山下達郎にとって通算3作目となるライブアルバム『JOY 2』が現在大ヒット中だ。ディープなタツローファンはもちろん、近年フェスなどを通して彼のライブを初めて目撃したという若いリスナーをも満足させる本作を、評論家/音楽ディレクターの柴崎祐二に聴き込んでもらった。 *Mikiki編集部

山下達郎 『JOY 2』 ワーナー(2026)

 

2010年のライジングサンを契機に〈タツロー主義者〉へ

私は1983年の生まれである。当然、“RIDE ON TIME”でのブレイクを経てニューミュージック界のトップアーティストとして新時代を切り開いていた頃の山下達郎の姿を見知っているわけではない。いわば〈後追いファン〉の一人なのだが、そういう私が、なぜ彼の音楽に魅了されるに至ったのだろうか。その理由としては、主に2つの要因があったように思う。

一つは、件のシティポップリバイバルが盛り上がりを迎える少し前の時期――具体的には2010年前後に、周囲のレコード好きやDJたちの間で、彼が発表した数々の作品に対する再注目が集まり、同様に私も、ダンスミュージック〜クラブミュージック的な視点からそれらを好むようになったという経緯があった。

もう一つ、同じ時期、ある野外フェスティバルの現場で、初めて彼のライブ演奏に触れる機会があったのも大きかった。忘れもしない2010年8月14日。北海道の〈RISING SUN ROCK FESTIVAL〉に山下達郎が登場し、若いファンが多く混じる大観衆を前に29年ぶりの野外ライブを行ったのだった。

その演奏は、端的にいってショックだった。いやはや本当にすごかった。普段は比較的小規模で、いい意味でも悪い意味でもアマチュアリズムを良しとする雰囲気のあったインディーズ系の現場に慣れ親しんでいた自分にとって、小笠原拓海(ドラムス)、伊藤広規(ベース)、佐橋佳幸(ギター)、難波弘之(キーボード)、柴田俊文(同)、土岐英史(アルトサックス)、国分友里恵(コーラス)、佐々木久美(同)、三谷泰弘(同)という鉄壁の編成(+スペシャルゲストの竹内まりや)によって披露されたその演奏と、彼らをリードする山下の歌唱/演奏は、まさに最高品質のプロフェッショナルなライブエンターテインメントと称するべきものに感じられた。

あれ以来、私と同世代か、あるいはもっと下の世代の仲間たちが抱く〈山下達郎〉というアーティストに対するイメージは、ガラッと変わったように思う。妥協なき一流のレコーディングアーティストであると同時に、何よりもライブパフォーマーとして比類なき次元に達した先達――。僕たちはすっかり〈タツロー主義者〉へと鞍替えし、折りに触れてコンサートのチケット確保に一喜一憂するようになったのだった。

 

生のロングセットを眼前で体験しているようなライブアルバム

新しいライブアルバムが発売されるらしいという噂は、山下本人が予告めいた発言を度々繰り返してきたこともあり、かねてよりファンの間では半ば公然の話題として浸透していた。1980年代のツアー音源から抜粋した『JOY』(1989年)を聴くことで、折々のツアーのチケットを入手しそこなった憂さを晴らしてきた者としては、その前作から37年の時を経て登場した今作『JOY 2』は、単に〈待望〉というだけでは足りない大きな意味を持つアルバムだといえる。

山下達郎 『JOY』 MOON/ワーナー(1989)

周知の通り、山下は、1990年代半ばからの10年ほど、バンドの運営の問題など様々な事情によってツアーを休止していた期間がある。その後新たにバンドを再編してツアーを再開し、以来常にブラッシュアップを重ねながら公演を重ねてきた。上述した〈RISING SUN ROCK FESTIVAL〉への出演もまさにその最中の出来事だったわけだが、定期的に開催されるツアーの日々を経て、バンドのアンサンブルはますます緊密かつしなやかに強化されていくことになった。

本作『JOY 2』には、まさしくこの〈第3期〉山下達郎バンドが、2008年から2025年の丸18年間に積み重ねてきた600を超える(!)公演から厳選された38トラック+αが収められている。何事にも完璧を期す山下のこと、その選定作業も相当な時間と手間がかけられていることは容易に察されるし、実際に、どれもこれもが刮目すべき名演揃いとなっている。

DISC 1は、“SPARKLE”や“僕らの夏の夢”、“土曜日の恋人”、“風の回廊(コリドー)”などのライブ定番曲を中心としたレパートリーが、DISC 2、3はかねてよりファンに人気の高い過去の名曲や近年のリリース曲、あるいはライブでの演奏機会が限られていたレア曲までもが揃っており、実にバランスの良い選曲となっている。“BOMBER”〜“SILENT SCREAMER”のメドレーや、古今東西の様々な名曲を織り込んだ“蒼氓(そうぼう)”など、ライブ録音ならではの魅力も満点で、その高品位の録音・編集・整音も相まって、あたかも生のロングセットを眼前で体験しているような感覚を味わわせてくれる。

