
コロナ禍で決行された地元フロリダでの最期のライヴ・パフォーマンス
長いあいだにわたってジャズ界のトップに君臨し、限りなく豊かな実りをもたらしてくれたピアニスト、チック・コリアが世を去ったのは2021年2月のことだった。チックがのこした素晴らしい業績の数々は、いまなお新たに発見されてリリースされ、人々に感動を与え続けているが、そんなチックが死の4か月前に繰りひろげた2日間にわたるソロ・ライヴからベスト・テイクを集めたものが 『フォーエヴァー・ユアーズ~ザ・フェアウェル・パフォーマンス』としてリリースされることになった。場所はフロリダ州、チックの自宅のあるタンパ近くの街、クリアウォーターにあるルース・エッカード・ホール。おりからコロナによるパンデミックの頃で、この日は会場の大ホールでなくロビーにステージを設け、客席の間隔を開けるなど最大の配慮をした上で200人ほどの観客の前でライヴ演奏がおこなわれた。

チック・コリアがソロ・ピアノによる表現に個性を確立していったのは70年代の初め頃のこと。以来、折に触れてソロ・パフォーマンスを披露してきたのだったが、やはりパンデミックの中で、このコンサートに賭ける思いは特別なものがあったのだろう。彼の指先からロマンティックな香気がこぼれ出て、どこまでも膨らんでゆくような美しいソロ・ピアノ演奏ばかり。瑞々しいタッチからはプレイする喜びがストレートに伝わってくる。オリジナル曲“アルマンドのルンバ”から始まって、彼が愛するモンクとバド・パウエルのオリジナル曲やビル・エヴァンスの“ワルツ・フォー・デビイ”などを挟み、キャンバスに絵を描くように書き綴ったという小品集“チルドレン・ソング”へと続いてゆく流れは、チックというミュージシャンが歩んできたキャリアを俯瞰するようでもある。きわめてパーソナルでありながら豊穣な響きに満ち溢れているチック・コリアのソロ世界。あらためて79才で亡くなったチックの死が悔やまれる極上のラスト・パフォーマンスである。