INTERVIEW

ティグラン・ハマシアン――我が道をゆっくりと歩みながらも、世界を舞台に活躍の場を広げる、アルメニア人ピアニスト/作曲家の現在

Photo by Hideo Nakajima ©17th TOKYO JAZZ FESTIVAL

我が道をゆっくりと歩みながらも、世界を舞台に活躍の場を広げる、アルメニア人ピアニスト/作曲家の現在

 9月の〈東京ジャズ〉にトリオ編成で参加し、尊敬するハービー・ハンコックのオープニング・アクトを務めたアルメニア人ピアニスト/作曲家ティグラン・ハマシアン。インタヴューするのは今回が2度目である。2014年の取材時は、アメリカから故国アルメニアに戻って間もない頃で、「伝統音楽の研究に本腰を入れる」と語っていたが、実際その後に出た作品では、アルメニアの伝統音楽/宗教音楽の要素がますます強まっている。今年出た最新作『For Gyumri』(EP)も、彼が幼少期を過ごした町ギュムリの思い出をテーマにした作品だった。六本木のカフェでアルメニアについて語るティグランの口調は、熱い。

TIGRAN HAMASYAN For Gyumri Nonesuch(2018)

 「僕がアルメニアの世俗的伝統音楽(フォーク・ミュージック)や宗教音楽を知ったのは13才頃だった。ヤン・ガルバレクなどジャズ・ミュージシャンたちの作品が伝統音楽への関心を惹起し、自分のルーツへと意識を向けさせてくれたんだ。特に惹かれたのが、アルメニアならではのメロディだ。メロディを軸にすると、結局、世俗音楽も教会音楽もルーツは一緒なんだと気づいた。あと、教会音楽のメロディは複雑で深みがあるが、同時に非常にシステマティックでもあるということがだんだんわかり、ますます惹かれていったんだ。そういうアルメニア音楽の全体像を把握したかったので、リサーチの作業量は膨大なものになったよ」

TIGRAN HAMASYAN Luys i Luso ECM(2015)

 その研究の最初の成果が15年にECMから出た『Luys I Luso』だったわけだ。調査に際して彼は、アルチュール・シャフナザリヤンとアラム・ケロフピヤンという二人の音楽学者の協力を仰いだが、特に、伝統的な形が柔軟に変化してゆくこと(即興演奏も含む)に対して肯定的な後者の姿勢からはおおいに刺激を受けたという。

 「あと、作曲家/音楽学者のコミタスの業績の大きさに関しても、改めて認識を深めることができた。結局コミタスの作品によって、アルメニアの伝統音楽は失われることなく人々の中に残されたと言っていい。彼の作る曲は独特なポリフォニー音楽なんだ。すべてのメロディが主旋律であり、それらが重なって特殊なポリフォニーとなり、音楽全体を作っている。コードではなくメロディで作る音楽。まさにアルメニアの音楽だよ」

 最新作『For Gyumri』のギュムリは、彼が幼少期を過ごした町の名前である。ティグランの思いや如何に。

 「僕が生まれ育った家は今空家になっている。荒れ果てて、破れた窓から中を覗くと、昔のままの壁紙がボロボロになって残っていた。でもこの作品には、そういった哀しみ以上に、子供時代の幸せな記憶がたくさん詰まっているんだ。友達との遊び、母がアルメニアの抒情詩を読んでくれたこと、ロウソクの灯の情景、ピアノのレッスン…。今大人になってわかるけど、当時両親がどんなに苦労して僕らを育ててくれのか…」

 その新作はノンサッチからのリリースだが、ECMとノンサッチという二大優良レーベルで自由に創作活動ができるという事実も、ティグランに対する評価の高さを物語っている。

 「基本的には現在、ノンサッチの独占契約アーティストということになっているんだけど、ものによっては他から出してもいいと言われてて。合唱を組み込んだ『Luys I Luso』はECMのマンフレート・アイヒャーに是非うちからと言われたんだ。ありがたいことだ」

 現在は四つのプロジェクトが進行中らしい。

 「一つは、自分のトリオ(p/b/ds)にゲストを入れた作品。二つめは、これまでの自分の作品をオーケストラで録音するという企画。三つめは Roomful Of Teeth という前衛クラシック系ヴォーカル・グループ(8人組)の米カーネギーホール公演用の作曲だが、これは伝統音楽特有のオーナメントを多用しているので、アルメニアの合唱団との録音も考えている。そして四つめが、日本のオダギリジョー監督の作品のサントラだ」

 その映画は「Story of Toichi」なる仮タイトルで、「とても詩的で日本ならではの伝統的美意識が感じられる作品」らしい。

 「まず脚本を読んで、思いついた音楽的アイデアを書きだしてくれと監督からは言われた。僕の書く音楽を信じてくれているということだと思う。これから具体的に詰めてゆく段階だ」

 当然、アルメニア音楽的要素も入るのだろう。

 「うん、そうしてほしいと最初から言われていた。あと、日本の伝統的な要素やエレクトロニクな要素もミックスしたいね」

 


Tigran Hamasyan (ティグラン・ハマシアン)
1987年アルメニア生まれ。10代で「Thelonious Monk International Jazz Piano Competition」で優勝を果たす。ジャズとクラシック・ミュージシャン両方の教育を受けたが、そのほかアルメニアのフォークやロック、エレクトロや詩など多種多様な音楽的素養を持ち、ジャズの範疇を超えた独特の音世界で世界各国のファンを熱狂させている。

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