一方で、定期的にバンドの演奏に触れてきたファンならば、佐橋佳幸に替わって参加した鳥山雄司のギターや、土岐英史に替わって参加した宮里陽太のサックス、更には、ハルナとENAが加わった現在のコーラス隊の歌唱など、個別の演奏の差異とその個性をじっくりと味わってみるのも楽しいだろう。また、初回限定盤付属のBONUS DISCには、既発シングル収録のライブ音源の新ミックス版から“LET’S DANCE BABY”のメドレー箇所をエディットしたトラックまで合計9曲が収められており、相変わらずマニアへの目配せも万全だ。

 

山下達郎バンドは今なお深化を続けている

それにしても、改めて驚かされてしまうのは、今や大ベテランの域に入って久しい山下と、彼が率いるバンドの演奏が、連綿と続くツアーの日々を経て、今もなお深化を続けているらしいという事実だ。その演奏に映し出されているのは、〈進化〉と呼ぶのとも違う、はっきり言ってしまえば、かねてから熟成されてきた固有のスタイルの変わらぬ追求と呼ぶべきものだ。

しかしながら、ひとたび今回の『JOY 2』を耳にすれば、そうした一本気とすら言える追求を経ることによってしかたどり着けない地平があるということを、誰もが認めないわけにはいかないだろう。新たなスタイルが生まれたそばから忘却され、歴史の戸棚にも収められることなく霧散していってしまう現下のポップミュージックを取り巻く状況に馴れてしまえばしまうほど、山下達郎という稀代のパフォーマーが念入りに彫琢を続けてきた音楽の変わらない形が、余計に不敵な輝きを増していくことだろう。

『JOY 2』には、徹底的なプロフェッショナリズムが刻まれていると同時に、彼もよく示唆しているように、サブカルチャーに由来する熱のようなものが、相変わらず――ひょっとするとかつてよりも高い温度で――保存されているのである。

 


RELEASE INFORMATION

山下達郎 『JOY 2』 ワーナー(2026)

リリース日:2026年10月14日(水)

■初回盤(4CD)
品番:WPCL-13825~8
価格:6,900円(税込)
※初回盤CDのみ、ボーナスディスク付きの4枚組

■通常盤(3CD)
品番:WPCL-13790~2
価格:6,600円(税込)

TRACKLIST
DISC 1
1. OPENING(2025 ACAPPELLA)
2. SPARKLE(2018年11月2日 カルッツかわさき)
3. DAYDREAM(2016年1月27日 大阪フェスティバルホール)
4. DONUT SONG(2025年11月5日 NHKホール)
5. 夏への扉(2025年01月9日 大宮ソニックシティ)
6. 僕らの夏の夢(2017年8月31日 長野県民会館)
7. 土曜日の恋人(2019年10月9日 札幌文化芸術劇場hitaru)
8. 風の回廊(コリドー)(2016年4月20日 岩手県民会館)
9. FOREVER MINE(2009年4月16日 中野サンプラザホール)
10. ENDLESS GAME(2016年4月17日 横浜関内ホール)
11. ONLY WITH YOU(2025年1月17日 NHKホール)
12. I LOVE YOU....PART II(2025年1月17日 NHKホール)
13. SYNC OF SUMMER(2023年10月5日 名古屋センチュリーホール)
14. さよなら夏の日(2023年1月25日 中野サンプラザホール)
15. THE THEME FROM BIG WAVE(2014年10月08日 大阪フェスティバルホール)
16. CIRCUS TOWN(2017年8月31日 長野県民会館)

DISC 2
1. OPENING(2014 ACAPPELLA)
2. SPACE CRUSH(2014年10月7日 大阪フェスティバルホール)
3. WINDY LADY(2010年9月19日 神戸国際会館)
4. GROOVIN’(2023年11月6日 沖縄市民会館)
5. PAPER DOLL(2019年9月7日 NHKホール)
6. 俺の空(2012年4月30日 大宮ソニックシティ)
7. REBORN(2019年8月10日 中野サンプラザホール)
8. SILENT SCREAMER~(2023年10月6日 名古屋センチュリーホール)
9. ~BOMBER~SILENT SCREAMER(2023年10月5日 名古屋センチュリーホール)
10. 恋のブギ・ウギ・トレイン(2018年11月2日 カルッツかわさき)

DISC 3
1. 新(ネオ)・東京ラプソディー(2018年11月2日 カルッツかわさき)
2. MUSIC BOOK(2018年11月2日 カルッツかわさき)
3. 人力飛行機(2024年11月7日 高崎芸術劇場)
4. ミライのテーマ(2018年11月2日 カルッツかわさき)
5. スプリンクラー(2013年12月24日 中野サンプラザホール)
6. INTRODUCTION for 蒼氓(そうぼう)(2025年11月6日 NHKホール)
7. 蒼氓(そうぼう)(2025年11月6日 NHKホール)
8. ずっと一緒さ(2023年10月17日 新潟県民会館)
9. 高気圧ガール(2017年8月31日 長野県民文化会館)
10. LET’S DANCE BABY~MOVE ON(2025年12月23日 大阪フェスティバルホール)
11. アトムの子(2022年9月21日 大阪フェスティバルホール)
12. RIDE ON TIME(2025年11月6日/2022年10月27日 NHKホール)

