伝説のバンド、シュガー・ベイブでデビューを果たしてから今年で50周年を迎えた山下達郎。7月には自身初となる〈FUJI ROCK FESTIVAL〉に出演して大きな話題を集めたほか、現在は1983年~1993年にかけてリリースしたMOONレーベル時代のアルバム6作品をアナログとカセットで再発するシリーズ〈TATSURO YAMASHITA MOON VINYL COLLECTION〉が絶賛進行中だ。そこで今回は、このたびリリースされる6作のレビューをお届けしよう。 *Mikiki編集部

 

山下達郎 『MELODIES』 MOON(1983)

MOONレーベル移籍後、初のオリジナルアルバムとなった本作では、これまでの〈夏〉〈海〉のイメージから脱却すべく、大半の楽曲で作詞作曲を担当し、シンガーソングライターとしての矜持を強くアピール。結果、その後の〈山下達郎〉の方向性を決定づける重要作に仕上がった。夏の終わりの失恋をファルセットで歌い上げる“悲しみのJODY(She Was Crying)”、心躍るアカペラコーラスが炸裂する“高気圧ガール”、どファンクベースをはじめ人力グルーヴの最高潮“メリー・ゴー・ラウンド”などの名曲が収められているが、なんといってもラストに配置された“クリスマス・イブ”に尽きる。誕生から40年以上の時を経ても、日本人の心の〈クリスマスクラシック〉に君臨し続ける驚異的な一曲だ。

 

山下達郎 『BIG WAVE』 MOON(1984)

ドキュメンタリー映画「ビッグ・ウェイブ」のサウンドトラックとして制作された一枚で、A面は自身のオリジナル曲、B面はビーチ・ボーイズやリーダーのブライアン・ウィルソンに関連したナンバーのカバーで構成されている。シュガー・ベイブの盟友、大貫妙子とラジオ番組にて共演した際に制作した“魔法を教えて”を、英語詞に変更して録音した“THE THEME FROM BIG WAVE”、軽快なカッティングギターが印象的な人気曲“MAGIC WAYS”、コンサートのラスト定番曲“YOUR EYES”など、楽曲のクオリティーは凡百のサントラとは一線を画すもの。なお、同作に影響を受けた桑田佳祐はアルバム『Southern All Stars』の収録曲“忘れられた BIG WAVE”で、タツローばりの一人多重録音&アカペラでオマージュを捧げている。

 

山下達郎 『POCKET MUSIC』 MOON(1986)

現場へのデジタル機材の導入により、これまでの録音方法にも大きな影響があるなかで制作された本作。「オレたちひょうきん族」のエンディング曲“土曜日の恋人”から始まり、優しいアコギの音色が安らぎの時を刻む“ポケット・ミュージック”やこれぞ〈タツロー流シティポップ〉のお手本“メロディー、君の為に”、エレピとともに大人の世界観で包み込むバラード“シャンプー”など、難産の末に完成したとは思えない良質なサウンドの数々が並ぶ。一方、悲しみの声が世界を覆う今だからこそ聴くべき重厚な反戦ソング“THE WAR SONG”も収録。間奏と終盤で鳴らされるギターソロは大村憲司が担当、数ある名演のなかでも屈指の仕上がりだ。