独自の美意識と世界観を飄々と貫き続けてまもなく結成30周年……3人の表現が濃密に煌めくフル・アルバム『16』という名の銀河にはどんな星が瞬いている?

腹切ってこうぜ~!

 今年9月に結成30周年を迎えるcali≠gariより、1月のEP『16予告版』に続くニュー・アルバム『16』が到着。歌舞伎役者の坂東彦三郎による台詞で口火を切る本作は、そのままシームレスに日本の伝統芸能とEBM~ポスト・パンク調が並走する“切腹 -life is beautiful”へ。そこには桜井青(ギター)の現在の死生観が扇動的に映されている。

cali≠gari 『16』 ビクター(2023)

 「もとからサンプリングで歌舞伎の掛け声を入れてたんですけど、研次郎君(村井研次郎、ベース)経由のご縁があって、『元禄忠臣蔵』の台詞を生で入れてもらった感じです。そうしたら歌舞伎の印象が強くなっちゃって。もともとは人力ハンマービートをやりたかったんですけどね」(桜井)。

 「それって、厳密に言うとキックが8つ打ちだからね。一部分だけ強引に8つ打ちにしてますけど、あのテンポでそのままいくのは厳しいってなって。だから、最初はもっとEBMっぽかったってことだよね。俺は初期のニッツァー・エブを思い出しましたけど。でも、ギターがDNAっていうかNYパンクみたいだから、ちょっと変わった感じになりましたね」(石井秀仁、ヴォーカル)。

 「年々、自分の書くものだと生き死に関係の歌詞が増えてますけど、今回はもう〈やりたいことやったら死んでもよくね?〉って感じになってきてて(笑)。この曲だと全部が著名人の辞世の句で、大石内蔵助さんと、三島由紀夫先生と、〈特攻の父〉と呼ばれた大西瀧治郎。皆さん、それぞれ自分で自分の死に様を選んだ方たちですね。それに対してこのサビなんですけど……」(桜井)。

 「中高生が聴いたら藤崎マーケットだって思いますよね」(石井)。

 「自分としてはホストが酒を飲ませるときのコールなんですけど。(手拍子しながら)〈腹切ってこうぜ~! ラーイ♪ ララララーイ♪〉って(笑)」(桜井)。

 妙に不敵な切腹コールに続くのは、石井秀仁による“禁断の高鳴り”。ほんのりブギーの香りも漂うシンプルなロック・チューンだ。

 「“Anarchy In The U.K.”でも“GET THE GLORY”でも何でもいいんだけど、ギターを買った中学生とかが最初にコピーするような名曲ってあるじゃないですか。簡単なコードの組み合わせなんだけど、すごくポップな曲。そんなのをめざして作ってみたんですけど、わりとよくできたなと思ってます」(石井)。

 「僕にはグラム・ロックっぽく聴こえますけど。これでギターの音がクイーンとかT・レックスみたいな感じだったら、すかんちになるのかもしれない」(村井)。

 「ちょっとブギーっぽいところはあるのかな。でも、もともとはすごい打ち込みが入ってて、バナナラマの“Venus”みたいな感じだったんですよ。だけど、だんだんシーケンス全抜きのほうがおもしろいんじゃないかと思えてきて。結果的に抜いてよかったです」(石井)。