シャムキャッツ主催のライヴ・イヴェント〈EASY 2〉が、10月10日(土)に東京・TSUTAYA O-WESTとO-nestにて開催される。昨年10月に第1回が開催された〈EASY〉ではメンバー自身が企画・運営に携わり、ブレイク前夜のAwesome City Clubに、ミツメやCAR10などのインディー・バンドからGRAPEVINEのような大物まで出演。その音楽愛に満ちたブッキングの妙や、ふたつの会場をハシゴしてライヴが楽しめるサーキット形式のタイムテーブルだけでなく、ZINEを展示・販売するスペースが設けられたり、ステージ転換のBGMセレクトにもこだわりを見せたりと、独自の取り組みも大きな注目を集めた。
実は縁あって、第1回ではZINEショップで本を売る側の立場として参加させてもらったのだが、アットホームな雰囲気にDIYな工夫が活きた運営、送り手と受け手が共にカルチャーを広く理解し、熱気溢れるライヴを楽しむ光景には大いに感銘を受けたものだ。あれから1年、さらにパワーアップした第2回の開催を前に、バンド側へ取材をオファー。夏目知幸(ヴォーカル/ギター)、菅原慎一(ギター/ヴォーカル)、大塚智之(ベース)、藤村頼正(ドラムス)の4人に、リスナー目線に支えられた〈自分たちが行きたくなるフェス〉の成り立ちやコンセプト、そしてSaToAやD.A.N.など注目の若手インディー勢から、シャムキャッツと同期のTHE NOVEMBERSや踊ってばかりの国、先輩に当たるトクマルシューゴやPOLYSICS(!)、海外からやって来るフワン・ウォーターズまで、今回出演する全10組への思いや見どころも語ってもらった。
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〈EASY〉ができるまでの経緯
コンセプトと価値観、独自の取り組み
――序の序から伺いたいんですけど、なんで〈EASY〉というイヴェントをやることになったんですか?
夏目知幸「最初は(シャムキャッツも所属する)Pヴァインのフェスをやろうっていう話が、なんとなくボンヤリとあったんです。でも、それが全然動かなかったんですよ。だから僕らの近くにいる人がとりあえず日程と場所だけ押さえて、それでようやく動きだしたんですけど、スケジュールも差し迫ってたから、Pヴァインにいるアーティスト……たとえば、トクマル(シューゴ)さんとかオウガ(Ogre You Asshole)も予定が既に埋まっていた。さてどうしようとなったときに、トクマルさんがボソっと言ったらしいんです。〈シャムキャッツがなんかやればいいんじゃない?〉って」
――そうだったんだ! シャムキャッツほど〈EASY〉という単語が似合うバンドもいないと思うけど、なんで〈EASY〉と名付けたのでしょう?
夏目「実は結構迷ったよね」
菅原慎一「うん」
――他にも候補があった?
夏目「いや、なかったからこれになったというのもあって。『AFTER HOURS』を作ったときもそうだし、2年前のツアーのタイトルも〈GO〉でしたけど、なんかあんまりこねくり回さないで単語1個ポン、の方がいいなっていう。小難しく考えてもしょうがないから」
――シンプルに考えた結果〈EASY〉になった、と。
夏目「そうです。風通しの良い単語かなって」
――実際に第1回目の〈EASY〉に行ったとき、このイヴェント名が本当にしっくりきたんですよね。〈まさに!〉ってかんじ。
菅原「そのとき出てもらったバンドたちも、そういうのを意識して呼んだんですね。声をかけるときにも一応コンセプトがあったんです。その〈EASY〉感っていうのが……なんて言い方してたんだっけ?」
夏目「あれだ、4人以上のバンドを呼ばないって」
菅原「〈豊かじゃない〉だ!」
夏目「そうそう、〈豊潤じゃないバンド〉」
――どういうことですか?
菅原「簡単にいえば、ロック・バンドのベーシックな形をとっている。管楽器とか入ってない、そういうバンドを呼びました。〈豊かじゃない〉けど、バンドの持つ芯の強さを感じられるような」
夏目「〈東京のインディーズ〉って一言で言ってもいろいろとあるじゃないですか。正直に言うと、いかにカクバリズムとか、とんちれこーどとかが持っている豊かさや楽しさと、違うものにできるか考えてた。そこは敢えて絶対呼ばないって決めてたんです」
――それは、好き嫌いとは別の話ですよね?
夏目「もちろん。むしろ超リスペクトしてますし、好きです。彼らのライヴを観てると、楽しさを与えられる人たちがバンドをやってるイメージを僕は持っているんですけど、そうじゃない人たちの音楽が集まっても楽しめるはずだって気持ちがあって。要は〈なんか賑やかでおもしろいですよ〉って提示はしないようなバンドというか」
菅原「そう、そういうバンドが実は集まっていた」
――最近は〈シティー・ポップ〉なんて括り方も出てきたけど、〈東京のインディーズ〉というボンヤリとした枠組みというかコミュニティーに対して、シャムキャッツはとても自覚的に向き合ってるイメージがあるんですよ。ベッタリとも違って、向き合い方を大事にしているというか。
夏目「そうですね。あと、〈まだ混ぜたりないな〉っていう気分もあったんです。いろんなものが混ざっていかないと、価値観が狭くなっちゃうじゃないですか」
――でも、いまみたいな世の中で〈EASYであること〉〈EASYに日々を過ごすこと〉ってすごく難しいわけじゃないですか。だから、〈EASY〉を標榜すること自体も、ひとつの価値観を提示しているのかなとも思った。そういうことに対してのこだわりは強い?
