幻になりかかっていた名作が、20年越しにリヴァイヴァル! そのコンセプトとなった〈エロ〉への多彩なアプローチから見えるのは、このバンドの本質で──

 〈エロ〉をコンセプトに制作されたcali≠gariの2000年作『ブルーフィルム』。“エロトピア”や表題曲など、このバンドの代表曲と言えるナンバーが収められているものの、長らく入手困難な状態だった同作が、20年越しに『ブルーフィルム -Revival-』として再登場する。オリジナルの7曲のシンプルな再録ではなく、二つの新曲とカヴァー曲も加えて全10曲の作品として再構成された本作について、桜井青(ギター)、石井秀仁(ヴォーカル)、村井研次郎(ベース)の三人に話を訊いた。

cali≠gari 『ブルーフィルム -Revival-』 ビクター(2020)

 

――『ブルーフィルム』は石井さんが加入して初めての作品なんですよね?

石井「そうですね」

――確か、制作中に前のヴォーカルの方が脱退されて、入れ替わりで加入されたと。その途端に〈エロ・アルバム〉を作ってます、っていうのはすんなり受け入れられたんでしょうか。

石井「まったく意味がわからなかったです。初めて皆さんとお会いしたとき、風俗絡みみたいな下品な方向じゃない、cali≠gariが進みたいエロの定義みたいなことを説明されたのを覚えてますね」

桜井「前任者が作ってた曲のタイトルが“ソープランド”だったり“幼児体型仔猫”だったり、どっちかっていうと性風俗とかフェティッシュなほうに寄ったものだったので、彼が存在するcali≠gariだったらそれが正解だったんですが、石井さんを取り込むためには単に〈エロ〉とは言っても何かもっと小難しいコンセプトを言っておかなくちゃいけないよなって思ったんですよ、当時は。それで、昔勉強した澁澤龍彦が訳したジョルジュ・バタイユの『エロティシズム』からの引用とかを片っ端から言っていくっていう手段に出たわけです(笑)」

――その結果、石井さんも含めてのアルバム制作が始まって。

石井「まあ、青さんがどういう感じの人かっていうのは何となくわかってたし、バタイユとか澁澤とか寺山修司とか、出てくる名前がなるほどなって感じだったんで。あと、レコーディングのスケジュールももう決まってて、むしろ、だから入ったのかなって感じはありますよね。〈これからどうしていくか一緒に悩もうぜ〉みたいなのだったら入らなかった(笑)。あと俺、その前にcali≠gariのライブを観たことがあって、“ゼリー”とか“僕は子宮”とか“誘蛾燈”とかすごいカッコイイなって思ってたんです。『ブルーフィルム』の曲だったら“エロトピア”はあまりないグラム・ロックに聴こえたり、“ミルクセヰキ”は俺のなかだとプラスチックスで。初期のチープなテクノ・ポップみたいなものもcali≠gariに似合いそうだな、割と自分の得意分野みたいな部分も活かせるのかなって、印象がすごい良かったんですよ」

――それで完成した『ブルーフィルム』は、通称〈 エロ・アルバム〉として知られる名作になって。それが、20年を経て『ブルーフィルム -Revival-』として新装されたわけですが……〈Revival〉という表現もいいですよね。復興/再評価という意味合いもありますし。

桜井「そんないいものじゃないんですけどね。研ナオコから取ってるんで」

――そうでしたか。

桜井「ほんとは、ビクターの方と〈Revival〉をひらがなにするのもいいですよねって話をしてて。研ナオコの曲は“りばいばる”なんですよ。だから『ブルーフィルム -りばいばる-』にすればわかる人にはわかるだろうなって。ただ、そこまでネタを仕込むのもなんかアレだしね」

――ひらがなだと字面的にも印象がだいぶ変わりますしね。で、今回の〈Revival〉版にはオリジナル版に収録の7曲に加えて新曲2曲とカヴァー曲も加わって。

桜井「セルフ・カヴァー盤っていうのは、得てして否定されるんですよ。作品への思い入れが強すぎて、過去のものがいいって。特に“エロトピア”と“ブルーフィルム”は過去で完成されちゃってるんですよね。例えばなんですけど、某バンドがインディーズで出したアルバムをセルフ・カヴァーしていたんですよ。オリジナルに入ってるのは名曲の数々だったから、カヴァーのほうも聴いてみたら、何だこれは、と。BPMが10ぐらい落ちている曲もあるし、何一つ良くないんですよ。あれはお手本でしたね。だから、いつか自分たちがそういうものを作るなら、昔の良さはそのままでいい、汚さない。そのうえで、新しく作ったものは〈同じだけど全然違う〉って、そういう印象を残すものにしたいなって。そのために、昔の素材も使って作り直してるんですよ。新録も、過去の素材もあるっていうのは『10』の〈Rebuild〉のときと同じ手法なんですけれど、今回は全体的にそれをやってますね」

