
2月の予告版に続く3年ぶりのオリジナル・アルバムが完成! さまざまなオマージュを忍ばせつつ、よりパワフルに、ヴィヴィッドに鳴り響くオリジナリティーを聴け!
エネルギッシュなものを
7年ぶり3回目のビクター復帰から2年と少し。cali≠gariのニュー・アルバム『15』がついに完成した。今年2月の予告版EPをリアレンジした4曲と、新曲9曲で構成される全13曲。〈エネルギッシュで、パワーのあるもの〉をテーマに制作された本作は、冒頭曲“一つのメルヘン”のクレジットにまず驚いた。メンバー同士の共作は恒例だが、桜井青(ギター)と石井秀仁(ヴォーカル)のタッグは今回が初である。
「まだアルバムの全容が見えてない頃、〈リードになるような曲がないね〉って話になったんですね。そのとき、石井さんに〈青さんが前に聴かせてくれた曲、あれどこにいったの?〉って言われて、〈アルバムのテーマと違うから、お蔵入りしようと……〉って返したら、〈じゃあそれ、俺に貸してよ〉って。そしたら、次の週には歌詞もメロもベースも入ってきて」(桜井)。
「いろいろイメージできる部分もあったし、これをリード曲にしたらおもしろいんじゃないかと思って。繰り返しの部分をちょっとカットしたぐらいで、あとはそのままのオケに歌と歌詞を乗せてった感じです。青さんが〈ここだけは残してくれ〉って言ってたところも、なくそうってことではなかったんですけど、一回は自分の完成版で出して、元のほうがいいって言われたら差し替えようと思ってて」(石井)。
「そしたら、そっちのほうが良かったんですよ。敗北宣言です(笑)」(桜井)。
“一つのメルヘン”は哀愁のスパニッシュ・ギターから始まる疾走チューン……なのだが、雄弁に蠢くベース・ソロにケルティックなシンセが重なったりと、これまでにないアプローチでこのバンドの持つ〈切なさ〉を響かせている。
「音色とかはケルトなのに、そこから突然のスパニッシュ(笑)。それはたまたまなんだけれど、もともとの仮タイトルが〈野生〉で、『母を訪ねて三千里』みたいなジプシーっぽいイメージで作ってたからいいかなって」(桜井)。
中原中也の詩と同名の“一つのメルヘン”。その詞世界は、〈生きるということ〉を石井流に綴っているように思えるが……。
「根底にはそういうのがあるんでしょうけど、いろんなものにあてはめられるようにしてるんですよね。コロナのことを歌ってるのかなって思えばそういうふうにも捉えられるだろうし、cali≠gariのお客さんにしてみたら、〈メルヘン〉っていう単語は普通の人とは捉え方が違うわけですよ。cali≠gariは昔、〈奇形メルヘン音楽隊〉って名乗ってましたからね。そう捉えていくと、サビのあたりの歌詞っていうのは、そういうことを歌ってるのかなって捉えることもできるかなと。〈僕も私も〉的にね」(石井)。
続いては、石井による“ハイ!”と“嗚呼劇的”。前者はライヴでのシンガロングが目に浮かぶグルーヴィーなロック、後者は明度の高いシンセとディレイがかったギターがセンチメンタリズムを加速させる、美しくエモーショナルなナンバーだ。
「“ハイ!”は、その場の全員で歌えるようなものってことですかね。実際、サビの部分とかは全員で歌ってるんですよ。青さんも研次郎君も、中西君(サポート・ドラマーの中西祐二)とかスタッフの人も。難しい感じじゃなくて、アイドルみたいに主旋律をみんなで歌うみたいな、そういうのをcali≠gariでやるのもバカバカしくていいかなって」(石井)。
「“嗚呼劇的”は、〈エッジになれ〉って言われたんです。U2の」(桜井)。
「そういうディレイだけで持ってくだけのようなギターって、以前はよくありましたけど、いまはそこまでの人ってそんなにいないから、なんかおもしろいなと」(石井)。
……オマージュですよ?
