(C)Lawson Daku

アルメニアの根とフラメンコの幹から、自由に枝葉を拡げるLAの才人

 「古いカンテ・ヒターノ(ジプシーが紡ぐフラメンコの歌)に、アルメニアを詠んだ歌詞があるんだよ」と、彼は流浪の民が辿った古層の記憶を教えてくれる。好きな酒はアルメニアンブランデーのアララト。でも終演後、くいくい飲んでいたのはテキーラ。さすがロサンゼルス育ち。たっぷりソロで魅了した後、ヤヒロトモヒロ定村史朗が加わり、充実のセッションを披露。「これだけ自然にルーツを出せるとは、羨ましい」と、感嘆を漏らす定村。「すごいギタリスト。もっと勉強します」とは、ヤヒロの弁。世界を股にかけるつわものらをして、かく言わしめたバハグニは、まだまだ語るべき物語を内に秘めている若き才人だった。

 「ボクの音楽は、おそらくLAで培われたものだ。そして、とても深い部分でアルメニアのルーツがあり、演奏スタイルにはフラメンコの要素がある。でも最新作では、より自由であることを目指した。ときにフラメンコから完全に離れ、アルメニアともかけ離れた音楽を紡いでいるよね。だから『イマジンド・フリークエンシーズ』と名付けた。ひとつの領域に固執したくなかった。エレクトロニカや前衛、クラシックの影響も含め、身体の中で沸騰する音楽の周波数を通し、自らのイマジネーションを誠実に表してみたんだ」

VAHAGNI Imagined Frequencies Vahagni/BARRIO GOLD(2015)

 自画像みたいなアルバムと、彼は補足した。

 「LAの音楽文化は極めて多様性に富み、まるで濃縮された小宇宙だ。鼓動のエネルギーに満ちた環境がボクをオープンマインドにさせ、好奇心を掻き立てる。確固たる基礎を築いた後、樹木のように成長し枝葉を拡げていくべきだ。2008年の『ショート・ストーリーズ』に始まったシリーズが、これで完結したんだよ」

 ならば、次なる新境地は、どんな音楽だろう。

 「ギター音楽のさらなる経験を積んでいきたい。今以上にコンテンポラリーなスタイルで作曲したり、アルメニアのフォークミュージックをギターのために編曲したり、弦楽オーケストラとの共演とか、ボクら世代のエレクトロニカ・サウンド作りとかもね。また、ギターが中心でない自分の作品も手がけてみたいね」

 6歳から彼を育んだLAを、「大切なホーム、最高に幸せな都市。ほとんど恋していると言ってもいい」と熱く語るバハグニ。二度目の来日だし、そろそろご家族に関し、多少立ち入った話題も許されるかな?

 「構わないさ。母方の家族は全員アルメニアにいる。父方は皆フランスだ。祖父はマルセイユ生まれ。虐殺を逃れるため祖国を去ったからね。芸術家の両親が移住したのは、ソ連邦崩壊のタイミングだった。電力供給も食糧も乏しいアルメニアを離れ、大きな犠牲を払ってでも、より良い未来に賭けたんだろうね」