BONUS DISC
1. ついておいで(2009年04月16日 中野サンプラザホール)
2. CAN’T TAKE MY EYES OFF YOU(2016年1月28日 大阪フェスティバルホール)
3. サウスバウンド #9(2019年9月7日 NHKホール)
4.DRIP DROP(2016年10月4日 新宿LOFT)
5. ターナーの汽罐車(2017年7月9日 中野サンプラザホール)
6. 僕らの夏の夢(2018年4月25日 広島クラブクアトロ)
7. INSERTED SONGS into “LET’S DANCE BABY”(2010 吉岡治 VERSION)
8. INSERTED SONGS into “LET’S DANCE BABY” (2012 グループ・サウンズ VERSION)
9. INSERTED SONGS into “LET’S DANCE BABY” (2014 大瀧詠一 VERSION)

 

LIVE INFORMATION
山下達郎 PERFORMANCE 2026
2026年9月18日(金)神奈川・よこすか芸術劇場
2026年9月23日(水・祝)大阪・フェスティバルホール
2026年9月24日(木)大阪・フェスティバルホール
2026年9月29日(火)福岡・福岡サンパレス
2026年10月5日(月)東京・NHKホール
2026年10月9日(金)京都・ロームシアター京都 メインホール
2026年10月15日(木)東京・SGCホール有明
2026年10月16日(金)東京・SGCホール有明
2026年10月23日(金)新潟・新潟県民会館
2026年10月29日(木)北海道・札幌文化芸術劇場hitaru
2026年10月30日(金)北海道・札幌文化芸術劇場hitaru
2026年11月6日(金)群馬・高崎芸術劇場 大劇場
2026年11月11日(水)愛知・愛知県芸術劇場 大ホール
2026年11月12日(木)愛知・愛知県芸術劇場 大ホール
2026年11月19日(木)神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホール
2026年11月20日(金)神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホール
2026年11月26日(木)秋田・あきた芸術劇場ミルハス 大ホール
2026年11月28日(土)宮城・仙台サンプラザホール
2026年12月4日(金)大阪・フェスティバルホール
2026年12月5日(土)大阪・フェスティバルホール

ツアーの詳細、チケット発売等に関しては山下達郎オフィシャルサイトをご確認ください。
山下達郎オフィシャルサイト:https://www.tatsuro.co.jp/

 

INFORMATION
TOWER RECORDS LOVES...山下達郎 AFTER SUMMER CAMPAIGN~さよなら夏の日~

期間中、山下達郎の対象タイトルを購入の方に先着で〈タワーレコード限定特製ジャケットポスター〉をプレゼントします。
対象期間:2026年9月17日(木)~ ※購入者先着でのお渡しにて、なくなり次第終了します
配布店舗:タワーレコード/TOWER RECORDS mini/TOWER VINYL全店/タワーレコード オンライン
対象タイトル:シュガー・ベイブを含む山下達郎の旧譜アルバム(CD・アナログ・カセット)

特設サイト:https://tower.jp/article/feature_item/2026/09/17/0701

 


PROFILE: 山下達郎
1953年、東京都出身。1975年、シュガー・ベイブとしてシングル“DOWN TOWN”、アルバム『SONGS』でデビュー。1976年にアルバム『CIRCUS TOWN』でソロデビュー。1980年発表の“RIDE ON TIME”が大ヒット。アルバム『MELODIES』(1983年)に収められた“クリスマス・イブ”が、1989年12月25日付オリコン週間シングルランキングで初の1位を獲得。1984年以降、竹内まりや作品のアレンジおよびプロデュースを手がける。2015年〈平成26年度(第65回)芸術選奨文部科学大臣賞(大衆芸能部門)〉に選出。2022年には11年ぶりのオリジナルアルバム『SOFTLY』を発売、2022年7月4日付オリコン週間アルバムランキングで1位を獲得。自身のレギュラーラジオ番組「サンデー・ソングブック」は30周年を迎えた。

2025年にはデビュー50周年を迎え、CMタイアップ曲の制作や他アーティストへの楽曲提供など、幅広い活動を続けている。また、1987年度から40年続く“クリスマス・イブ”の連続オリコン週間シングルランキング100位入りという記録が、ギネス世界記録に再認定された。2026年にはソロデビュー50周年を迎え、待望のライブアルバム『JOY 2』を発売した。
オフシャルサイト:https://www.tatsuro.co.jp/
山下達郎50th特設サイト:https://tatsuro50th.jp