幻になりかかっていた名作が、20年越しにリヴァイヴァル! そのコンセプトとなった〈エロ〉への多彩なアプローチから見えるのは、このバンドの本質で──
〈エロ〉をコンセプトに制作されたcali≠gariの2000年作『ブルーフィルム』。“エロトピア”や表題曲など、このバンドの代表曲と言えるナンバーが収められているものの、長らく入手困難な状態だった同作が、20年越しに『ブルーフィルム -Revival-』として再登場する。オリジナルの7曲のシンプルな再録ではなく、二つの新曲とカヴァー曲も加えて全10曲の作品として再構成された本作について、桜井青(ギター)、石井秀仁(ヴォーカル)、村井研次郎(ベース)の三人に話を訊いた。
――『ブルーフィルム』は石井さんが加入して初めての作品なんですよね?
石井「そうですね」
――確か、制作中に前のヴォーカルの方が脱退されて、入れ替わりで加入されたと。その途端に〈エロ・アルバム〉を作ってます、っていうのはすんなり受け入れられたんでしょうか。
石井「まったく意味がわからなかったです。初めて皆さんとお会いしたとき、風俗絡みみたいな下品な方向じゃない、cali≠gariが進みたいエロの定義みたいなことを説明されたのを覚えてますね」
桜井「前任者が作ってた曲のタイトルが“ソープランド”だったり“幼児体型仔猫”だったり、どっちかっていうと性風俗とかフェティッシュなほうに寄ったものだったので、彼が存在するcali≠gariだったらそれが正解だったんですが、石井さんを取り込むためには単に〈エロ〉とは言っても何かもっと小難しいコンセプトを言っておかなくちゃいけないよなって思ったんですよ、当時は。それで、昔勉強した澁澤龍彦が訳したジョルジュ・バタイユの『エロティシズム』からの引用とかを片っ端から言っていくっていう手段に出たわけです(笑)」
――その結果、石井さんも含めてのアルバム制作が始まって。
石井「まあ、青さんがどういう感じの人かっていうのは何となくわかってたし、バタイユとか澁澤とか寺山修司とか、出てくる名前がなるほどなって感じだったんで。あと、レコーディングのスケジュールももう決まってて、むしろ、だから入ったのかなって感じはありますよね。〈これからどうしていくか一緒に悩もうぜ〉みたいなのだったら入らなかった(笑)。あと俺、その前にcali≠gariのライブを観たことがあって、“ゼリー”とか“僕は子宮”とか“誘蛾燈”とかすごいカッコイイなって思ってたんです。『ブルーフィルム』の曲だったら“エロトピア”はあまりないグラム・ロックに聴こえたり、“ミルクセヰキ”は俺のなかだとプラスチックスで。初期のチープなテクノ・ポップみたいなものもcali≠gariに似合いそうだな、割と自分の得意分野みたいな部分も活かせるのかなって、印象がすごい良かったんですよ」
――それで完成した『ブルーフィルム』は、通称〈 エロ・アルバム〉として知られる名作になって。それが、20年を経て『ブルーフィルム -Revival-』として新装されたわけですが……〈Revival〉という表現もいいですよね。復興/再評価という意味合いもありますし。
桜井「そんないいものじゃないんですけどね。研ナオコから取ってるんで」
――そうでしたか。
桜井「ほんとは、ビクターの方と〈Revival〉をひらがなにするのもいいですよねって話をしてて。研ナオコの曲は“りばいばる”なんですよ。だから『ブルーフィルム -りばいばる-』にすればわかる人にはわかるだろうなって。ただ、そこまでネタを仕込むのもなんかアレだしね」
――ひらがなだと字面的にも印象がだいぶ変わりますしね。で、今回の〈Revival〉版にはオリジナル版に収録の7曲に加えて新曲2曲とカヴァー曲も加わって。
桜井「セルフ・カヴァー盤っていうのは、得てして否定されるんですよ。作品への思い入れが強すぎて、過去のものがいいって。特に“エロトピア”と“ブルーフィルム”は過去で完成されちゃってるんですよね。例えばなんですけど、某バンドがインディーズで出したアルバムをセルフ・カヴァーしていたんですよ。オリジナルに入ってるのは名曲の数々だったから、カヴァーのほうも聴いてみたら、何だこれは、と。BPMが10ぐらい落ちている曲もあるし、何一つ良くないんですよ。あれはお手本でしたね。だから、いつか自分たちがそういうものを作るなら、昔の良さはそのままでいい、汚さない。そのうえで、新しく作ったものは〈同じだけど全然違う〉って、そういう印象を残すものにしたいなって。そのために、昔の素材も使って作り直してるんですよ。新録も、過去の素材もあるっていうのは『10』の〈Rebuild〉のときと同じ手法なんですけれど、今回は全体的にそれをやってますね」