リアルタイムを知らないヤング・ジョネレーションによって音源が掘り返されたり、それらをモダンに再構築するアーティストが数多く現れることによって、ふたたびスポットが当たる過去の音楽スタイル。近年ではディスコ、ファンク、ブギー、日本に至ってはシティー・ポップなどがまさにそうだが、そんななかで颯爽とそのシーンに飛び込んできたのがUKO(ユウコ)なる女性シンガー・ソングライターだ。

2014年にファースト・シングル“Signal”(彼女の地元である長野と渋谷のタワーレコード2店舗限定)を発表。都内のライヴハウスを中心に、アーバンでグルーヴィーなバンド・サウンドをバックに軽やかなソウルネスを湛えた歌声を届けてきた彼女は、Especiaへのリリック提供やコーラス参加で知っている人がいるかもしれない。ここ最近のライヴでは、レーベルメイトでもあるCICADAのほか、星野みちる西恵利香YOUR ROMANCEなど独特のセンスを持ったアクトとの共演が目立つ彼女が、待望のファースト・アルバム『Saturday boogie holiday』を届けてくれた。今回は〈トータル・ディレクション〉という形でアルバムに携わった、一十三十一作品なども手掛ける流線形クニモンド瀧口氏にも同席していただき、UKOというアーティストに迫ってみたい。

UKO Saturday boogie holiday para de casa(2016)

私らしい音楽がいいんじゃないかって(UKO)

――2014年の10月に、今回のアルバムにも収録されている“Signal”をファースト・シングルとしてリリースされていますが、それ以前はどんな活動をしていたんですか?

UKO「いまのような感じになる前は、ヴォーカルとピアノとか、ヴォーカルとギターだけといったアコースティックのユニットでのライヴがメインだったんです。その頃に作っていた曲も、結構しっとりとした曲調が多くて」

――それがまあ、本格的に人前でやった最初のキャリア?

UKO「そうですね。歌はずっと歌ってたんですけど、表立ってライヴ活動をするようになったのは2010年からですね。で、アコースティックのスタイルで3年ぐらいやっていたんですけど、何かしっくりこなくて……(苦笑)」

――アコースティック編成だと、歌う曲や書く曲が限られたりしますもんね。

UKO「そうなんですよ。それでなんかモヤッとしていた時期に、すごくお世話になっているライヴハウスの店長さんに、〈もうちょっと自分の性格に合った音楽をやってみたら?〉って言われたんです。私は結構あっけらかんとした性格なので、もっと私らしい音楽がいいんじゃないかって」

――確かに、しっとり系ではないですね(笑)。

UKO「はい(笑)。それで、店長さんの言葉をきっかけに、それからいろんな音楽をジャンルレスにめちゃくちゃ聴いて、インプットをたくさんして……」

――肌に合う音楽を探していったと。

UKO「そうですね。学生の頃にハウスとかダンサブルな曲をよく聴いていたので、そもそも自分はノれる感じの曲が好きだっていうのもあるんですけど、その時期によく聴いていたのは、山下達郎さんや吉田美奈子さん、昔から好きだったけどユーミンを改めて聴き直したり、あとは洋楽のヒップホップとか。周りの人から教えてもらって、いろいろ聴いたんですけど、そういう試行錯誤を経て出来た曲が“Signal”なんですよね。それ以降、作っていく曲の雰囲気も変わりましたし、バンド・サウンドがいいなあって、バンド編成でのライヴ活動をするようになりました」

――そういえば、Especiaの詞を書いたのはいつ頃でしたっけ?

UKO「初めて書いたのは2012年ですね。毎回リリースするたびに、1~2曲書かせていただいてるんですけど、そもそもはプロデューサーの横山(佑輝)さんがEspeciaを立ち上げる時に、仮歌を録りたいということで女性ヴォーカルを探していて、横山さんと知り合いだった私の友達が、〈UKOっていう奴がいるよ〉って紹介してくれたのが始まりなんです。そこで初めて横山さんと会って、試しに歌詞も書いてみなよと言われたので、そこで仮歌用の歌詞を書いたらそれが本採用になった(笑)。“きらめきシーサイド”という曲です」

Especiaの2012年のミニ・アルバム『DOLCE』収録曲“きらめきシーサイド”
 

――すごい巡り合わせですね。そうやっていろいろと繋がっていく人脈のなかで、クニモンド瀧口さんとも出会うわけですけど、それはいつ頃のタイミングで?

