全国各地に中毒者を増やしている噂のシンセ・ポップ・ユニットから、華やかな80sサウンドに彩られた〈みんなで楽しむ〉セカンド・ミニ・アルバムが到着!
昨年リリースされたファースト・ミニ・アルバム『2013ねん、なつ』が着々と評判を広げている噂のシンセ・ポップ・ユニット、ふぇのたす。電子ドラムとシンセサイザーを駆使したレトロ・フューチャー感たっぷりのサウンドに、甘くてチャイルディッシュなヴォーカルを乗せた楽曲で全国各地に中毒者を増やしている彼女たちから、いよいよセカンド・ミニ・アルバム『胸キュン’14』が届けられた。共同プロデューサーにSALON MUSICの吉田仁を迎えて、より華やかな80sサウンドに仕上がった本作は、この3人の勢いをさらに加速させていきそうだ。そこで今回は、ふぇのたす結成からここまでの変遷を、本人たちにたっぷりと語ってもらうことにした。凸凹なようで妙に噛み合っている三者の会話を楽しんでいただけたら幸いだ。
最終的には〈楽しかったな〉という気持ちが残るものにしたい
――『胸キュン’14』のリリースから、きっと皆さんを取り巻く状況もいくらか変化したんじゃないかと思うんですが、いかがですか。
ヤマモトショウ(ギター、シンセサイザー)「ライヴに来てくれるお客さんは増えましたね。『2013ねん、なつ』は単純に僕らがおもしろいと思うものを形にした作品だったんですけど、そこにわりと素直な反応がいただけた感じもしていて」
――おもしろいと思うものって、例えばどういうもの?
ヤマモト「まず、僕らがやりたいのは〈みんなで楽しむ〉ということなんです。その〈楽しむ〉というのは、例えばライヴで盛り上がることがそうだし、もし僕らの音楽を聴いて涙を流す人がいるとしたら(笑)、もちろんそれでも良くて。つまり、受け取り方は人それぞれなんけど、どちらにしても最終的には〈楽しかったな〉という気持ちが残るものにしたいんですよね」
――音楽的なコンセプトは特に決めてなかったんですか。
ヤマモト「それはなかったと思います。一応、ふぇのたすの曲を作るうえではニューウェイヴ的なトラックやJ-Popのメロディーが基礎にあるんですけど、それは単なるきっかけに過ぎないというか、僕ら自身はそこにあまりこだわりがなくて。じゃあ、そこで何がいちばん大事かというと、やっぱり〈楽しむ〉ってことなんですよね」
ミコ(ヴォーカル)「私なんて、楽曲制作に関してはほぼノータッチだしね(笑)。でも、ショウさんは私のキャラクターに合ったものを考えながらふぇのたすの曲を作ってくれてるんだと思う」
――そうなると、ショウさんがミコさんのキャラクターをどう捉えているのか気になりますね。
ミコ「それは興味深いですね(笑)」
ヤマモト「えーっと(笑)、まずはやっぱり声の魅力ですね。彼女の声があれば、これまで僕がやってきた音楽とはあきらかに違うものができるだろうと思ったんです。ただ、その一方で当初は〈このグループって、どこまで本気でやるんだろう?〉みたいな葛藤も正直あって。それこそ当時は前身バンドのヴォーカルが失踪したばかりっていう状況だったから、まずはそこでみんなが〈これはおもしろくなるぞ〉と思えるような曲を作らなきゃと思ってました」
――そこでグループに誘われたミコさんは、当時この2人をどう見ていたんですか。
ミコ「まずはスタジオに入ることになったんですけど、そのときはふぇのたすじゃなくて、私がその前身バンドのヴォーカルに加わるような設定だったんです。でも、その前身バンドの曲はあまり自分の声に合ってない気がして。しかも、当時のミキヒコ君は髪が赤くて、サングラスもかけて、しかも無口だから、〈この人、恐い!〉と思ってた(笑)。〈え、マジでこんなチビが次のヴォーカルなの?〉みたいに思われてるんじゃないかって」
澤“sweets”ミキヒコ(デジタル・パーカッション)「そんなこと思ってないよ(笑)。僕も僕で、そのときはすごく緊張していたから」
ミコ「いま思い出すと、スタジオの空気もあんまり良くなかったよね? 私、実はあのとき泣きそうになってたもん」
