FNCYでも注目を浴びる、唯一無二のエレガンスを備えた才能がニュー・アルバム『Tolerance』を完成。エッジーな音とディープな言葉に込められた真意とは?

〈許容〉とは?

 傑作『LIVE & LEARN』から4年。その間には鎮座DOPENESS+ZEN-LA-ROCKとのトリオ=FNCYの活動が大きく脚光を浴び、一方ではプロデュースや客演などもコンスタントに行ってきたG.RINA。昨年7月に久々のソロ曲“退色”を配信した後、11月の“Magnetic, Galactic”を皮切りにふたたびメジャーからの楽曲を重ねてきたが、その成果が素晴らしいニュー・アルバム『Tolerance』として形になった。

 「ずっとアルバムの話はいただいていて、ソロも出したいなと思いながら、FNCYのライヴとか制作も進んでいて、なかなか取りかかれなかったんですけど、いろんなツアーとかがなくなって、〈あっ、いまならできる〉みたいなところもあり(笑)。配信だけの曲を自主で出したことがなかったので、まずはそれを一回やりたいなと思って“退色”を出して、それから本腰を入れてアルバムに取りかかった感じでした」。

 基本的には「その時はその曲しか出来ていないっていう状態」で出来た順番に配信リリースを重ね、アルバムには全11曲を収録。セルフ・プロデュース主体の作りは前作同様だが、昨今の社会状況が創作に及ぼした影響はあったのだろうか。

 「物理的に作る時間を得ることができたっていう面はあるんですけど、それでも制作に時間は凄くかかっちゃったので(笑)。この状況じゃなかったら、もっとかかってたかもしれないし。完全にオンラインだけなのは海外の方だけで、基本的に参加していただいて会える方には実際に会って作ってるので。だから、コロナの影響よりも、FNCYを経て、その間に自分に起こったことの影響のほうが大きいですね。〈Tolerance=許容〉っていうテーマもそこから出てきたことで」。

 多くを説明する必要はないが、作中のキーとなる表題曲“Tolerance”に綴られた思いは、FNCYが一時休止した際に抱いたさまざまな葛藤に起因するもののようで、そこに端を発する、昨今の荒んだ風潮への眼差しは、アルバム『Tolerance』全体を緩やかに包むテーマとなった。

 「もちろん曲の内容はいろんなふうに解釈してもらえたらいいなと思うんですけど。他人を許容することは自分を許すことでもあるし、人をジャッジするっていうことは自分もジャッジしてしまうっていうことで。それは自分の身の回りで起こったことに限らず、いろんなことでそう感じて。SNSにしろ何にしろ、とにかくみんな断罪したがるけど(笑)、TVに映ってる人でもアーティストでも誰でも、みんな生活とか人格があって、何を言ってもいいわけじゃないっていうか。人を傷つける過激な言葉が簡単に放てるからこそ、それは絶対自分に返ってくるし。だから、優しさも巡り巡って自分への優しさになるっていうか。そうやって世界を見る時にもう少し寛大になることが自分への寛大さにも繋がるから、もっと優しさで世界を見れないかなって。そう感じてたことが全体的に出てるかなと思います」。

 そんな意図をあえて説明しなくても、この『Tolerance』の品格を濃密に印象づけるのは繊細に編まれたリリックだ。彼女が先鋭的なトラックメイカーであり、最高のヴォーカリストであるのは言うまでもないが、先述の“Tolerance”にしろ、メロウな音像で深い言葉を包んだ“魅力”や“PMS”にしろ、そうした傾向の垣間見えた前作『LIVE & LEARN』からさらに進んで、より〈言葉のアルバム〉になっている。

 「嬉しいです。やっぱりヒップホップが凄く好きなので、リリックではいつもメッセージなり自分の中のリアルなりを凄い大切に考えてるんですけど。今回はそれをより考えたかもしれないですね」。