クニモンド瀧口「いつでしたっけ?」

UKO「去年ですね。私が定期的にやっている企画イヴェントがあって、そのイヴェントにDJでお呼びして……10月ぐらいでしたね」

瀧口「ホント、最近ですね」

UKO「そう、最近なんですよ。流線形はずっと聴いていたので、イヴェントをやらせていただいていたライヴハウスの店長さんにも〈クニモンドさんを呼びたいです!〉ってずっと言っていて、その時にようやく」

瀧口「僕はUKOちゃんのことを全然知らなかったんですよ。ただ、“Signal”を聴かせてもらった時に、〈これ、カッコイイな〉と思って。まあ、曲がキャッチーじゃないですか。それに力強いんだけど、そんなにソウルフルすぎないヴォーカルもいいなあって思ったんですよね。それでDJで呼ばれた時にお話をしていたら、アルバムを作っていると。〈じゃあ、1曲やる?〉みたいな感じで」

UKO「ちょうどアルバムを作ろうと思っていた時で、曲もいろいろ作りはじめていたんですよ。そのタイミングだったので〈ぜひとも〉と」

――ヴォーカルということでは、クニモンドさんがこれまで関わってきたシンガーとはタイプが違いますよね。

瀧口「違いますね。わりとシンプルというか、あまりクセがない。一十三十一ちゃんは比較的ハスキーなヴォイスだと思うし、比屋定篤子さんやサノトモミさんはストレートなヴォーカルだと思うんですよ。で、最近はストレートなヴォーカルを探すのが難しくなってきた時代、しゃくり上げの〈カラオケ・ヴォーカル〉が多いじゃないですか。でも、UKOちゃんの声を聴いた時に、ストンっと入ってくるところがあって。たぶんもっとソウルフルな感じになっちゃうと僕はダメなんですけど、それがちょうど心地良い感じで」

一十三十一の2015年作『THE MEMORY HOTEL』試聴音源
 

――力強いんだけど、押しつけがましさがない感じですよね。

瀧口「そうですね。テクニックに走っちゃってソウルフルに歌う方って、暑苦しい印象の方もいらっしゃるんですけど、UKOちゃんにはそういう感じがなかったから、いいなあと思いました」

UKO「ありがとうございます!」

――UKOさんは、歌を始めようと思った時に、参考にしたヴォーカリストはいたんですか?

UKO「学生の頃はずっとボサノヴァやジャズをレッスンで歌ったりしてましたけど、前からずっと好きで、ライヴも行き続けているのは安藤裕子さんですね。でも、安藤さんみたいに歌いたいっていうのは、あんまりないかもしれないです」

安藤裕子の2016年作『頂き物』収録曲“骨”
 

――好きなだから真似たい、ではなく、むしろ他の人が真似をできないぐらい独自のスタイルを持っているから好き、ということですかね。

UKO「そうですね、そういうところにグッとくるものがあります」

 

バンドが上手いんですよ。よくこんなメンバーを集めたなあって(クニモンド瀧口)

――クニモンドさんは今回のアルバムで1曲“タイムトラベラー”を書き下ろされているだけでなく、〈トータル・ディレクション〉という形で関わっていらっしゃるんですね。

瀧口「最初はプロデュースで、とお願いされたんですけど、楽曲もある程度出揃っていましたし、僕は楽曲を一から拾うところからやりたかったので、今回はサウンド・プロデュースというよりはなにかディレクションやサポートみたいな感じで関わることになりました。まあ、アドヴァイザーみたいな感じですね」

UKO「いろいろ参考になりました」

瀧口「例えばアルバム全体のコンセプト……ちょうど日本でシティー・ポップがリヴァイヴァルした後、海外ではタキシードとかが出てきてブギーが流行ったなかで、そういう感じのダンス系のサウンド――ディスコまでアッパーじゃないちょうど良いグルーヴのブギーをテーマにしたり、もともと聴かせてもらったデモテープでギターがわりと歪んでいたのを、ナイル・ロジャースがやってるようなちょっと抑えたカッティングを提案したりとか、そういうところをディレクションした感じですね。ただ、楽曲もバンドの演奏も歌もすごく優秀なので、大きなことはほとんどやってません(笑)」

タキシードの2015年作『Tuxedo』収録曲“Do It”
 

――ジャケットのアートワークはクニモンドさんのアイデアですか?