 

正解もさまざま

――冒頭はスパンカーズ“Sex On The Beach”のカヴァーで。ハードコア・パンク・ヴァージョンです。

桜井「二丁目でクラブに行くと、リリース当時はパーティーでよくかかっていたんですよ。ネタ的な、おもしろいポジションで使われてて(笑)。それがすごく印象に残っていて、こういう曲をcali≠gariでカヴァーしたらおもしろいかもってのが頭にあったんですよね。PVも最高でしょ(笑)? メッセージ性も何もないのに、中毒性があるんですよ。〈Tequila boom boom〉ですよ? 天才なの?スパンカーズって(笑)」

――(笑)。続く“エロトピア”は、先ほどの青さんの言葉を借りれば〈昔の良さを汚さない〉パターンですね。

桜井「そうですね。曲の印象を壊さないように気を付けて。だから再録はしてますけど、あの〈ピー! ガー! ゴー!〉っていう効果音とかはそのまま残してます」

――そして“ミルクセヰキ”は特徴的なアナログ・シンセの音がカットされて。

桜井「今回はドラム、ベース、ギター、ヴォーカルだけのバンド・サウンドで。ドラムはdeadmanとのツーマンのときに叩いてもらったハゼ(元P2H)さんにやっていただいたんですけど、物凄くタイトでたまげました」

――そんなわけで、今回は石井さんがおっしゃっていたプラスチックス感が後退しています。

桜井「白石(元久)さんからミックスが戻ってきたら、アナログ・シンセの音が入ってなかったんですよね(笑)」

――まさかの想定外ですか? でも、それで良しにしたと。

桜井「石井さんに言ったら、やっぱりないほうがいいでしょ、って」

石井「俺は入れたことをずっと後悔してたぐらいなんで、そこはちょっと譲れなかったです(笑)。そもそもあれね、間違ってるんですよ。当時はまだソフト・シンセもなくて、わざとチープさを出すためにモノフォニックのハードウェア(単音しか出ないシンセ)を使ってたんですよね。打ち込みも面倒だったけど、それをあえて使った音源を持ってったんです。ただ、いただいた“ミルクセヰキ”のデモが、カセットテープだったんですけど回転数がちょっとおかしくて、結果的に半音ぐらい違ってたのかな? 合ってないんです。だけど、ああいう曲だからそれはそれでいいかって、そのまんまにしちゃったんですよね。で、当時の俺は“ミルクセヰキ”をプラスチックス的に捉えてたんだけど、あとで聞いたら、青さんの元のアイデアとしてはシナロケの“レモンティー”だったっていう。だったらもう、今回はシンプルな感じにしたほうがね」

――そもそものイメージに近づけようと。

石井「そうそう。ライブではずっとそうやってたし、ヴォーカルも明確なメロディーがあるものじゃないからね。そういった意味で、原曲もそこまで違和感はないんですよ。最初からあれを聴かされちゃうと、ああ、こういうものかって」

桜井「少しポンコツなぐらいが正解な曲ってあるじゃないですか。ジグジグ・スパトニックとかそうでしょ? だから、“ミルクセヰキ”みたいな曲は半音ぐらいずれててもいいんじゃない?って。そもそもcali≠gariなんだからさ、っていう」

――今回はそこも合ってるヴァージョンなんですね。あと小ネタになりますけど、後半部分に久々の外山健二さんが登場してますね。

桜井「そう、〈ミルクセヰキ〉の作り方を番組風にしてね。過去の素材を使って何かおもしろいことできないかなと思ったから、一人二役でああいうことをやってみました(笑)。過去の素材に今の自分がセリフを加えてそれっぽくしてるんですよ。辻褄が合うように」

――そして次は“ポラロイド遊戯”ですが、編曲は秦野猛行さんと研次郎さんで。

村井「僕のリクエストで、今回はサックスが入りましたね」

――yukarieさんですね。

村井「yukarieさんには女性の声が欲しいところで歌ってもらったりもしていて。芸達者でありがたいです」

――そこからSE的な“音セックス2020”を挿んで、続いては新曲の“デリヘルボーイズ!デリヘルガールズ!”。こちらは溢れる80s感と言いますか。

桜井「ビクターの方にこのタイトルで泣ける曲がいいって言われて、何パターンか作ってたんですよ。後期オフコースみたいな感じのものとかも作ってみたんですけど、ご時世的にね、もっと元気のいいものを出したいって。それで、ユニコーンとか、岡村(靖幸)さんとかの名前を挙げながら白石さんとどんな感じにもっていこうか話をしてて、アレンジは8割方できてたんですけれど、白石さんが最後に手を入れたらどうなる?と思って投げてみたら、案の定、いい感じに80sな感じのものが返ってきました(笑)。これは、〈ソニー〉だなって」

