BETWEEN OR BEYOND THE BLACK FOREST
〈JAZZ最前線〉から辿るMPS
ドイツの黒い森で生まれたジャズ・レーベル、MPSの作品が次々にリイシューされている。多種多様なスタイルで迫る作品の数々は、あなたがジャズやジャズ・レーベルに抱いているようなイメージを鮮やかに裏切るかもしれない……
ジャズはまだ発見され尽くしていない……そんなヴィジョンから過去のレガシーを現代の輝きに変えてきた試みがウルトラ・ヴァイヴの推進する〈JAZZ最前線〉のプロジェクトである。そのシリーズが今年に入って意欲的にリイシューしているのがドイツの名門ジャズ・レーベルであるMPSの音源だ。縁深いオスカー・ピーターソンの作品などが有名なレーベルだが、その向こうには多種多様なジャズがまだまだ発見されるのを待っている、というわけである。
もともとMPSは西ドイツ(当時)南西部のシュヴァルツヴァルト地方フィリンゲンで68年に設立されたジャズ専門のレコード・レーベル。MPSという名称はMusik-Produktion Schwarzwald(シュヴァルツヴァルトの音楽プロダクション)の頭文字を取ったものだが、この〈シュヴァルツヴァルト〉という単語が英訳すると〈Black Forest(黒い森)〉になるということで、そんなイメージもレーベルの印象に寄与しているかもしれない。
創立者のHGBSことハンス・ゲオルク・ブルンナー=シュヴェルは61年からSABAという電機メーカーのマネージング・ディレクターを務めていた人である。その社内でレコード・レーベル部門が設立された際に責任者を務めた彼はプロデューサーとしてレコード制作を開始。そこから68年に独立を果たして設立したのがMPSというわけで、SABAに残された5年分のカタログも現在はMPSの作品として扱われている。
本場USの人気者たちのドイツ録音作などを手掛けるのと同時に、ドイツだけでなく欧州各国の多彩なミュージシャンたちがレコーディングしてカタログを豊かにしていったMPSは、70年代に入ると北米や日本のジャズ市場にも裾野を拡大。今回のページで紹介した面々以外にもジョージ・デュークやシンガーズ・アンリミテッド、ホルスト・ヤンコフスキー、ジョー・ザヴィヌル、リー・コニッツらとレーベル契約を結び、オスカー・ピーターソンやカウント・ベイシーのような重鎮たちや、白木秀雄、山下洋輔ら日本人ミュージシャンともリンクしている。そうした支持の広がりを支えたのが録音の良さで、HGBSがエンジニアとして腕を振るった自社スタジオでの音源は〈MPSサウンド〉と呼ばれる重厚かつ透明感ある音質で高く評価された。
そんなオーナー/プロデューサーのHGBSが2004年に亡くなるとレーベルの動きも停止するが、それから10年を経た2014年には運営を再開。カタログ管理だけでなく、新たにチャイナ・モーゼスらの新録作も発表して現在に至っている。今回は〈Season 3〉の登場をきっかけに、過去シーズンで出たカタログ作品を一気に楽しんでみたい。きっと驚くような作品があるはずです。
Season 1-2
〈SEASON 1〉では〈New Discovery 邂逅〉と題してクラブ・カルチャーとの繋がりにフォーカスし、〈SEASON 2〉では〈Across the Jazz 覚醒〉を掲げてさらに自由でジャンルレスなジャズの奥行きを探求!

〈SEASON 1〉の看板となった日本独自企画盤は、MUROの〈DIGGIN’〉シリーズに名を連ねたクールなDJミックス作品。サンプリング全盛期の90年代ヒップホップで使用されてきた大ネタから知られざるラテン・ジャズまで、ディグの王に相応しい手つきを見せつける。ジャケのオマージュも◎。

〈SEASON 1〉の看板となったもうひとつの日本独自企画盤は、ジャズやソウルへの愛と敬意を絶妙なビートメイクに落とし込むDJ Mitsu the Beatsのセレクション作品。ジョージ・デュークらのネタ人気曲も交えつつ、現代の耳でコンパイルすることでグルーヴを奏でるような選曲は流石の一言だ。