夏目「うん、強い強い。強いって言っちゃうと〈EASY〉じゃないじゃんってなるんで言いたくないですけどね。正直言えば、まあそういう心意気はありますよ」
菅原「〈ハード・イージー〉ですね」
――〈ハード・イージー〉ってカッコいい(笑)。
菅原「でも今年の〈EASY 2〉はまたちょっと違って。基本は一緒だけど、出演者を選ぶ基準はもうちょっと緩くして、間口を広げました
――そんな感じしますよね。出演者の話はあとでじっくり伺うとして、〈価値観を混ぜる〉という話をもう少し掘り下げていくと、〈EASY〉は音楽というかライヴだけじゃないのもよかったんですよね。ZINEのショップもあったりして。
夏目「せっかく来てもらうなら、いろんな文化に触れてもらえたらいいなーと思って。〈自分が行きたいフェスを作ろう〉というのがまず前提にあるし、〈みんなが来たくなるフェスにしたい〉というのを出発点にしてシンプルに考えたらそうなった。あとフェスとなると、みんなメシとか頑張っちゃうじゃないですか。別に俺はフェスでメシとかなんでもいいんですよ、ハッキリ言って」
――わはは(笑)。
夏目「それより、もうちょっとおもしろいもんないかなーって。それに音楽が好きな人だったら、CD屋に寄ったあとに本屋に行くのって普通のルートじゃないですか」
――なるほど。〈EASY 2〉でも前年に続いてZINEショップが並ぶんですよね。今回の顔ぶれを見渡すと、CDのアートワークを手掛けていたりとか、音楽シーンにも接点をもつ人たちが中心に集まっているのかなと。
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菅原「去年の〈EASY〉をきっかけに、そこで出店していた方々が、そのあとも各々で交流していて。ここ1年くらい、あそこでZINEを販売していた人たちの周りが、いわゆるインディー界隈で(ジャケットの)アートワークとかグッズをデザインを作ったりっていう動きが活発だった印象があります。あと、去年はお客さんとして来てたけど、いい作品を作ってる人たちと関わるようになったり。今年は〈出たい〉って言ってもらった人も、出てほしいって思ってた人たちも、みんな呼んでみたんです」
――へー。これはライターや編集者にも言えると思いますけど、そういう人たちが交流する機会ってなかなかなくて。基本インドア派でシャイな人も多いし(笑)。だからこそ、そういう人たちが交流する場としても〈EASY〉が機能して、いろんな動きの活性化につながっているのはすごいですね。
菅原「そうそう、そういうことも言ってもらえました。あとは、〈TOKYO ART BOOK FAIR〉みたいなブック・フェスとも一線を画すというか、あくまでもバンドのシャムキャッツが選んでいて、自分たちの周りのいい感じの人が集まってるっていうのも伝わるといいかな」
――出店者の全員がオススメというのは大前提として、見どころというか、お客さんに気にかけてほしいポイントを教えてもらえますか。
夏目「イラストの人が多いけど、読み物というか、文章のZINEはおすすめです。そっちの人たちはパッと見では買いづらいかもしれないですけど、すごく面白いんで。ぜひ実物を手にとってみてほしいですね」
菅原「京都のタテイシナオフミさんという、(日本に)いち早くZINEカルチャーを紹介した人がいて」
夏目「メチャクチャいいんだよね」
――DIYカルチャーが根付いてるポートランドまで渡ったそうですね。向こうのZINEにある独特のテイストを表現している感じというか。
菅原「そうそう! それを京都で作っていて。それを夏目が……」
夏目「なぎ食堂のLilmagで買ったんですよ」
菅原「それで本人にメールを送ったら、タテイシさんもディアフーフとかUSインディーのバンドがもともと好きだったみたいで。俺らのこと知らなかったけど、ぜひ参加してほしいと声をかけたんです。そのタテイシさんが、東京に来て〈EASY〉のZINEショップでSTOMACHACHE.やサヌキ(ナオヤ)君と絡んでる光景を見て、すごくグっときたんですよね」
――出会うべき人たちが出会いを果たした、いい話ですね! そういうUS的なDIYカルチャーを継承する人たちもいれば、カメラマンの植本一子さんがいたり、ゆる~いテイストのイラストレイターさんもいたり……。
夏目「なんでもアリです」
菅原「なんだかんだ、音楽だけがずっと一日中流れていたら疲れちゃうから。ああいうスペースがあると、ちょっと休みながらゆっくり周ったりできるもんね」
――出店者はもちろん、お客さんにも思わぬ発見があるでしょうし。
夏目「あと、初めて規模の大きいイヴェントをやるって考えたときに、自分たちと、出演してもらうバンドだけだと広がりが足りないかなって思ったんです。そこで、もっと〈当事者〉を増やしいっていうのもあったんですよね。〈自分もこれに参加してるぞ〉って。イヴェンターがついてるわけじゃないので、宣伝にしても、参加してくれる人たちの広がりに頼るしかないですから」
――みんなでフェスを創り上げるというか。
夏目「自分たちが主催だって空気もなるべく消したいんですよ。それをするためにどうしたらいいかなって考えたんです。ZINEもそうだし、BGMもそれに繋がってて」
――タイムテーブルをご覧のとおり、〈EASY〉ではステージ転換のBGMを、レコード・ショップやメディアの人だったり、出演バンドのメンバーが選んでるんですよね。これもおもしろい試み。
菅原「セットリストを紙にして配ったのも良かったんですよね」
――その場でどの曲がかかっているのか一目でわかる→ライヴ以外にも音楽との出会いがお客さんに用意されている→選曲にも力が入る、といった具合に相乗効果も生まれていて。
夏目「ナイスアイディアだったよね。ココナッツディスク(吉祥寺店)の矢島(和義)くんに至っては、ターンテーブルで曲を繋いだものを、わざわざ録音して。要するにDJミックスしたデータが送られてきた」
――凝ってますね。個性的な選曲をしそうな人たちばかりだし、シャムキャッツにとっても発見や刺激があったんじゃないですか?
