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ブラジル音楽と坂本龍一の縁で結ばれた3人による渾身のトリビュートアルバム

 昨年12月、伊藤ゴローは自分のバンドに、パウラ&ジャキスのモレレンバウム夫妻を加えて、日本の4都市や韓国のソウルで坂本龍一へのトリビュート・コンサートを行なった。『TREE, FORESTS tribute to RYUICHI SAKAMOTO』は、その際に披露された坂本のカヴァーを中心としたスタジオ録音盤だ。一曲目は、YMOの『BGM』から選ばれた“Happy End”。詳細は省くが、当時の坂本はYMOに不満を抱いていて、その苛立ちが曲名にも表れている。このカヴァーでは、当時から曲を気に入っていた元YMOの細野晴臣がエレクトリック・ベースを弾いている。

 「YMOの録音では、教授は自分のルーツにあったロマンチックな音楽語法をあえて排除したのでは、と思います。この曲はそんな教授を象徴しているようで、本来はメロディアスな曲を作る人だけど、自分自身と闘っていたような気がする。この曲は昨年のライヴでは演奏しなかったけど、最初からベースは細野さん以外に考えられなかった。本当に絶妙なベースだと思います」

伊藤ゴロー, JAQUES MORELENBAUM, PAULA MORELENBAUM 『TREE, FORESTS tribute to RYUICHI SAKAMOTO』 ユニバーサル(2025)

 坂本とモレレンバウム夫妻は、アントニオ・カルロス・ジョビンに捧げた『CASA』を一緒に録音した。もとから両方と親交を持っていた伊藤は、『TREE, FORESTS...』の編曲を手掛けている。こうしたことから伊藤は、坂本がジョビンから影響を受けていたことに改めて気づいたという。

 「バンドのメンバーのために自分で教授の曲をスコアに起こして気がついたのですが、ジョビンの要素にあふれている、と。もちろんドビュッシーに通じる要素もあるけど、ジョビンのエッセンスがハーモニーをはじめ、随所に散りばめられている。教授は影響を受けていたんだなあ、と再確認しました」

 『TREE, FORESTS...』には、『CASA』にも収録されているジョビンの“Fotografia”や、伊藤が作曲、パウラが作詞した新曲“Fragmentos”も含まれている。アルバムの本編を締め括るのは、パウラが歌う坂本の“Sayonara”だ。

 「パウラの中には、教授の曲をもっと歌いたいという想いがあったようで、このプロジェクトを後押ししてくれた。教授は『音楽図鑑』の頃から甘美でロマンチックな要素を復活させ、『CASA』で音楽的ルーツに立ち返ったという気がする。僕としては、そんな教授の音楽遍歴も伝えたかった。だから僕が選曲した“Happy End”は、ロマン的な音楽語法を強調した仕上がりになっています」