G.RINAがトンでもない傑作を携えて帰ってきた! 〈シンガーソング・ビートメイカー〉と謳い、エヴァーグリーンなポップ・ミュージックと最先端のベース・ミュージックの間を軽々と行き来してきたG.RINA。前作『Mashed Pieces #2』以来、実に5年ぶりとなる彼女のニュー・アルバム『Lotta Love』は、ルーツでもある80sファンクやブギー、ダンス・クラシックのエッセンスを現代的に表現したカラフルな作品となった。2013年にはシンガーとして参加したtofubeats“No.1”が大きな話題を呼んだほか、今年7月リリースのZEN-LA-ROCK“MOON”でもフィーチャーされ、ここ最近はシンガーとしての魅力に改めて注目が集まっていたG.RINAだが、『Lotta Love』では持ち前の音楽センスとシンガーとしての実力の両面が遺憾なく発揮された一大傑作となっている。
――『Mashed Pieces #2』以降の5年間でいろんなことがあったと思うんですけど、RINAさんの生活においていちばん大きな変化がご出産されたことじゃないかと。
「そうですね。子供が生まれた直後は物理的にDJも含めて活動できない時期もありましたし、制作に関しても作りたいときにすぐに作るような音楽生活からは一変しました」
――出産後、聴く音楽って変わりました?
「特に聴く音楽は全然変わらなかったですね。DJの予定がなくても新しい音楽を探しにいってしまう感じは変わらずです」
――出産して柔らかい音楽へ興味が移行される方もいますけど、RINAさんの場合は出産後、アフリカのゲットー・ベース・ミュージックをテーマにしたミックスCD(2012年の『♡♡AFRICA』)を作ってるわけですもんね(笑)。
「そうなんですよ(笑)。辺境の音楽やゲットー音楽の探索は続けたいですね」
――5年ぶりといってもその間にシンガーとしてのフィーチャリング・ワークスが結構頻繁にあったので、あまり空白期間という感じはしませんよね。
「制作活動を休んでいた期間が長かったので、自分としては音楽活動そのものを休んでいたという感覚はあるんですよ。ただtofu(beats)くんとの“No.1”とか、関わった曲が聴いてもらえているのを感じることができたので、それは励みになりました。フィーチャリングの場合はトラックが送られてきて、それに私が歌詞とメロを乗せるという形が多いんですが、それは私にとってもすごく楽しい作業なんです。録音も自分でするので、作業時間もそんなにかからなくて。なので、自分自身の制作ができなかった時期にもそういう依頼をいろいろいただけたのは、とてもありがたかったですね」
――2010年以降であればDORIANの“Natsu No Owari”(2010年)やFencerの“シーサイドタウン”(2012年)、ZEN-LA-ROCKの“MOON”(2015年)などへのフィーチャリングもありましたよね。彼らに対して何か特別なシンパシーを感じる部分もありますか?
「トラックメイカーの多くは家で作業していて、データのやりとりですぐいろんなことを進められるという制作スタンスが似てるのかな、と。頼むほうも頼まれるほうも気楽だし、試行錯誤できる。海外のアーティストもそうですね、昔からそんな感じでいろいろやっています」
――ところで、RINAさんがいちばん影響を受けたシンガーは誰なんですか。
「(即答して)シャーデー。もうレジェンドすぎて影響というのもなんですが……。私はブラック・ミュージックが大好きなんですが、アレサ・フランクリンみたいに歌うことはできない。シャーデーはそんなに歌い上げるわけじゃないんだけど、とてつもなくソウルがあって」
――アレサ・フランクリンのように歌い上げようとした時期もあるんですか?