そこからド派手なシンセが炸裂する“ケセ”を挿んで登場するのは、石井と村井の共作曲である“裂け目の眼”。ハード・ロッキンなテイストも交えつつ、ダイナミックにドライヴする様がいかにも村井らしい一曲だ。
「これは、僕が作ったデータを石井さんに投げたパターンですね。ハード・ロック/メタル寄りのものは秀仁君に投げることが多い気がします」(村井)。
「ただ、前はハード・ロックっぽさを消すっていうところから始めてたんですけど、最近は何のためにハード・ロックっぽさを消してるのかもよくわかんないなと思って。それが残ってても何の問題もないから。ヴォーカルや演奏技術的な問題で変えたほうがいいなってところは直したりしますけど。この曲に関しては、尺をいじったりとかは全然してなくて、ドラムのフィルをちょっと変えたぐらいかな? 最終的には、やってて楽しい曲になって良かったです」(石井)。
「ギターに関しては、いろいろとその……オマージュで(笑)」(桜井)。
「ちょっとおもしろかったのが、研次郎君のデモはたぶん俺しか聴いてないんですけど、そこに入ってたギターで、俺が〈このフレーズはちょっとアレだからやめとこう〉ってなくしたものを、デモを聴いてないはずの青さんがそれに近い感じで弾いてきたっていう(笑)。それがまあ、LUNA SEAっぽいってことなんですけど、青さんに〈研次郎君が出してきた曲はどんな曲なの?〉って訊かれたことがあって、それに〈“ROSIER”と“JESUS”を合体させたような曲だ〉って答えたんですよ。曲の仮タイトルも“ローザス”ってなってたし、だから青さんのギターは“ローザス”のアプローチもあるんです(笑)」(石井)。
「おもしろいなと思って、わざとやってみました(笑)」(桜井)。
そして、シンセを追加してポップ度を増した“腐った檸檬”のあとには、村井が作詞/作・編曲のすべてを担った“ニンフォマニアック”が。ラース・フォン・トリアー監督の同名映画から名付けられただけあって詞はかなりエロティックだが、サウンド面は相反していたく開放的。〈80年代の未来感〉を纏ったシンセが煌めくフュージョン色の強いナンバーだ。
「cali≠gariの三人って、そんなに共通項ってないじゃないですか。“ニンフォマニアック”はジェネシスとかラッシュを聴きながら作ってたんですけど、そのへんなら皆さん得意だと思って。何となくツイン・ヴォーカルになりそうなデモを作ってたら、何の指示もしてないですけどそうなってたし。歌詞はエッチな感じですけど、タイトルは青さんに変えてもらいました。元は商品名だったんで、引っかかっちゃって(笑)」(村井)。
「ラースの『ニンフォマニアック』はその頃たまたま観たんですけど、途中で寝ちゃいました(笑)。あれはややこしい『セックス・アンド・ザ・シティ』ですね。で、そういう話をみんなにしてたら、〈このタイトルいいんじゃない?〉って。歌詞の内容的にも、響き的にもいいし、cali≠gariの研次郎君の曲に僕が歌詞を書くときは、割と映画から取ってきてるので。前の“動くな!死ね!甦れ!”もそうだしね」(桜井)。
「映画って言えば、この曲を作ってたとき、『ネバーエンディング・ストーリー』のテーマ曲も聴いてました。映画の内容自体は全然関係ないですけど、音の雰囲気の時代設定はそのへんですね。MTVな感じです」(村井)。
「わかる。シンセの使い方とかね(笑)。これ、ギターはがっちりキメるとそれこそフュージョンになっちゃうから、全然違うものをぶつけましたね。それこそ大御所ギタリストのフレーズを丸パク……いえ、オマージュですね(笑)」(桜井)。
後半に入り、ノイズをまぶした優美なワルツ“鐘鳴器”を経て導かれるのは、石井が書き下ろした“100年の終わりかけ”。沁み入るような歌心に溢れたナンバーだが、復活第1弾シングルのカップリングに収められたお遊び曲(?)“画竜点睛を欠いた曲”を下敷きにしているところが一筋縄ではいかない。
「最初は漠然と、70年代の、みんなが思い描くようなデヴィッド・ボウイみたいな曲があってもいいなと思ってて。これはフォーキーな、それもギター一本でいけるような曲だと思うんだけど、そういうものは青さん以外作ってないから、自分がそっち方面を作るっていうのもありかな、と。それと、その〈画竜点睛〉……ふざけた曲ですけど、それを作り直したらお客さん的にもおもしろいかなと思って、途中からそうしました。あんまり俺、ミュージシャンで誰が好きだとか誰に影響を受けたとか言わないし、実際にいないんですけど、でも、デヴィッド・ボウイが亡くなったときに〈オマージュです〉って言ってやってる人の曲を聴いたら違和感があったんですね。〈デヴィッド・ボウイが好き〉って言っててもそんなもんなのか、っていうのがあったから、今回はオマージュ的なギター・フレーズをいっぱい入れたりしながら、アツい曲を作ろうと(笑)。
歌詞は、これも聴く人によっていろいろあてはまるものがあったりするんじゃないかなっていう。まあ、自分への戒めみたいなところも少しありつつ、いくつかの思いが交錯してるようなものです。ちょっとcali≠gariのことを歌ってるようにも捉えられますよね。そういう見方だと、物凄くいい歌詞になりますけど。あと場合によっては、〈ウィー・アー・ザ・ワールド〉みたいにも捉えらえる(笑)」(石井)。
目的地が欲しい