夏目「僕らが先に一回音源を預かるわけで、それを車で聴くのがメチャクチャおもしろい」
菅原「前回の〈EASY〉は、シャムキャッツの出番前の選曲をバンビ(シャムキャッツの大塚)が担当したんですけど、すごくおもしろかった」
大塚智之「おもしろかった?」
菅原「よかったよ。マイケル(・ジャクソン)多かったよね?」
大塚「いやいや、最初がマイケルで基本的にジャズ。でも、ちゃんと〈EASY〉感を考えたよ(笑)」
――今年はPOLYSICSのハヤシさんや、D.A.N.の櫻木大悟さんもBGMをセレクトしているんですね。それにしても、第2回。よくぞ企画してくれました。しかもパワーアップした感もある。
夏目「〈Shimokitazawa Indie Fanclub〉が(近い時期に)あるから、別にやんなくてもいいんじゃないかとかは正直ちょっと思ったんですよ。でも、ノリや空気もだいぶ違うし、やったほうがいいよって周りからも言われて。それに、最初の時点で2年は絶対続けようと思ってたんです。1回で終わると、一発屋じゃないけど、気まぐれでやったのかなって思われそうだし。2年やれば恒例というか。次に繋がるものになっていくかなって。それに、自分が知る限りこういうイヴェントがほかにないから、東京に存在させといたほうがいいのかなって」
――絶対にそう思いますよ。出演者や関係者、それにお客さん。どういう立場で参加しても、誰かしらにとって何かしらの発見が絶対にあるというか。
夏目「そうですね」
――それは人との出会いかもしれないし、音楽との出会いかもしれない。あとはちょっと、文化祭っぽいとも思ったんですよ。オトナの文化祭。そういう居心地のよさと手作り感覚があって。〈インディー的〉なこだわりを大事にしてるというか。
夏目「そうそう。大事にしてる、兼、それをどう破っていくか、それにとらわれないかがテーマですね。所属してる場所でのインディーか、インディーじゃないかって判断するのが一番くだらない。そういうものをどう壊していくのかですよね」
――ファッションでなくアティテュードとして、みたいな?
夏目「〈インディー〉って言葉に対して、僕は何の執着もないというか。全然インディーじゃなくてもいいと思ってる。独立、自主性があるって意味での活動はしていかなければと思いますけど」
菅原「(前回の〈EASY〉で)GRAPEVINEを呼んだのとかもね。守るとこは守りつつ、でもかき混ぜるっていうのが、たぶんいま夏目が話していたこと。横の繋がりで仲のいい奴らを集めて〈イエーイ!〉じゃなくて、ちゃんと縦も意識してね」
夏目「近いようで遠いネットの繋がり方ってあるじゃないですか。今回のラインナップは特に、ネットでは知ってるというか、〈音源は聴いてるしYouTubeも観ているし、いいよねー。でもライヴは行ったことないんだ〉って、お客さんが思っていそうな感じのゾーンを具現化したイメージ」
――というのは?
夏目「たとえばTHE NOVEMBERSとシャムキャッツは、俺が小林(祐介)くんと個人的に仲がいいだけなんだけど、お互いシンパシーは感じていて、実際に繋がっている。でも、お客さんは若干被ってはいるんだろうけど、ライヴに足を運ぶまでのテンションには持っていけてない気がして。だから、その辺をもっとおもしろく繋げられないかなって。小林くんにもそういうメールを送ったら、自分たちのワンマンも近いのに〈すごく出たい〉と言ってくれる男気ですよ。他の出演者に対しても、そういう気持ちがあります」