「いや、まったくないです(笑)。黒人のアーティストでもジャネット(・ジャクソン)とか、優しい声で歌うシンガーのほうが好きですね、やっぱり」
――なるほど。で、今回のニュー・アルバム『Lotta Love』なんですが、当初の構想はどういうものだったんですか。
「最初は夏・秋・冬・春と季節ごとに配信シングルを出して、それからアルバムを出そうと考えていたんです。でも、そんな勢いで作れなくて(笑)。いずれにせよ、アルバムではMidnight Sunという架空のソウル・バンドをサブ・テーマにしようとは考えていました。3枚目のアルバム(2007年作『大都市を電車はゆく』)の後にリリース・ツアーをしたとき、すでにG.RINA & Midnight Sunという名前でやっていて、その時点では今回のアルバムの1、2曲目でやったことをイメージしていたんですね。ブギーやファンクに特化したサウンドを現代らしく、そして日本語でやるという。でも、その後に出産などがあってできなくなってしまった。なので、今回のアルバムはそれ以来8年越しのアイデアでもあるんです」
――今回のアルバムでも中心的役割を担っているキーボードのIg-arashiさんは、8年前からのお付き合いなんですよね?
「そうですね。Ig-arashiさんは70~80年代のソウルやファンクからトランスまで聴く方で(笑)、おもしろいなと思って。1曲目の“ミッドナイトサン”は8年前のライヴの冒頭でやっていたインストに新たに歌を乗せたもので、そこにIg-arashiさんと肉付けしていってこういう形になりました」
――“ミッドナイトサン”のような80年代っぽいブギー・ファンクもRINAさんのルーツにはあるものなんですか。
「“ミッドナイトサン”というタイトルはミッドナイト・スターからきてるんですけど、ミッドナイト・スターとかSOSバンドは本当に大好き。汗があんまり飛び散らない感じのメロウなファンクというか。あとはザップですね。落ち込んだときはYouTubeでとりあえずザップの映像を観ます(笑)。BETという黒人専門チャンネルでのライヴが最高なんですが、持ってたのがVHSだったから、まったく同じものがYouTubeにあって助かってます(笑)」
――でも、これまでのアルバムにはそういうザップ的なメロウ感はあんまり出してこなかったですよね。
「そうですね……、ヒップホップにしてもファンクにしても、様式美みたいな部分がありますよね。好きだからこそ、そことどう向き合うのか時間が必要だったんだな、といまは思います。あと私がバンドから音楽活動に入っていないので、80sファンクのバンド・サウンドのイメージを共有できるプレイヤーとの出会いがあんまりなかったんです。でも、2007年に『大都市を電車はゆく』を作った後、バンドメンバーを探していてIg-arashiさんと出会ったり。Kashif(ギター)さんもそうですが、今回のような音を作るにあたって、イメージを共有できるプレイヤーとの出会いは欠かせなかったんです」
――あと、最近は生バンドでファンク/ブギーをやる人たちも増えてきてますよね。そういう状況に後押しされたところもあります?
「タキシードやクローメオ、他にもいろいろいますね。いい曲もいっぱいありますし、単純に好きですね。でも、悔しかったですよ、〈もっと早くやりたかったのに!〉って(笑)」
――8年前にやってればタキシードより早かったのに(笑)!