――当時のエピックものですかね。他にも佐野元春さん、大沢誉志幸さん、TM NETWORK、渡辺美里さん……。

桜井「そう! 全盛期のエピックみたいな方向になって返ってきたから、〈正解!〉って」

――あと、この曲はツイン・ヴォーカルなんですね。

桜井「ちょっと、そういうことをやってみようかなって。cali≠gariって、僕とか研次郎君がコーラスだけどメインみたいになるときもあるじゃないですか。石井さんがそういう曲を作るから。僕が作った“僕≠僕”とか、まあ“エロトピア”も言っちゃえばそういう感じだけど、今回はちゃんとメロがあるもので、僕が歌ったほうがおもしろいんじゃないの?っていうパートを作ってみました」

 

エロはこの程度でいい

――そして、次は秦野さんが編曲された“真空回廊”ですね。電子音と鍵盤が入ってよりエレガントで深淵な雰囲気になりました。

桜井「作曲者不在(脱退した武井誠と桜井の共作)なので、まあ、うちらがいじるよりも、秦野さんにやってもらったほうがいいかなっていう。大サビは僕が作った場所だったから、そこは大きいリズムでって、それだけお願いしましたね」

――次は“原色エレガント”ですが……。

村井「完成形を聴いたとき、ギターは昔のものをそのまま使ったのかな、って思うぐらい変わってなくてびっくりしたんですよ。ベースは大人な感じで、全部変えて弾いたんですけど、ギターは少年のように幼い感じだったから。でも、弾き直してたみたい」

桜井「いや、秦野さんがその……へっぽこさ加減っていうんですか(笑)? きっちり弾くな、って」

石井「ギターのテーマみたいなのがすごい出てくるじゃん。イントロにも、サビの後ろにもいるから、どこか一個取っただけでも変なんですよね」

村井「あのギター・ソロって他の曲にも何回も登場するんですよ。“カラス”とか“歪んだ鏡”とか“誘蛾燈”とか。そこも変わってなかったですね、20年前と」

石井「あと、BPMは10ぐらい上げて。前はなんであのテンポに設定したのかがわからないぐらい難しかったから。10上げるってなかなかないでしょ? 10上げても全然あの感じなんですよ」

――それでもまったりしたグルーヴ感ですもんね。で、次は“さかしま”。これは石井さんの新曲ですけど、こういったノンビートの曲は以前にも“月白”がありましたね。

石井「そうですね。あれはノンビートって言ってもシンセが入ってるし、っていうのがあったんだけど、これは歌とギターしかないっていうところまで持ってこうかなと思って。俺、普段はブレスの音を切っちゃったりするんだけど、この曲はそういうものも活かして、なんかドキッとするような、エロティックで生々しい感じにしようかなと思ってたんです。で、ギターは12弦で弾いてほしいなと思って、開放弦が常に鳴ってるようなコード進行で作ったんですけど、12弦を用意する時間がなかったりで、結果的には想定と逆の、少しエフェクティヴで広がりがある仕上がりになってます。これはこれですごいカッコイイなと」

――歌詞も〈エロ〉というコンセプトに対してのアプローチを?

石井「そうですね。青さんの曲は“デリヘルボーイズ!デリヘルガールズ!”っていうタイトルだけがあって、曲調は明るくアップテンポでっていうのを聞いてたから、それと逆をいく感じに。まあ、エロティシズム的な文学で、いろいろと有名なやつがあるじゃないですか。」

桜井「『さかしま』は(ジョリス=カルル・)ユイスマンス」

石井「あとは、『サロメ』とか、『マダム・エドワルダ』とかもそうか。そういうものの印象的なフレーズとかをいくつか入れて」

桜井「僕は“さかしま”って見た瞬間に、〈ああ澁澤ね〉 って。ユイスマンスの『さかしま』を澁澤が日本語で訳しているから、ああ、石井さんはたぶん、自分が最初に〈このエロティシズムはジョルジュ・バタイユを澁澤が~〉 って話をしたのを覚えててくれたのかな、と。きっとそういう流れでこれを“さかしま”にしたんだろうなって」

石井「そうですよ。バタイユとか(ピエル・パオロ・)パゾリーニとかの話をいちばん最初にされたから」

桜井「ちょうどパゾリーニが何で死んだのかっていう『パゾリーニ・スキャンダル』が公開されてた頃だったんですよ。たぶん、それって『ブルーフィルム』への影響がデカイんですよね。クソみたいな映画だったけど(笑)、エロってこの程度でいいよねって」

