」
――なるほど。
Matsumoto「でも俺らも含めてバンドの〈地力〉がまだまだないと思うんですよ、実力、基礎体力がない。だから注目してもらって、もしポンと持ち上げられても潰れちゃうやろなって思うんです。一方で、その勢いに乗って自分らのハードルを上げて、そこで勝負するのもありやろうし……どっちがいいかはわからないけど。2000年代(前半にUK/欧州を中心に盛り上がった)のロックンロール・リヴァイヴァルの時に、シングル1~2曲がバズってメディアに持ち上げられたけど、地力がないから結局長続きしなかったバンドがいっぱいいたじゃないですか。そういう感じになっちゃう可能性もある」
――あ~、わかりやすい例えですね。
Matsumoto「でもライヴハウスで叩き上げられてきた人たちは地力があるじゃないですか、やっぱり。でも正直俺らってそういう叩き上げではないから、The fin.が経験しているようなアウェイな現場に行ってもお客さんに〈良かったな〉って思ってもらえるように、地力をつけていかないと」
Yuto「俺らは急に注目されるようになって、ライヴ経験もそんなにないし、ドラマーなんて叩きはじめて2年くらいなのにさいたまスーパーアリーナのステージに立つことになったりして、もうあり得ないんですけど(笑)、でもどうにかしないといけない。俺らはそういう場所に立たされちゃったからやるしかないんです。そこの大変さは本当にある。失敗もめっちゃするし、重圧も感じる。でも僕、高校生の頃からアークティック・モンキーズが好きでずっと見てきているんですが、彼らも同じように十分な下地がないままデビューのタイミングでバーン!と持ち上げられちゃったバンドですよね。だけど潰れることなくいまだに第一線で活躍している。そういう人たちもいるから、俺らももうがんばっていくしかないなと」
Matsumoto「でもThe fin.はさ、ポンて上がった時にある種の覚悟が生まれるやん。でも俺らはまだそういう状況に放り込まれていないから覚悟を持つのがなかなか難しい」
Yuto「そうやな」
Matsumoto「でもいつでも行けるように覚悟を持ってやっていかないといけないなと思って。まだ始めたばっかりじゃんとか、まだ若いんだしとか、そんなの言ってられないので、自分らのハードルを上げて、もっと上でやっている人らに追いついて抜かすくらいの実力を持たないと勝負できへんなと俺は思います」
――The fin.は同世代のインディー勢のなかではちょっと先を走っている状況だと思うんですが、いまもっと高みをめざしているバンドたちを引っ張っていきたい、といった気持ちはあるんですか?
Yuto「インディーを背負っているわけではないので、そういうのは全然ないんですけど(笑)、単純に良い音楽をやっている人たちとは一緒にやりたいし、そういう人たちには上がってきてもらいたいとは思いますけど」
Ryosuke「自分らのことをがんばって、結果的に他のバンドも一緒に上がっていければおもしろいし」
Yuto「そんな……人のことを考えている余裕は、ない(笑)」
PROFILE/The fin.
Yuto Uchino(ヴォーカル/シンセサイザー)、Ryosuke Odagaki(ギター)、Takayasu Taguchi(ベース)、Kaoru Nakazawa(ドラムス)から成る4人組。2012年に兵庫で結成。対談中にもある通り、ライヴよりも楽曲制作を中心にバンドのSoundCloudで音源を発表。2013年に一部店舗とライヴ会場限定で自主制作EP『Glowing Red On The Shore EP』をリリース、その後2014年に未発表曲2曲を追加した全国流通盤として発表する。上京後はライヴ出演の機会が増え、〈VIVA LA ROCK〉〈フジロック〉〈RISING SUN〉などのフェス/イヴェントにも出演。2014年12月にファースト・アルバム『Days Of Uncertainty』をリリースしたばかり。
今後の予定は、2015年1月18日(日)に下北沢THREEにてYogee New Wavesらを招いた自主企画イヴェント〈Is This It? vol.2〉を開催。そして2月からはオーストラリアのラスト・ダイナソーズが帯同しての最新作のリリース・ツアーをスタートする(詳しくは以下)。その他、最新情報はこちらへ。
〈The fin. "Days With Uncertainty" Release Tour〉
2月21日(土)東京・新宿 MARZ
2月22日(日)大阪・梅田 ZEELA
2月23日(月)福岡・KIETH FLACK
2月24日(火)広島・4.14
2月25日(水)愛知・名古屋 CLUB ROCK'N'ROLL
PROFILE/PAELLAS
Tatsuya Matsumoto(ヴォーカル)、Satoshi Anan(ギター)、Masaharu Kanabishi(ベース)、Takahiro Komatsu(ドラムス)から成る4人組。2009年に大阪で結成した前身バンドを経て、2012年に現編成に。同年7月にネット・レーベルのAno(t)raksより初EP『Following EP』を、11月にDead Funnyよりファースト・アルバム『Long Night Is Gone』をリリース。翌2013年にはシングル“Sugar”を発表。今年に入ってユナイテッドアローズの映像企画〈NiCE UA〉に“New Balance”を提供。このたびライヴ会場限定/一部店舗限定の7インチ・シングル“Cat Out”をリリース。