10年間で坂本龍一が書き下ろした幻の音源を一挙にコンパイル!

 YMOとして活躍した“教授”も既に還暦を迎えた。その間も文字通り世界の第一線を走り続けてきた彼が一貫して手掛けてきたものに “媒体向け”の作品がある。御存知『戦メリ』『ラスト・エンペラー』『鉄道員』といった映画音楽や、「い・け・な・い ルージュマジック(資生堂、1982年)」「energy flow(当時:三共、1999年)」などのCM曲等々…活動初期から現在に至るまで、様々な作品で視聴者を楽しませてくれた。その共通点として“分かり易さ”が挙げられる。通常のアルバムで用いられるような数多の音楽を機能的に融合させてゆくような実験的な要素は薄く、ストレートに耳に残る作風を用いている。(energy flowの美しい旋律は耳に残っている方も多いはず) 

坂本龍一 Year Book 2005-2014 commmons(2015)

※試聴はこちら

 今回の作品は、2005年から14年までの約10年に作成された未発音源を集めたコンピレーション・アルバムとなっており、その中には様々な企業向け(シンポジウムや出展ブースのために書かれた曲)、美術館、テレビ番組、映画音楽、そしてアート・エキシビジョンのための曲など、様々な媒体に使用されたものの、これまでお蔵入りとなってきた音源が数多く収められている。最近の作品としては、昨年(2014年)洋服の青山創業50周年を記念プロジェクトの、教授自身が指揮で出演したCMで使用された、ボレロ調のピアノ&オーケストラ曲《Blu》が挙げられるだろう。5分半ほどの曲ではあるが、ピアノの旋律から始まりオーケストラへ、坂本龍一特有の旋律と混じり合いながら盛り上がっていく様は心が沸き立つこと必至である。坂本龍一“入門”としても、一級品のアルバムと評していいだろう。昨年7月に中咽頭癌を告白し現在療養中である坂本氏だが、自らを“音楽の鉄人”と評する教授のこと、きっと元気な姿でまた様々なシーンで活躍してくれる事だろう。その時を楽しみに待ちたい。

【参考動画】坂本龍一の98年作『BTTB』収録曲“energy flow”