稀代のカリスマ・プロデューサー、マンフレート・アイヒャーが創設したヨーロッパを代表する現代音楽レーベル。他のレーベルとは一線を画す、その透明感のあるサウンドと澄んだ音質、洗練された美しいジャケット・デザインが多くのファンを魅了し、キース・ジャレット『ザ・ケルン・コンサート』(75年) やチック・コリア『リターン・トゥ・フォーエヴァー』(72年)、パット・メセニー『ブライト・サイズ・ライフ』(76年) など、数多くのジャズの名盤を輩出した。2025年に設立55周年を迎えたが、今なお年間20作以上もの新譜を録音し続け、音楽の追求をしている最も活発なレーベルの一つである。
Everything Jazz + Nothing Jazz = ECM
昨年、ユニバーサルが新たに立ち上げたジャズ・キャンペーン・タイトル〈Everything Jazz〉は、〈ジャズ的なものすべて〉という意味。すでにヴァーブ、ブルーノートなどのカタログからそれぞれ50タイトルが選ばれて、UHQCD+グリーン・カラーレーベル・コート仕様の高音質に仕上げられたアルバムが店頭を賑わしてきた。今回、キャンペーンの第五弾に選ばれたのはECM。これまでキャンペーンが取り上げてきたのはジャズのハードコアを形成してきたNothing but Jazz的なラインナップを誇るジャズレーベルだったが、ECMは、ジャズの伝統よりもその手法、インプロヴィゼーションに重きをおいて「書かれた音楽と即興された音楽」のカタログを制作してきた。しかしECMほど、このキャンペーン・タイトルのコンセプトが効果を発揮するレーベルはないだろう。ECMは常にEverything Jazz、Nothing Jazzの本質を探り続けてきたのだ。レーベルはジャズが切り取ってきた音楽領域を押し広げ、都度書き込まれる境界線を自ら溶かし続けてきた。その記録がこの50枚に聞こえ、いかにジャズが音楽を侵食してきたのかが見えてくる。
X世代は、そんなのオジさん、オバさん達の聞き方だと言うかもしれない。だけど、ジャズのオールドスクーラーは、このレーベルの新譜のリリースを手に取っては、これってジャズ?、これもジャズだよね?を繰り返し、挙句、いい音楽はすべてジャズなんだな!という極論をこのECMによって正当化してきた。
最近、制作の舞台裏が映画化されて話題となったキース・ジャレットの『ケルン・コーサート』はそんな主張に決定的な口実を与えた一枚だ。ソロ・ピアノのアルバムとして驚異的なセールスを記録し、ECMが主張する即興音楽がどんなものかを世界に知らしめた。そしてこのアルバムの前景に、キース自身の『フェイシング・ユー』があり、チック・コリアの『チック・コリア・ソロ Vol. 1 & 2』があったことも知って、当時、この人ジャズっぽいね、なんてこれからは簡単には言えないななんて感じたし、ジャズってローカルな音楽に感じた。
さらにギタリスト、パット・メセニーの登場によってジャズっぽさに新たな普遍性が加わる。『ブライト・サイズ・ライフ』を皮切りにメセニーが新譜をリリースするたびに、ジャズに新たなアメリカン・テイストが加わった。ブルースよりもフォーキーな要素が増した。それはキースやテナー・サックス奏者のチャールス・ロイド(今回ブラッド・メルドーが参加した『ウォーター・イズ・ワイド』が選ばれた。)の音楽に、すでに刷り込まれていたボブ・ディラン風音楽の要素でもあった。ラルフ・タウナーの『ソロ・コンサート』もそういう印象をもった一枚だったし、レーベルの透明度の高いサウンド・イメージを定着させた。
70年代のジャズは、ECMが制作してきたアルバムによって、様々なサウンドが注入され、その言葉の指す音楽領域はとても広大で、肥沃になった。その源泉を辿ればECMが寄り添って制作してきたアート・アンサブル・オブ・シカゴの、類まれな集団即興が現出するマジック・リアリズム的に開かれた音楽空間が見えてくる。エグベルト・ジスモンチ(久しぶりに来日!)とパーカッショニスト、ナナ・ヴァスコンセロスの『輝く水』は、彼らの世界観を別な形で実現した。二人が紡ぐアマゾンの湿気をたっぷり含んだサウンドが世界に与えた衝撃は、いい音楽はジャズだと言っていい口実を与えるに十分すぎたと思う。
80年代に入るとECMはジャズ回帰を宣言するかのようなアルバムをリリースする。キース、ゲイリー・ピーコック、ジャック・ディジョネットのトリオによる『スタンダーズ Vol. 1(& Vol. 2)』だ。スタンダードを演奏するということでスタンダーズと名付けられたトリオはジャズで取り上げられてきた楽曲に新たな解釈を試みるというより、アメリカの優れたソングに取り組み、その魅力を再発見してきた。彼らの〈即興演奏によるアメリカン・ソングブック〉は、ECMならではのジャズへのアプローチを提示した。そしてカーラ・ブレイの『ライヴ!(艶奏会)』は、ビッグバンドを駆使して、教会音楽の要素を強調したソング・ブックを編集する。今回選盤された50枚は新大陸が産んだジャズ・シン大陸のボーダレスな広がりをあらためて感じさせる。
LIVE INFORMATION
Egberto Gismonti & Daniel Murray Japan Tour 2026
2026年5月24日(日)青森・八戸市公民館
2026年5月26日(火)東京・渋谷さくらホール
2026年5月27日(水)東京・せたがやイーグレットホール
2026年5月29日(金)福岡・福岡市立西市民センター
https://shalala.co.jp/works/868
RELEASE INFORMATION
♪歴史上に燦然と輝く名門レーベルから名盤200タイトルを厳選、発売中!
第1弾:Verve編
第2弾:Universal編(Impulse!、Decca、EmArcy etc.)
第3弾:Concord編(Riverside、Prestige、Contemporary etc.)
第4弾:Blue Note編
Everything Jazz公式HP:https://www.everythingjazz.jp/everythingjazz-catalogue/