Love City 2015
[ 特集 ]都市インディーの源流
音楽の聴かれ方、表現の仕方が大きく変化した90年代。その幸福な時代を起点に、多様化する〈街の音楽〉など現在の日本のインディー界隈の源流を紐解いてみよう
シンリズム
早熟な17歳が提示する新しいリズム
AORやボサノヴァを消化したソングライティング、ウェルメイドでいて絶妙ないなたさも込めた70sテイストのプロダクション……この『NEW RHYTHM』には、〈老練〉という形容すら浮かぶ精緻に磨き上げられたポップソングが並ぶ。しかし、そのすべてを作曲し、アレンジを施し、歌っているシンリズムとは、いまだ17歳の少年なのである。中学生の時にベース、ギター、ドラム、キーボードといった楽器やDTMを次々と習得し、並行して作曲にも取り組みはじめたというこのアンファン・テリブルが注目を得たのは、ネットに宅録音源を公開したことがきっかけだった。才気迸るサウンドが大きな反響を呼び、2014年にはAno(t)raksからフリーの配信EPやCD-R作品を発表。徐々に認知を広げ、2015年に入った頃には、インディー・ポップを追いかけている向きならば、その名を耳にしている状況になっていたように思う。そして届けられたファースト・アルバムにして初の全国流通盤が『NEW RHYTHM』というわけだ。
本作はサウンド・プロデュースを高野勲が手掛け、小松シゲル(NONA REEVES)やファンファン(くるり)といったプレイヤー陣が参加。ストリングスやホーンを動員した豊潤なアンサンブルによって、シンリズムの重層的で多彩なアレンジのヴィジョンが見事に具現化されている。冨田ラボとタメを張る洗練と堂々たる風格。そして自由に音を紡ぐ喜びがここには詰まっている。
10代らしからぬ成熟した仕上がりの一方で、歌詞には10代ならではの繊細な感情が刻まれているのがまた美しい。早熟な才能と瑞々しい感覚とが稀有なバランスで共存しているという意味で、例えば(音のスタイルは違えど)荒井由実の初作を引き合いに出しても決して大げさではないだろう。よく似合う本名を持つ天才の歩みが、この眩いばかりの傑作から始まる。