〈この人に叩いてもらう意味がある曲じゃないと〉と思って作った

――では、そのあたりのお話も含めて、ここからは石井さんの楽曲について一曲ずつお訊きしますね。まずはBPM265の“脳核テロル”から。これはまあ、想定通りのほうですかね。

「変えようがないですよ。自由度がない曲ですよね。ただ、そのぶんこれを叩ける人っていうのもなかなかね(笑)。あとは、さっき話した撮影のときに、〈いちばん速い曲はSATOちに渡してくれ〉ってTetsuさんがおっしゃったんで、ええ」

――それは、速い曲ならSATOちさんだろう、ってことなんでしょうか? それとも自分は嫌だっていう……。

「そういうことでしょうね(笑)。Tetsuさんはオールマイティーですけど、どっちかっていうとアッパーな曲が得意な方というイメージがあって、そういう曲でこそ個性が発揮されると思っていたTetsuさんからそうやって言われたもんだから、それは〈自分が想定している以上に速い曲を作ってそれをSATOちに渡せ〉っていう意味なんだろうなって解釈して(笑)」

――SATOちさんはいい迷惑ですね(笑)。

「あと、SATOちは後輩というかね、MUCCとcali≠gariの関係みたいなものもあるから、ちょっと拷問チックなものを渡してもおもしろいかな、と(笑)。もちろん、本人がそういうの得意だって知ってるからですよ」

――これだけ速いハードコア・パンクだと、アルバム全体のなかでかなり強烈なカラーを帯びてくるところはあると思うんですけど、トータルのバランスは考えないで曲を作ってたんですか?

「うん、そういうのcali≠gariで考えることはないですから、俺は」

――ただ、石井さん的にいまcali≠gariで出すべき曲を持ってきている?

「まあ、そうですよね。自分が思うところのcali≠gari、でしょうね。あとは、青さんはこういう感じのものを作ってくるだろうから、って勝手に想像して……逆にぶつけるときもありますけどね。先に俺が出しちゃえば楽だぞ、青さんはもうこういうの出せないぞ、みたいなのもある(笑)。フォーク・ソングみたいなのは俺、絶対ないじゃないですか。ないっていうのは作れないってことですけど、この手の速い曲とかパンキッシュなやつっていうのはお互いの接点でもあるから、下手すると被るんですよ」

――だから今回は先に出してやれと(笑)。そして、この歌詞についてですが……。

「土田さんが〈こういうことなんじゃないかな〉って思ってることがあれば、正解だと思いますよ。だいたい正解してくるじゃないですか」

――そうでしたっけ? なんだかプレッシャーなんですが(笑)。私は、世情に対する皮肉だと思いました。それぞれが勝手なことを口にしつつ、能動的に動くことなく踊らされている、その様子を描いているものかと。まあ、政情に対しての話から身近なことまで、いろんなことにあてはまると思いますが。

「言ってることはそういうことですね、ポリティカルな感じはまったくないですけど。ただ、そういうふうに聴こえるように、見えるようにっていう表現を取ることはあるんですよ。昔の“舌先3分サイズ”とかもそう。だからこれも、いまおっしゃったことは合ってますけど、何に向けてっていうと〈バンドと客と〉っていう。俺が言うことってほとんどそこだけの世界ですよ」

――なるほど。バンドとお客さんの様子が見える曲としては“紅麗死異愛羅武勇”あたりもそうかなと思ったんですが……とりあえずは順番で、次は“颯爽たる未来圏”。これはcali≠gariのポップな面がすごく出てるように思うんですけど、ご自身としては〈あんまり書かないようなタイプの曲〉とおっしゃってましたよね?

「そうですね。すごく普通な曲だと思うけど、こういうトーンの曲ってcali≠gariにあんまりないですよね。疾走感があるんだけど、少し哀愁があるというか、明るい曲ではないじゃないですか。俺はドラマーが決まった段階で、〈この人に叩いてもらう意味がある曲じゃないと〉と思って作ったので、そういうふうに考えていったらテンポ感も、曲調も、こういうものになったっていうことなんですよ。だからTetsuさんが参加してくれてなかったら作ってないでしょうねって曲ですね」

――この曲は、ドラム以外の各パートの個性もクッキリ出てますよね。

「そうですね。この曲は、ギターで押したかったっていうのはあったんですよね。テンポ感があって、一回聴いた瞬間に曲の正体がわかるっていうのがまず最初のテーマで、あとはギターで押したかったっていう。俺が作るものでは、ギターで押す曲ってないんで。ライヴ・パフォーマンスを想定して、ある程度簡単なギター・リフで作ってるようなところがあったんですけど、どうしてもね、この曲はギター・ソロを求めていて。でも青さんは、俺の曲ではホントにソロを弾かないんですよ。ギター・ソロとして空けといたところも全然弾いてこないから、もうこの曲は最初から〈ここはギター・ソロなんだ〉ってことをアピールするために、デモでは俺が弾いたわけですよね。中盤わりと、それなりのソロがありますからね」

――青さんのクールなソロが聴けるところですよね。冒頭とラストに挿入されるギター・フレーズ然り、キャッチーなフックがところどころにあって、〈一発で正体がわかる〉という狙いは成功してると思いますよ。

「ただこの曲、トラックダウンに時間がかかったんですよね……。いろんなエフェクトを引いてった結果、最終的に、音もまんまな感じになったんですけど。今回は結構そういう曲が多いんですよね、全体的に」

――それはなぜでしょう?

「まあ、簡単に言ったら俺の気分もあるんだけど、今回はやっぱりドラムなんですよ。録り音の、プレイの段階で良いものであるのはわかってるわけだから、いかにそれを活かせるかっていうところでしたね。だからギミックの部分を減らして、生っぽいというか、きっちり耳に聴こえてくる音を大事にしたほうがいいだろうっていう発想ですよね」

――そこが納得いくまで時間がかかったと。そして歌詞については……。

「〈源氏物語〉の〈夕顔〉ね。わかんなかったですか?」

――ああ~、これ「夕顔」ですか。

「この、他と表現の違う2行に、そういうのが入ってる。俺、たまに百人一首的なものが入ってきたりするんですけど、要は作者不明の古典ですよ。まあ、〈夕顔〉の話が重要なんじゃなくて、それが能で使われてる一節を使いたかったというか、それがハマったんですよね」

――先に書いてた歌詞に。

「そうです。この一節ありきではなかったですね」

――確かに、散りばめられてるワードと繋がるといいますか……全体では儚さそのものを描いてるような。

「そう思いました?」

――思いました。

「ふふふ(笑)」

――あれ? 違いました?

「違うなんてことはないですよ。解釈はさまざまで。だって、何を言おうとしてもだいたい儚いじゃないですか。そんなもんでしょ? 生きててね、何やったって儚いですよね」

――例えば直近の曲だと“ウォーキング! ランニング! ジャンピング! フライング!”と向かう先は同じかなと思ったんですが……生きて、死ぬことではない?

「うん、そうですね……まあね、極端な話、最後は死ぬんだからパーッとやろうぜって言ってるような曲ばっかりになるんですよね、俺の曲は。その表現方法を変えてるだけで。あとはもう何も言ってないか」

――何も言ってないっていうのは、言葉遊びみたいなパターンっていうことですよね。

「そうですね。それだけなんですよね」