さらに終盤、“この雨に撃たれて -死すれども冠を捨てず篇-”“そして誰もいなくなった”を受けてエンディングを担うのは、桜井が手掛けた2曲。まずは、ラモーンズのあの曲を彷彿とさせつつパンキッシュに駆け抜ける“四畳半漂流記”だが……。
「この曲は、もとは去年発表するつもりで作ってた曲で。コロナ禍で、星野源の“うちで踊ろう”みたいな曲、あったじゃないですか。自分なりにそういう曲を書こうかと思ってたら、そんな時代じゃなくなっちゃったでしょ? この1年半で。それでどうするかいろいろ考えてたら、〈昔は狭い部屋で、でっかい夢もってたよね〉と思って。よく言ってますけど、その夢がいまは自分になっちゃったわけで。いま自分は50で、成功してるかはわからないけど、もうちょっと上を見てもいいかなと思ったんですよね。“そして誰もいなくなった”もそうですけど、前向きにいろいろ考えておかないと、いいほうには転ばない。〈夢なんかねえよ〉とか、縮こまるんじゃなくてね。〈夢〉じゃなくても、目標が欲しいなって感じですね。漂流してるのは海なのか、街なのか、東京砂漠なのか、それぞれだと思いますけど、目的地が欲しい。それを今回は、過去に自分が書いた既出の曲や、背景にシンパシーを感じた小説なんかを混ぜ込んだりしながら歌詞にしてみました。自分を変えたい、変えていくっていう気持ちをうまく他の作品ともリンクできたなって感じです。自分が書いた他のタイトルの曲を別の曲の中で回収するって試みはおもしろいですね(笑)。
サウンド面に関しては、最初のお題にあった〈エネルギッシュな、パワーのあるもの〉で自分的に最初に出てくるのは、ラモーンズ、トイ・ドールズ、クラッシュなんですよ。そこから、メロは同じなんだけど切ないコード進行に変わっていって、気が付けば転調してた、みたいな、いろんなギミックで複雑になっていくのがおもしろいかなと思って作りましたね」(桜井)。
そこを引き継ぐラストは、メランコリックに沈むミディアム“光と影 -His Master’s Voice-”。ここでは、かくれんぼの情景越しに死生観を映し出している。
「この曲もけっこう古いんですよ。〈エネルギッシュ〉とかそういうところとずれてしまうから、入れるのやめようって言ってたんですけどね。サブ・タイトルが〈His Master’s Voice〉になってますけど、もとはそちらがメイン・タイトルで。ビクターと癒着か、みたいな(笑:ビクターマークのモチーフであるニッパーは、絵画『His Master’s Voice』のモデルとなった犬)。最初のデモを聴いたら日付が2019年の9月とかになってたんで、完全に、友人が亡くなったのをきっかけに作った“この雨に撃たれて”と同時期の曲なんですよ。『His Master’s Voice』も似たような背景じゃないですか。それで、〈大切な声ってなんだろう?〉ってことを発端に書いたら、どういうふうに死にたいかなって思っちゃって。自分は結婚もしないだろうし、子どももいないし、ひとりぼっちで死ぬのかな?なんて思ったら、悲しくなってきちゃって(笑)。歌詞にもあるけど、名前を呼ばれるっていうのはとても嬉しいことですよね、やっぱり。ほんとの意味で、いつか誰かが自分を見つけてくれるかなって、根本にはそういう思いがあって書いた曲です」(桜井)。
なお、難産だったこの曲はその後のレコーディングでも行き違いが発生。スケジュールに遅れが出たため、最終的にはアルバムのリリース延期が決定したという。
「発売延期になっても、この曲は妥協せずにちゃんと完成させましょう、ってことになって。それで、マスタリング日まで猶予ができたので、エンジニアの白石(元久)さんのところに行って、ギターとコーラスを追加して(笑)。あとは、僕の大好きな84~85年の、ファンハウス時代のオフコース――ああいうシンセ・ソロを入れたいな、って秦野(猛行)さんに言ったら最高のものが入ってきて。〈メランコリック〉っていう表現が本当にぴったりの、いい曲になりました」(桜井)。
「出来上がったのを聴くと、×××××のバラードを感じるんだよね。どの曲ってことじゃないんだけど、めちゃめちゃ●●●●●●だなって」(石井)。
「×××××自体、イーグルスとか、ああいうところから持ってきてるじゃないですか? あとカーペンターズとかね、今回は2周ぐらい回ってそっちにいったのかなって。最近、カーペンターズとサイモン&ガーファンクルを自分の中で再評価してて。フォーク・デュオってイメージが強かったんですけど、すごいロックですよね」(桜井)。
アクシデントを乗り越えて完成した『15』のリリース・ツアーはすでに開催中。本作の全曲を含めたセットリストで、各公演が2部構成となる。
「ツアーは初日の大阪バナナホールからファイナル感が満載で。その一週間前の時点で、まだ3曲なかったんです(笑)。初日に新曲だけでライヴができると思ってなかったから(第1部の内容として事前にそう告知されていた)、終わった瞬間、感動しちゃった。謎の達成感で始まりましたけど(笑)、12月のLINE CUBE SHIBUYAまでがんばります」(桜井)。
メンバーの別プロジェクトの作品。
左から、ヘクトウの2019年作『平成享年』(密室ノイローゼ)、GOATBEDの2020年作『瞬間的ポリフォニー』(AMG)、村井研次郎の2018年作『UNDERMINED』(バップ)
cali≠gariの近作。
左から、2020年作『ブルーフィルム -Revival-』(ビクター)、2021年のEP『15 予告版』(密室ノイローゼ)