「ホントですよ(笑)。あと、いまの質感にするにはどうしたらいいかをいちばん悩んだんですけど、ミックスのバランスを考えるのに、まさにそこらへんの現行サウンドをいろいろ聴き比べたりはしましたね」
――今回のミックスはIllicit Tsuboiさんがやっていらっしゃいますね。
「Tsuboiさんにミックスしていただけたのはすごく大きくて。TsuboiさんにはOMSBくんとやった曲※で初めてミックスしていただいたんですけど、その時に〈これだ!〉っていう感覚があったんです。Tsuboiさんはヒップホップをベースにしながら、いまの音楽もいろいろ聴いていらっしゃるんですよね。なので、すごく話が早かった」
※OMSBの2013年のコンピ『160OR80』収録曲“Love, Not For Sale”↓
――言葉にしにくいと思うんですけど、〈いまの質感〉の特徴ってどういうものなんですか。
「Tsuboiさんには〈とにかくドライにしてください〉というお願いをしました。あんまり艶っぽくしないというか。そこで言う〈ドライ〉という感覚をすぐに掴んでくださって、音にしてくれたんです。80sってリヴァーブであの空気感を出してると思うんですけど、私にとってのいまの質感というのは、あのリヴァーブ感じゃなくて、もっとドライなものなんですよね」
――キラキラはしてるけど、ツヤツヤはしてない。
「そうですね。フワーッとしてないというか、どこかカチッとしている。同じ音をめざしても、ミックスで全然印象が変わると思うんです。今回は結構思い切ったミックスだと思うんですけど、それが良かったと私は思ってます」

――今回はいろんな方が参加してますよね。Kashifさんが4曲参加されていて、“Kamakura”なんかじゃギターを弾きまくっている。
「Kashifさんがいちばん好きなのは山下達郎さんだと思うんですけど、カシーフって名前がずばりブラコンですし(笑)すきな音楽の共通項が多いので、作業も楽しいです。Kashifさんもあんまり汗をかかない感じがあって、さりげないソウル感。でもこの曲ではばっちり熱いソロ弾いていただきました」
――“黄昏のメモリーレーン”や“Virtual Intimacy”ではGolby Soundがアディショナル・プロダクションでクレジットされていますね。
「ファースト・アルバム(2003年作『サーカスの娘』)の頃からライヴを手伝ってもらったりしていて、制作でもときどき相談するようになって。“黄昏のメモリーレーン”の場合はほぼ出来上がった状態のものを〈ちょっと聴いてもらえませんか?〉と送ったところ、音が足されて返ってきて、それが良かったのでブリッジ部分として採用させてもらったり、他でも私がシンセで入れていたパートを〈ピアノにしてもいいんじゃない?〉と提案してくれて、それが良かったので採用させてもらったりとか。基本は一人きりの作業なので煮詰まってしまうこともあって、そんなとき唐突に音を送って〈これどう思います?〉と訊ける存在なんです」
――その“黄昏のメモリーレーン”ではやけのはらさんがフィーチャーされています。
「やけのはらくんたちが横浜でやってるパーティーに呼んでもらったこともあったし、〈いつか一緒に曲を作れたらいいですね〉という話はしていて、今回ようやくできました。この曲はホーンを入れたいと思って彼に相談したら、思い出野郎Aチームの2人を紹介してくれたんです」
――“Back In Love (Music)”ではPUNPEEさんをフィーチャーしていますが、彼は共同プロデューサーとしてもクレジットされていて。
「最初、PUNPEEくんからは〈サンプリングでやってみたい〉という提案をもらったんですね。彼とやるんだったらそれもおもしろいかなと思って、サンプリングで何曲か作って選んでもらって。そこからいろいろ相談しながら音を足していったり、構成を考えたり。エリカ・バドゥとコモンの“Love Of My Life (An Ode To Hip Hop)”に通じるような、ヒップホップや自分のルーツにある音楽への思いを男女に例えたような曲にしようというアイデアから始まっていたので、自分のなかのクラシックといえる好きな音楽からサンプリングしました」
――LUVRAWさんのトークボックスがたまらなくメロウな“Sweet Juicy Luv”も最高ですが、彼とは前作の“国道一号”以来の共演となりますね。
「そうですね。“国道一号”ではLUVRAW & BTBとしてやってもらいました。アルバム全体のテーマとして〈いろいろな愛〉について歌いたいと考えていたので、〈愛〉といえばハマの甘党LUVRAWくんかなあと思って(笑)。アメリカのR&Bみたいなエロティックな表現って日本だと少ないように思うんですけど、トラックのデモの時点でこの曲は〈性愛〉だなと。それにLUVRAWくんだったら応えてくれるかなと思ったんです」
――先ほどから何度か名前が出ているtofubeatsさんも“No.1”のアンサーソングである“愛のまぼろし”でフィーチャーしていますね。
「“No.1”という曲を歌ったことによって、実際活動できていない時間も自分の歌声をいろんなひとが聴いてくれて。そのことに対して私なりのお返しができるとすれば、アンサーソングを作るのがいいかなと思ったんです。彼の声には憂いがあっていいなあと思っていたので、今回はtofuくんにはヴォーカリストとして参加をお願いしました。ただ、tofuくんにしてもPUNPEEくんにしても素晴らしいプロデューサーでもあるので、わりとシンプルな段階からトラックを投げていたところ、ふたりとも音を足して返してくれて、結果的に共作になっちゃいましたね。おもしろいなと思ったのが、ベースになるトラックはわたしが作っているんですが、図らずも2人ともそこに思いっきりキラキラしたシンセを重ねて返してきたりして」
――へえ。何のリクエストもしてないのに?