瀧口「これはUKOちゃんですね。僕のアイデアを放り込みすぎて、それこそ一十三十一ちゃんと被っちゃうのもどうかなと。僕が絡んでいるということ自体、そういうイメージが湧きやすいから、アートワークといったところなどは僕はまったく関わってないですね」

UKO「ジャケットは朝の6時ぐらいにお台場で撮ったんですよ。夜中の1時ぐらいから待機して」

――いわゆる〈ブルー・アワー〉狙いですね。

※日の出前と日の入り後の、空が濃い青色に染まる時間帯のこと

UKO「アルバムのコンセプトが〈土曜日〉なので、土曜の深夜から夜が明けていくイメージを撮りたくて」

瀧口「僕が関わったからというより、UKOちゃんのなかにこういうコンセプトがすでにあったんですよね」

UKO「そうですね」

――〈ブギー〉な感じやアーバンな世界観とか、UKOさんがここ最近で手にした音楽観は、ご自身でもすごくしっくりきてるっていうことですよね。

UKO「最近はライヴでのモヤッと感もなくなりましたし、自分のなかで確信を持ってやることができていますね、いま。バンドでのライヴも、やっていてお客さんがノッてくるとこっちもワーッとなるし」

瀧口「またね、バンドが上手いんですよ。よくこんなメンバーを集めたなあと。ドラムが女の子なのは流線形とも似ていたりするところがあって。ドラムが女の子だとね、強くないというか、気持ちいい。(ドラムが)歌っている感じがすごくあって、そういうところもいいなあって思うし、ベースの玉ちゃん(玉木正太郎)は土岐麻子さんのところでも弾いてる売れっ子で、そういう連中がUKOちゃんのサウンドを気に入って参加している感じがすごくあるなあと思っていて」

――バンドのメンバーはどうやって集めたんですか?

UKO「音大に通ってたんですけど、先輩後輩の繋がりでいまのバンド・メンバーは集まりました。最近すごく感じるのは、メンバーも私も楽曲に対して気持ちが向かっているのがすごく伝わるんです。サポートでやってもらってるんじゃなくて、みんなでやれているのをすごく感じられて嬉しい」

――また、UKOさん自身で書かれた曲とクニモンド瀧口さんによる曲のほかに、Pelly coloさん、カキヒラアイさんも提供されています。クニモンドさん以外はEspecia界隈でお馴染みの方ですね。

UKO「そうですね」

瀧口「でもやっぱり、トラックメイカーの方々は流石だなあと。僕はどちらかといえばオジサンなので、いわゆる最近の音ってできないんですよ(笑)」

――でも、クニモンドさんの曲はすぐわかりますね。

UKO「そう、私もいただいて初めて聴いた時に、ウワーッて思いました。〈クニモンドさんのサウンドだ!〉と」

――メロディーの感じも、クニモンドさんならではですよね。

瀧口「そうかもしれないですね。ワンパターンなんですけど(笑)」

UKO「でも、クニモンドさんの曲は結構難しかったですよ」

瀧口「慣れてるメロディーラインじゃないからでしょうね。僕ね、切ない方向に持っていくのが好みなので、わざと苦しい感じで歌ってほしいというか、それで切なさを誘うっていう。サビでちょっと苦しい感じが出たほうがゾクゾクっとくるでしょ」

UKO「すごく新鮮でした。(歌ったら)すごく苦しい感じになっちゃったので〈これで大丈夫ですか?〉って訊いたんですけど、逆にそれがイイって(笑)」

――瀧口さんの曲は1曲入るだけで、アルバムにすごく幅が出ますね。

瀧口「そう言っていただけると、ありがたいです。やっぱりね、どういう曲を入れるかとなった時に、他にすごくイイ曲が多くて、アレンジもすごく良く出来てるんで、ここは自分もわりと突き抜けた感じにしようと。僕の曲は音の組み合わせが結構シンプルで、基本はドラム、ベース、ギターなんです。で、音数が多いものには否定的だったんですけど、最近キングを聴いた時に、〈これだったんだ!〉と。あれは最終形というか、そういう(音数の多い)作り方の頂点かなと思ったんです。キングをもうちょっと早く聴いていたら、たぶんキングっぽい曲を作ってあげてたかも(笑)」

