メジャーの舞台に相応しい、成熟した新作が完成!

 全国13か所を巡る初のツアー〈"Mucho GUSTO Especia" 2014 Tour〉を10月から敢行し、ライヴDVDやヴァイナルのリリース、それに先立ってはNegiccoと組んだNegipeciaとしての“Girl's Life”も出ていたものの、新曲集としては傑作フル・アルバム『GUSTO』から実に9か月ぶり! 昨年末に5人組としてメジャー・デビューを発表したEspeciaから、晴れの舞台を飾る『Primera』が到着しました。

Especia Primera VERSIONMUSIC(2015)

 状況や環境の変化が作品に何らかの影響を与えることは多いものですが、人を食ったような毎度のアートワークからもわかるように総合的な制作の体制はインディー時代と変わらず。先行で公開された“We are Especia ~泣きながらダンシング~”の詞曲を若旦那が担当したこともいわゆるメジャー的でキャッチーなトピックと見なすことはできるでしょうが(それ以前に森絵莉加が若旦那のMVに出演するという縁もあったのですが)、そのマッチングの妙や、冨永悠香のモノローグから始まる長尺(およそ10分!)の一筋縄じゃ行かない感じは、もともとの彼女たちらしい直球の変化球と捉えたほうが良さそうです。

 堂々と『Primera』のオープニングを飾る同曲はまた、これまでアダルトでトレンディーなフィクション世界を歌うことの多かった彼女たちにとっては珍しく、泥臭い実生活を匂わせたリリック(若旦那と5人の共作)からノンフィクション的な一面を垣間見せてくるのも特徴。そんな率直な人間臭さを丸出しにしたからこそ、イナタいディスコ・グルーヴに乗って大団円へ向かう流れにエモい説得力が倍加されているのは確かで、それが今回の新鮮な手合わせによって持ち込まれたものなのは言うまでもないでしょう。

 で、そこから洒落た“Interlude”を挿んで以降は、一転してムーディーなEspeciaマナーの楽曲が並んでいます。気怠く爛れた危険な情緒が香しい“West Philly”は以前“Funky Rock”を提供していたRillsoulによるジャジーな生音の心地良いナンバーで、詞を共作した冨永の艶っぽいアドリブも大きな聴きどころ。お馴染みSchtein & Longerによる“Sweet Tactics”も螺旋を描くようなベースがいつも以上にドラマティックな雰囲気ですし、UKOが作詞を担当した“シークレット・ジャイブ”はマセラティ渚PellyColoLUVRAW)らしい大ぶりな意匠がカッコ良いデイムなシンセ・ファンクとなっています。

 こうして聴いてみると、いわゆるシティー・ポップ・オリエンテッドな意味でのAORやディスコがクリスタル気分を演出していたシグニチャーな部分以上に、今回は成熟味を帯びてメロウ・ソウル的な生々しさを強調してきた模様。詞曲を手掛けるLUVRAWがトークボックスを挿入した“さよならクルージン”はその極みで、バトルキャットの手捌きを思わせるレイドバックしたウェッサイファンクがたまりません。そしてアウトロ前の“Security Lucy”は、浮わついた80sノリに脇田もなりの発声が弾けるようなブライトネスを刻む上々のナンバーとして、いい感じの聴後感を残してくれます。

 実質的には6曲入りながら、冒険心と安定感の良いバランスが過不足ないヴォリュームでパッケージされている印象。そんな中身に加えて、〈Light Mellow〉を冠したAOR~ソウルの諸作で知られる音楽評論家・金澤寿和がライナーノーツを執筆しているのも雰囲気を十二分に盛り上げてくれることでしょう。いずれにせよ、新たな成熟へと向かう5人の進路はまだ開けたばかりなのです。