「そうなんですよ。私がやろうとしていることを汲み取って、その音色を選んでくれたと思うんですが、彼らの嗅覚とかセンスを感じました。ひとりの世界ではこういう仕上がりにならないだろうというものが音の面でも出来たのが、嬉しかったですね」
――この“愛のまぼろし”はホント名曲だと思いますよ。
「本当はこんなにベタベタに作っちゃっていいのかな?と思ったんですけど、tofuくんが初めて“No.1”を送ってくれたときもそう感じたんですよね。でも、そんな“No.1”に対しての反響が私にとってはすごく新鮮で。なので、このアンサーソングは自分のなかでも振り切った感じで書いてみようと」
――さっきおっしゃっていた〈いろいろな愛〉というテーマは最初からあったんですか。
「愛の形にもいろいろありますよね。音楽愛、郷土愛、自己愛であるとか。なんとなくこのアルバムは〈前向きな言葉を歌いたいな〉と思っていて、たとえ悲しいことも愛を感じられる表現で歌いたいと思ったんです」
――〈前向きな言葉を歌いたい〉と思うようになったきっかけは何かあったんですか。
「やっぱり子供が生まれたからなのかな。車中でもデモ(音源)をよくかけているので、子供たちは鼻歌で私の歌を口ずさんだりしてるんです。いずれ歌詞の意味がわかったときのためにも、あんまり卑猥なことは……というのは冗談ですが(笑)。自分の子供に限らず、子供たちには音楽を好きになってほしいなあと思うんですが、どんな音楽でもいいんですよ。それは私自身が、音楽は一生の友達だなと感じているからで。前向きな言葉というのも〈わかりやすい元気ソング〉という意味じゃなくて、ふと歌詞カードを読んだりしたときに、少しでも生きていることを肯定できるような、なるべくそんな気持ちになれる音楽を作れたらいいなと。それは歌詞に限らず、ダンス・ミュージックにもそういうちからがあると思うんです。私の音楽を聴いてくださる方に対して、自分の子供に対して、私が目の前にいなくても、ひとりぼっちの時でも、この音楽がいつか良き友になってくれたら作った甲斐があるかな、って――ひゃーすいません、熱くなってしまいました……」
――いやいや、そういう言葉が聞きたいんですよ。今後の活動についてはどういうイメージを持ってます?
「パーマネントなバンドとしては活動できないかもしれないですけど、12月2日のリリース・パーティーではこのアルバムの音を〈Midnight Sun〉バンドで再現したいと思っています。ゲストの方はもちろん、ダンサーも入れて、この音楽で表現したい世界観を生々しくやっちゃおうと。あと、このアルバムをアナログにしたり、リミックスも作りたいですね。他のアーティストの方に曲を書くことも続けたいですし。まだ思いきり活動できるってわけじゃないんですけど、やりたいことは時間をかけてもなるべくやっていきたいです」

G.RINA『Lotta Love』RELEASE PARTY
日程:12月2日(水)@東京・NOS EBISU 19:00開場/24:00終演
前売チケット:立見 3,000円/着席(45席限定)3,000円+飲食代・2,000円
〈特典〉着席・立見の方に先着順でG.RINAからのお便り&スペシャル音源“Midnight Sun feat. ZEN-LA-ROCK”をプレゼント
ライヴ:G.RINA & Midnight Sun
ゲスト:tofubeats/PUNPEE/やけのはら/LUVRAW
DJ:DJ JIN(RHYMESTER)/MAL(PART2STYLE)/やけのはら
MC:ZEN-LA-ROCK