――そんなに高尚なものじゃないと。

桜井「だって、『ソドムの市』とか……(自粛)。パゾリーニはタブーをひたすらやろうとしてた人で、それを、当時で言うパトロンたちが、わかりもしないくせに称賛してたわけじゃないですか。そういう変な縮図が『パゾリーニ・スキャンダル』にはパッケージングされてるんで、すごく影響を受けたんですよね。そのくだらなさに」

――それで、石井さんはそのあたりをちゃんと覚えていて歌詞に落とし込んだと。

石井「そこを覚えていたというか、青さんは知識としてそういうことを知ってる人なんだって、衝撃を受けたんですよ。変な話、当時はそういう会話をする友達もまだいなかったから。20代ぐらいでそんな人はいないだろうなっていうか、もっと偉そうに、そんなやつは俺だけだって思ってるわけですよ。そんなときにもっとすごい人が……本職がいた、みたいな(笑)。それですごいなあと思って。俺はアートとか、ファッションとか、そういうところからのエロティシズムというか、入り方にもいろいろあるじゃないですか。映画も、絵画も、今のパゾリーニの話とかもそうだし、ハンス・ベルメールみたいなのも俺はそっちから入ってるんで、青さんとは入り方が違うんですよね。でも、好きな世界観とか影響を受けてるものに共通するようなところがあって、だからずっと覚えてたんです」

――青さん、最初にいろいろ言ってみてよかったですね。

桜井「そうですね(笑)。そこからさらに遡ること10年前、通ってた建築学校の担当の先生の一人に、やたらバタイユを薦める先生がいて、その先生に感謝かなって。ル・コルビュジエとかもそうだったけれど、マッシモ・スコラーリっていう建築家がいて、その人が作る椅子っていうのが、まあ単純な話で言えば、エロと建築を結び付けるっていう、わかりやすいものを作ってて、それと併せてジョルジュ・バタイユを薦められて。〈澁澤龍彦も知らねえで、ヴィジュアル系とか聴いてんじゃねえ〉みたいな(笑)。まあ、その先生の影響もあるけど、その前からいろんなものを読んでいて、きっかけはそもそもがボードレールの『惡の華』でしたからね。二十歳前後の頃って、とりあえずそういうものの知ったかになりたがるんですよ。すべて知ったかから始まって、次に繋がっていくっていう。その流れで自分にボードレールは向かねえわって思ったし、ボードレールよりは中原中也とか江戸川乱歩だし。それがまさか10年後、石井さんを繋ぎ留めるネタになるとは思わなかった(笑)」

――20年前の出会いがここで歌詞に結実するというのも感慨深いものがありますね。そして、最後は“ブルーフィルム”です。

桜井「これはテンポが劇的に速くなってますね。ライブに近い感じです」

――改めて、“ブルーフィルム”はいい曲だなって。私の個人的な感触だと、“青春狂騒曲”や“最後の宿題”と同じラインの青さがあるなあと。

石井「“青春狂騒曲”とかもいい曲だけど、“ブルーフィルム”はサウンドのオリジナリティーがダントツですよね。初めて聴いたとき、びっくりしましたから。音楽のジャンルがわからないでしょ? ドンドコドコドンドコドコってイントロからトライバルな曲が始まるのかな?って思ったら、急にギター・ソロが西海岸みたいになるし(笑)」

桜井「そこは研次郎君に言われたから」

――何かモチーフがあったんですか?

村井「ヴァン・ヘイレン。たまたまその日に聴いてたんですよ。“Jump”かな?」

石井「最初のタム回しみたいなのは何?」

桜井「あれは、何か回ってるイメージ。曲的にはほんとに難しくて、ドラムをどう持ってったらいいんだろう?って考えてああなったんですけど、よく聴いたらBUCK-TICKの“Hyper Love”じゃないかって(笑)」

――(笑)。そんなわけで通して振り返りましたが、秋にはツアーもあって。配信もされて、〈自称関係者席〉〈あなたのプロンプター席〉〈スペーシーギター席〉〈ベースキッズ席〉……と、関係者になりきったり、各メンバーに接近したりと普段は観られない目線でライブを楽しめるようですが。

石井「この間テストで録画してみたんだけど、自称関係者席とか研次郎君の手元のやつとか、おもしろそうでしたね」

桜井「単に配信するだけってのも、そろそろ皆さん食傷気味じゃないかなって。『ブルーフィルム』自体はコンセプト・アルバムですけど、+αでおもしろいことができないかなと。他にも加えられるパーツはいくらでもあるので、そこはお楽しみにって感じですね」

cali≠gari の近作。

 

cali≠gari メンバーの別プロジェクトの作品。