Ryan Keberle's Collectiv do Brasil/Photo :Thadeu Lenza.

ジョアン・ドナートの美学を現代に響かせる、ライアン・ケバリーのブラジリアン・ジャズ

 ニューヨークを拠点にコンテンポラリー・ジャズの中心で、活躍しているライアン・ケバリー。彼が、2017年にブラジルのサンパウロに渡り、同地で活躍するピアニスト、フェリペ・シルヴェイラと結成したのが〈Collectiv Do Brasil〉である。愛してやまないブラジリアン・ミュージックを演奏したいケバリーと、アメリカの一流ミュージシャンとジャズをプレイしたいシルヴェイラらのコラボレーションは、ミルトン・ナシメント、エドゥ・ロボ、イヴァン・リンスをオマージュした3枚のアルバムをリリースし、コンテンポラリー・ジャズとブラジリアン・ミュージックを絶妙にブレンドした、唯一無二の音楽を成熟させてきた。

RYAN KEBERLE’S COLLECTIV DO BRASIL 『Here Is Donato!』 Groove Monkey/Alternate Side(2026)

 そのケバリーとシルヴェイラたちに、新たにパーカッショニストのゲゲ・メデイロスが加わり、今回挑むのは、ブラジルのレジェンドの中でも、1959年から約13年間アメリカで活動し、ラテン音楽、ファンクにも接近しジャンルを越境したアーティスト、ジョアン・ドナートである。MPB、ジャズ、サンバ、ボサノヴァ、アフロ・キューバン・リズム、ボレロ、ファンクを自在に溶け合わせ、豊かなハーモニーと親しみやすいメロディ、そして軽やかさに満ちたジョアン・ドナートの音楽を、Collectiv Do Brasilが見事に彼らのオリジナル・サウンドに昇華した。ケバリーは「私たちが目指したのは、ドナートの音楽を再解釈したり、現代的なものへとアップデートしたりすることではありません。むしろ、音楽の内側にじっくりと身を置き、その論理、フィーリング、そしてドナートならではの明快さと向き合うことなのです」と語っている。取り上げているのは、“Lugar Comum”、“Até Quem Sabe”や、“Ê Menina”など、1970年代の代表曲から、マニアックな選曲、そしてケバリーのオリジナルのセルフ・カヴァーが1曲、ドナートの曲たちに溶け込んでいる。ケバリーたちは、けっして換骨奪胎を図るのではなく、ドナートの美しいメロディを愛で、グルーヴに身を任せ、その中から新たなハーモニーやリズム、即興の可能性を探求している。そして生まれた音楽は、ドナートへの深いリスペクトとともに、時代を超えて現代でも鮮やかに響いている。