DJプレミアやピート・ロックら大物ビートメイカーたちがこぞってサンプリングした“Love And Happiness”や“Let’s Stay Together”のカヴァー収録もあり、長らくクラブ・シーンから愛されてきた、アーネスト・ラングリン参加のメロウなジャマイカ録音作。これが全世界待望の初CD化となった。

ウェザー・リポートなどで活躍し、クロスオーヴァー/フュージョン界隈で人気を博したドラマーの、サンプリング・ソースやレア・グルーヴ方面でも名高いMPS録音アルバム。ゲイリー・バーツの参加もあり、同時代のファンク・サウンドに傾倒した“Master Funk”などはタイムレスな魅力を放つ。
これが日本初CD化となった佳曲集! デトロイトの女性シンガー、ディー・ディー・マクニールがスイスのバリー&ザ・ムーヴメンツと制作した唯一のアルバムで、モータウンのバック・コーラスも務めてきた主役の力強い歌声が映える“Get Out Of My Life Woman”などレア・グルーヴ満載だ。

日系アメリカ人ジャズ・ドラマーのタナ・アキラも在籍していたサンフランシスコのジャズ・フュージョン・グループによるセカンド・アルバム。ミステリアスなヴィブラフォンをあしらった演奏が当時の西海岸ムードを表現していて、サイケデリック系のリスナーにも響くはず。これが世界初CD化!

50年代にサラ・ヴォーンらと共演したビバップ時代のクラリネット奏者が、いわゆるワールド・ミュージックに傾倒してインドネシアのミュージシャンたちと共演した意欲的な実験作。ジャズマンのコンピで有名になった“Gambang Suling”など、オリエンタルなサウンドの再評価も促される一枚だ。
Season 3
〈Frontiers of European Intelligence 回帰〉をテーマにポスト・クラシカルや電子音響、アンビエントなどと共鳴するヨーロッパならではの知性を研ぎ澄ませた作品群を紹介!

〈SEASON 3〉の看板となる日本独自企画盤は、DJ生活40周年を突破したレコード番長こと須永辰緒が、みずからの定番コンピ・シリーズ〈夜ジャズ〉を冠して編んだ極上のセレクション。ダスコ・ゴイコビッチのピアノ・ジャズ名曲“Madison Walk”など世界初CD化/日本初CD化の音源も収め、上質な夜の心地良さを約束する選曲は唯一無二!

サックス奏者のデクスター・ゴードンとトロンボーン奏者のスライド・ハンプトンが、タイトル通りにデンマークはコペンハーゲンのメトロノーム・スタジオで吹き込んだ力強いパフォーマンスの記録。ヨーロッパ滞在中のシチュエーションが米国ミュージシャンのケミストリーに絡む新たな触媒となって、スケールの大きなプレイを引き出したのか。

後年の再評価を受けて過去作のカルト的な支持が高まっているカンザスシティ出身のマルチ・プレイヤーが、ラリー・ヤングやウディ・ショウ、ビリー・ブルックスらを引き連れてドイツのSABAスタジオで録音したファースト・アルバム。米国モーダルの雄が欧州ジャズと邂逅した味わい深い出来映えだ。

ネイサン・デイヴィスがクインテットでMPS録音した2作目。〈時代を先取りしすぎた〉とも評されるスピリチュアル・ジャズの名盤で、カーメル・ジョーンズ(トランペット)や欧州ジャズ黄金期を代表するケニー・クラーク(ドラムス)、フランシー・ボラン(ピアノ)がサポート。ここで日本初CD化が実現した。

60年代にジョン・コルトレーンの黄金カルテットで一角を担ったドラマーのエルヴィン・ジョーンズが、みずから率いたユニット名義で発表した最初のアルバム。コルトレーンの意志を継いだメランコリックな“Little Lady”など発掘系の話題曲も収録されており、このタイミングでめでたく世界初CD化。

