待望の初来日を果たした、注目のアルメニア人ピアニスト・作曲家
昨年11月29日、『THE PIANO ERA 2015』にブラジル人女性歌手タチアナ・パーハとのデュオとして出演したアルメニア人ピアニスト兼作曲家ヴァルダン・オヴセピアン。複雑なメロディとリズムを明晰に描き出す彼のピアノに感銘を受けた人は多いだろう。その来日公演では、タチアナが選んだブラジルの曲に加えて、ラルフ・タウナーとコミタスの曲のメドレー、そして坂本龍一の《Tango》も披露された。
「僕の友人が数年前に音源を送ってくれて、聴いてみたら、とてもオーガニックで美しい曲だと感じたので、すぐに自分で譜面に起こしてみた。坂本龍一の曲の中でも、特にこの《Tango》にはブラジル音楽の影響が強く感じられるし、ぜひタチアナと一緒に日本でやろうということになりました」
坂本龍一同様、ヴァルダンの主たる音楽的バックグラウンドはクラシック。彼は、アルメニア、フィンランド、エストニアの音楽学校でクラシックを学んだ。
「日本も事情はほぼ同じでしょうけど、僕は5歳の時に親の意志でクラシックのピアノを習わされた。音楽が好きであることを自覚し、将来はミュージシャンになりたいと思ったのは、12~13歳の頃。その後だんだんクラシックからコンテンポラリー・ジャズに興味が移っていき、最終的にはボストンのバークリー音楽大学でジャズの作曲法や即興演奏を学びました」
ヴァルダンの近作のうち、ソロ名義の『Points North』(2013年)は、基本的にはクァルテット編成によるジャズ・アルバム。一方、ヴァルダン・アプセピアン・チェンバー・アンサンブル名義の『Dreaming Paris』(2013年)は、ジャズとクラシックの両方の素養が生かされたオリジナルの室内楽集だ。
「僕がいちばん影響を受けた音楽は、バッハとバロック音楽全般。もちろん、モーツァルトやベートーヴェンも聴くけれど、バッハとバロック音楽が自分のもっとも大きなバックグラウンドだと自覚している。だから室内楽の追求は、自分のライフワークだと思っています。現代のジャズ・ピアニストでもっとも好きなのは、キース・ジャレット、ジョン・テイラー、ブラッド・メルドーの3人。ジョンは、惜しいことに最近(昨年7月17日に死去)お亡くなりになりましたけど」
ヴァルダンは取材を始める前、『intoxicate』の前号に掲載されているアルメニア人ギタリスト、バハグニの記事を見つけ、「友だちです」と教えてくれた。ティグラン・ハマシアンもシステム・オブ・ア・ダウンのサージ(セルジ)・タンキアンも、知り合いとのこと。ヴァルダンは、アルメニアと様々なジャンルの音楽の架け橋的存在としても目が離せない才人だ。