盤石かつ野心的なクリエイティヴィティーが3人の個性をふたたび解放! いまの世に響くパーティー・ミュージックは、聴き手の思いをさまざまに揺らすもので……
ZEN-LA-ROCK、G.RINA、鎮座DOPENESSによるユニット、FNCYが2枚目のフル・アルバム『FNCY BY FNCY』を完成させた。2019年夏のデビュー作『FNCY』以降も彼らは配信やアナログ7インチのリリースを重ねており、作品発表のペースからもグループの快調な様子が伝わってくる。
「昨年の『TOKYO LUV EP』、その後の『みんなの夏/CONTACT』をリリースして、〈もう何曲か追加したらアルバム!〉というところまでは見えていたので、コロナの具合を見ながら(制作を)進めていたらこの時期になっていた感じです」(ZEN-LA-ROCK)。
多くのトラックをG.RINAが担いつつ、今回も外部プロデューサー陣が参画。とりわけアルバムのトーンを担うようなサウンドで大きな貢献を果たしているのがオランダのトラックメイカーであるジェンギ・ビーツだ。メンバー3人が「アルバム制作のキーになった楽曲」だと語る“TOKYO LUV”“New Days”と、冒頭を飾る“FU-TSU-U(NEW NORMAL)”の3曲にメロウかつファンキーなシンセ・ビーツを提供している。
「ジェンギの“Good Good”(2018年)が好きで、ファンシーなトラックメイカーだなと感じたので、〈どうかな?〉と(メンバーに)相談しました」(G.RINA)。
「1枚目のアルバムでオランダ・アムステルダムのマイダス・ハッチ氏に楽曲提供してもらってまして、ちょうど日本で彼に会って〈ジェンギは知り合い?〉と訊いたところ、即繋いでくれて。2020年2月に彼が来日していたタイミングで1回遊びました」(ZEN-LA-ROCK)。
ニュー・ジャック・スウィングのビートが弾む夏ソング“みんなの夏”とGファンク調のラヴソング“him i gotta love”を手掛けたのはgrooveman Spot。どちらの楽曲でもKASHIFが小気味良いギター・プレイで寄与しており、FNCYらしいポップなアプローチが冴え渡る仕上がりだ。
「“みんなの夏”は、昨年にコロナ禍で実施していたFNCYのラジオ風配信番組に両者がゲスト出演していただいた際の流れで実現しました」(ZEN-LA-ROCK)。
「お2人は〈この3人がなぜFNCYなのか?〉を本質的に理解してくれてて、それを音に落とし込んでくれてると思います!」(鎮座DOPENESS)。
こうした外部プロデューサー陣がFNCYのキャラクターを汲んだ盤石の仕事ぶりを見せる一方で、G.RINAはグループのサウンド面の枠組みを拡張するように、さまざまなスタイルの野心的なトラックばかりを設えているのがおもしろい。特に、UKガラージのような“COSMO”や往時のヒップ・ハウスをモダンに昇華した“REP ME”の速いBPMによるダンス・ミュージックへのアプローチが鮮烈な印象を残す。
「“TOKYO LUV”や“みんなの夏”がすでにあったので、私の役割としては、確かに1枚目より冒険ができるなとか、横道に行けるなという意識で作れました。ヒップ・ハウス的なサウンドの現代版とか、FNCYではいろいろなアプローチのダンス・ミュージックをやりたいといつも思っています」(G.RINA)。
BTB特効のプロデュースによる“FOOD GUIDANCE”は、「〈居心地の良さを感じられる飲食店との出会いはスピリチュアル〉がテーマ」(鎮座DOPENESS)だという食ソング。“あなたになりたい”ではメンバーがリリックを通じてヒップホップ愛を表明している。こうした多様なトピックを楽曲ごとに掲げ、3MCがそれぞれのリリックをラップし、歌うというグループ・ラップならではのエンタメ感が最高に楽しい。一方で、“FU-TSU-U(NEW NORMAL)”や“New Days”ではコロナ以降の心象が綴られており、シリアスなメッセージ性もアルバムを通して読み取れる。
「いろいろ経験して少しずつ(年齢的にも)大人になった? なれてきた?というのと、この現在も続くコロナというのは無茶苦茶大きいと思います。40過ぎてのB-BOYライフは真摯な気持ちになります」(ZEN-LA-ROCK)。
パーティーが成立し辛い状況で生み出された本作には、それゆえにパーティー・ミュージックの喜びが詰まっているし、その多幸感が反転して胸に迫る瞬間もある。ダンスフロアに思いを馳せながら、この晩夏、FNCYが紡ぐメロウでファンキーなラップ/ダンス・ミュージックを満喫したい。
左から、G.RINAの2021年作『Tolerance』(ビクター)、ZEN-LA-ROCKの2017年作『HEAVEN』(GLUE)、U-zhaan×環ROY× 鎮座DOPENESSの2021年作『たのしみ』(Golden Harvest)、FNCYの2019年作『FNCY』(EVIL LINE)、grooveman Spotの2020年作『Resynthesis(Yellow)』(Scotoma Music)、BTB特効の2018年作『SWEET MACHINE』(PAN PACIFIC PLAYA)