ジェフ・ギルソンことジャン・フランソワ・キエヴルーが指揮するフランスのビッグバンドによるモーダル・ジャズ作品で、フランスの著名なサックス奏者ジャン・ルイ・ショータンらが参加。サン・レモ音楽祭のために作られた組曲は90年代からジャイルズ・ピーターソンが選曲していたことでも知られる。

スペインはバルセロナの生んだ盲目のピアニストが、ペーター・トルンク(ベース)、アル・トゥーティー・ヒース(ドラムス)とのトリオで重心の低いグルーヴを描いた一枚。オープニングの自作曲“Blues For Nuria”は愛娘に捧げたもので、その他のスタンダードでは“Speak Low”での斬新な解釈を披露する。シンプルにして根源的なジャズの美だ。

LA生まれのピアニストが西ドイツのHGBSを訪れて吹き込んだ、代表作とも絶賛される一枚。同地のエバーハルト・ウェーバー(ベース)、クラウス・ワイス(ドラムス)とのトリオでレコーディングに臨んでおり、みずからの名を冠した“Hamp’s Blues”と地名から名付けた“Black Forest Blues”を並べてアメリカとヨーロッパの呼吸を見事に融和している。

サックス奏者のジョー・ヘンダーソンが豪華なサイドメンたちを率いて作り上げた素晴らしいアコースティック・カルテット作品。ヘンダーソンのテナーとチック・コリアのピアノが〈互いを映し合う鏡〉のように対峙し、ロン・カーターの深いベースとビリー・ヒギンズの軽快なドラムスが静かな共鳴空間のなかで穏やかに響き合っている。

ドイツのヴィブラフォン奏者であるギュンター・ハンペルがクインテット編成でSABAに吹き込んだファースト・アルバム。後年クラブ・ジャズの文脈から再評価を集めることになったモーダル・ジャズのタイトル曲や“Our Chant”など、欧州ジャズらしい品格と知性に溢れた傑作だ。

〈SEASON 2〉の目玉となった日本独自企画盤は、大小さまざまな場を掌握するパーティーDJのHIKARUによるライヴ・ミックス作品。MPSの黒い森に眠るスピリチュアルな音像やサイケデリックな音塊を自由な発想でオール・ミックスしていて、発想そのものにもトバされるユニークな必聴盤だ。

シュトゥットガルト出身のピアニストが当時のフラワー・ムーブメントに呼応してサイケデリックなジャズ・ロックに取り組んだ、69年産らしい一枚。ポップさと破天荒な実験精神が同居した“Take Off Your Clothes To Feel The Setting Sun”など、ジャケのヤバさを裏付ける異色の名盤だ。

こちらは上掲作に先駆けたウォルフガング・ダウナーのSABA録音作。ジャン・リュック・ポンティやゲルト・ドゥデック、エバーハルト・ウェーバーら先鋭的な面々が音と音で応答し合うような爆発的なフリー・ジャズ作品。この時代ならではの即興性が極限まで追求された前衛的な聴き心地に酔わされる。

現ボスニア・ヘルツェゴビナ出身のトランペット奏者、ダスコ・ゴイコヴィッチがスイスやオランダ、アメリカといった多国籍の演奏家たち……文字通りのインターナショナル・クインテットを率いてミュンヘンでライヴ録音した名品。人気の“Madison Walk”などを収めてヴァイナルも高騰していたが、これにて世界初CD化となった。

ロンドンで都会的な感性を養ってきたマンチェスター出身のピアニストでECM作品も支持されているジョン・テイラーが、クリス・ローレンス(ベース)、トニー・レヴィン(ドラムス)を迎えた英国産トリオでMPSのスタジオに臨んだ一枚。緻密な旋律に眼を大きく見開いて意識を委ねれば、モーダルで繊細な欧州ジャズの知性が感じられる。

デトロイト出身のピアニスト、ローランド・ハナが英国のデイヴ・ホランド(ベース)、スイスのダニエル・ユメール(ドラムス)と挑んだトリオ作品。エレピも使い分けるハナの姿はエレクトリック時代にも呼応したもので、スミフン・ウェッスン“Shinin...Next Shit”のネタとしても知られる“So You’ll Know My Name”の昂揚感たるや! これも世界初CD化。

これまたカラフルな蛇のジャケが中身を物語るような……ニュージーランド出身のピアニストであるマイク・ノックが、短命に終わったジャズ・ロック・グループであるフォース・ウェイのメンバーとセッションした唯一のアルバムだ。レア・グルーヴ人気の“Space Bugaloo”などトリッピーな逸曲揃い!