キングの2016年作『We Are King』収録曲“Carry On”
 

――でもまあ、今回のアルバムがリリースされることによって、UKOというアーティストがシティー・ポップ的な文脈で語られることが増すと思うんですよ。細かな違い、個性はあっても、ざっくりとその範疇で。まあ、楽しみではありますが。

瀧口「バンドがいてのUKOという、それが彼女の強みかなと思いますけどね。アルバムはバンド・サウンドの良さがすごく詰まってる作品だと思うし、打ち込みが悪いっていうわけじゃないですけど、UKOちゃんの場合、そこはちょっと生の感じがいいかなと」

UKO「そうですね、そこは面白味になってると思います」

瀧口「やっぱり、ドラムとベースというリズム隊がすごくしっかりしているところがいいなあと思いますね。最近のシティー・ポップ系のバンドって、そのへんユルい感じでやってる人たちもいますけど、UKOちゃんのバンドはガチガチでやっているので」

UKO「ドラムのともみ(かせともみ)ちゃんは、もともとジャズをやっていたりするので、いろいろ音楽を知ってるし」

UKOの2016年のライヴ映像、この“マドンナ”はアルバム収録曲
 

瀧口「ライヴを観に行くと、若いのに巧いなあって思いますよ。こういうバンドで作ったアルバムがどう評価されるか楽しみですね」

UKO「ドキドキしてます」

瀧口「先ほど言われたように、シティー・ポップ文脈で語られることが多くなるわけじゃないですか。そうなるといろいろ比較されるし、作品を出せば誉められることも貶されることもあるので、そこからどうやっていくか――まあ、意見に左右される必要はあまりないと思うんですけど」

UKO「今回は自信持って出せるものが出来たので、そこはもう」

――アルバムが完成して、当面はこれを伝えていく作業、ライヴ活動に精を出していくことになるわけですけど、これからやってみたいことはありますか?

UKO「そうですねえ。去年から立てていた目標は、ワンマン・ライヴですね。できればアルバムにあやかって〈土曜日〉に(笑)」

――ワンマンとなると、曲がもっと欲しいですよね。曲はちょこちょこ出来るほうですか?

UKO「ペースが遅いんですよ。ワンフレーズずつストックしているものはちょこちょこあるんですけどね」

――そのペースだと、年内にもう一枚出せそう?

UKO「出せたらいいですね」

――そういえば、ライヴではカヴァーもよくやられるんですか?

UKO「結構やってますね。今年に入ってからはあまりやってないんですけど、去年は毎回1曲カヴァーをやると決めていて、吉田美奈子さんの“恋は流星”、真心ブラザーズの“サマーヌード”……あとはユーミンやフィッシュマンズの曲を」

――なるほど。いずれにせよ、ワンマンをやるにはオリジナルをもっと増やさないとっていうことで。

UKO「確かに!」

――それこそ次はクニモンドさんのプロデュースで。

UKO「そうですね、一から一緒にやりたいですね」

瀧口「キングみたいになっちゃうかもよ(笑)」

UKO「そこはもう、クニモンドさんがその時に聴いてる音楽によって」

――楽しみにしてます。ところで、UKOさんはいつからブロンドヘアに?

UKO「2年ぐらい前からですね。なんでかというと、特に理由はないんですけど、私は髪の毛の量が多くて太いんですよ。で、なかなか明るい色にしたくても色が入らなくて、美容師さんと相談したら、もう色を抜いちゃったほうがイイよと。色を抜くと、髪の毛が傷むので毛質が柔らかくなるんですよ。それが理由だったりするかもしれないです。もう戻せなくなりましたね、手入れは大変ですけど」

瀧口「UKOちゃんのブランディングとして、この金髪は結構活きてますよ」

UKO「〈金髪の人〉で覚えられたりもするので、しばらくはこれでいこうと思ってます!」