「死刑台のエレベーター」のサントラでマイルス・デイヴィスと共演したことでも知られるフランスのバルネ・ウィランが、欧州の先鋭ミュージシャンと組んでティモシー・リアリーに捧げたというサイケデリックな怪作。ビートルズやシュープリームスのカヴァーをサイケ・ロック風味で鳴らしている。

ドイツのシンガー、ウド・リンデンベルグが当時アメリカで人気だったシカゴやBS&Tなどのブラス・ロック・サウンドに触発されて結成したクロスオーヴァーなジャズ・ロック・プロジェクト。ホーン・セクションがファンキーな“Never Felt So Free”を筆頭にグルーヴィーな楽曲が揃っている。

新主流派として欧州フリー・ジャズの最前線にいたロルフ(クラリネット/サックス)とヨアヒム(ピアノ)のキューン兄弟によるSABA録音の傑作。兄弟の激しい即興にカールハンス・ベルガーのヴィブラフォンも交わり、実験をよりアブストラクトな地平へと誘う。エレクトロニカ的な感触もある夢幻盤。

50年代にマイルス・デイヴィスのクインテットを経て自身のトリオを結成するも、60年代の大半は音楽業界を離れていたダラス出身のピアニスト、レッド・ガーランドがカムバックを果たしたMPS録音作。ジミー・ヒース(サックス)、ペック・モリソン(ベース)、レニー・マクブラウン(ドラムス)と組み、衰えないタッチで珠玉のスタンダードを聴かせる。

スイス出身のピアニスト/ヴォーカリストであるエルジー・ビアンキが、夫のシロ・ビアンキ(ベス)、チャーリー・アントリーニ(ドラムス)と吹き込んだスウィーテストなドイツ録音作。絶品のスタンダードを品のある室内楽的な編成と澄んだ歌声で聴かせ、たおやかな美意識を空間に注ぐ。人気のジャズ・ボッサ・ナンバー“Little Bird”もここに収録。

英国生まれのアメリカ人シンガーで女優のアニー・ロスがサックス奏者のポニー・ポインデクスターと組んで、66年にフランクフルトのジャズ・フェスでライヴ録音した一枚。レオ・ライト(サックス)やカーメル・ジョーンズ(トランペット)を含むアメリカとドイツの精鋭たちがベルリン・オールスターズとしてバックで熱量の高さを見せている。

バップからフリー・ジャズ、ワールド・ミュージック、室内楽まで多様なアプローチが身を結んだロルフ・キューンの力作。弟ヨアヒムはもちろん、フィル・ウッズ(サックス)やナナ・ヴァスコンセロス(パーカッション)らが実験空間に参入。異国情緒も注いでジャズの向こう側のレフトフィールドへと導く。

これまたロルフ・キューンの作品だが、本作は電化マイルスからキング・クリムゾンにまで刺激を受けたジャズ・ロック~フュージョン作品。持ち前のフリーフォームな前衛性とファンキーでタイトなブラスが融合した聴き心地は唯一無二。北斎をSF化したようなジャケの奇妙さそのままの快感が響く。

カリフォルニアのフィリピン系アメリカ人姉妹が組んだヴォーカル・クインテットの唯一のアルバム。ジョージ・デュークがプロデュースにあたり、ソフト・ロックやサンシャイン・ポップ方面からも支持されている佳作だ。“Cantaloupe Island”などスタンダードのカヴァーも素晴らしい。

LAの鍵盤奏者がMPSに残したウェストコースト・マナーのフュージョン・アルバム。パウリーニョ・ダ・コスタらが参加したハリウッド録音作で、ロレイン・フェザーのヴォーカルをフィーチャーしたブラジリアン・フュージョン“See You Later”などはフリー・ソウルとしての支持の高さも納得だ。