ヤマモト「当時はもう一人メンバーがいたんですけど、その彼とミキヒコの黙りっぷりがホントすごかったんだよね(笑)。どうやらものすごく緊張していたらしくて」
ミコ「それで〈ちょっとこれは無理っぽいかもしれないです〉とそのときは伝えてたんです」
ヤマモト「俺もあのときは流石に〈これはマズイな〉と思ってた(笑)。でも、彼女に〈まあ、これは試しだから。ちょっとスタジオで歌ってよ〉とか言いながら、なんとかファーストに入ってる“たす+たす”と“タイムトラブル”のデモを録ったんです。そしたら〈これ、いいじゃん!〉みたいな雰囲気になってきて」
ミコ「うん。そのときに初めて、〈もしかするとこれ、私がやりたいかったことに近いのかも!〉と思った」
ヤマモト「それでライヴをやってみたんです。そしたら〈なんかミコちゃんって、思っていたよりずっとデキるんだな〉と思って」
ミコ「なにそれ~(笑)」
ヤマモト「いや、その初回から2、3回とライヴを重ねていくときが、ホントすごかったんだよ」
澤「確かにあれはすごかったよね」
ミコ「え、そうだったっけ? 覚えてない(笑)」
ヤマモト「なんかそこで彼女に底の知れないものを感じたんですよね。しかも、それは僕だけじゃなくて、周りにいた人もみんなそう感じてくれてたみたいで。それで〈これはふぇのたす、イケるな〉と(笑)。ライヴに関してはいまだに驚きの連続なんですよ。回数を重ねるたびに高まっている感じがする」
ミコ「ホント? そんな話、初めて聞いたよ(笑)。私はみんなみたいにたくさんの音楽を聴いてきたわけでもないし。音楽を始めたきっかけも、たぶん普通にバンドを始めた人とは全然違うんです」
――どんな始まりだったんですか。
ミコ「高校時代がすごく暇だったんです。東京に引っ越してきたばかりで友達もいなかったから、家でお金をかけずにできることを一人でいろいろ編み出して(笑)。そのなかのひとつに〈歌詞を書く〉というのがあったんです。そこから調子に乗って鼻歌で曲を付けたりするようになって」
――何か楽器は持ってたんですか。
ミコ「何もなかったんです(笑)。ただテープレコーダーをカシャッと押して、鼻歌を録音して。それで1曲出来たとき、〈15歳でこんな曲を作れるのって、もしかして私って天才なのかも〉と思っちゃって(笑)。で、その曲をとあるオーディションに送ったら、なんか受かっちゃったんです。それで音楽業界に彷徨い込んじゃった(笑)。いまでも自分はみんなより音楽が詳しくないなと思ってるし」
――音楽に詳しくないことをいまも気にしている?
ミコ「たまに気にすることもありますね。でも、ふぇのたすの曲に関してはショウさんに任せてるから(笑)。もともと私はシンガー・ソングライターとして一人でやってたんですけど、ふぇのたすの私はヴォーカルとして最善を尽くしたいんです。それにシンガー・ソングライターって、なんか楽器を弾いてないとカッコつかないような感じがしてたから」
――〈弾き語りでもしないとナメられるんじゃないか〉みたいなこと?
ミコ「そうそう(笑)。でも、バンドのヴォーカルだと別に楽器を弾かなくてもいいし、そのぶんお客さんを煽れるじゃないですか。振り付けをしたり、手拍子を打つタイミングを決めたり、私、そういうのが超やりたかったんです! だから、“タイムトラブル”のBメロでハンドクラップをやったときは、すっごく嬉しかった(笑)。でも、これは〈私がやりたいこと〉というよりも、〈私のキャラクターに合うもの〉と言ったほうがいいのかな」
――というのは?
ミコ「それまでは一人でやってたけど、私のなかにはそれとは別のキャラクターが3つくらいあったんです。だから、〈もしこういう音楽があれば、こんなキャラクターを演じ切る自信があるのにな〉みたいに思ってて。たぶん私は見た目と中身のギャップが結構大きいから、精神的に似合うキャラと、見た目的に似合うキャラが全然違うと思うんですよ。で、ふぇのたすの場合は私の見た目に合うキャラになってると思ってて」
――つまり、ミコさんはふぇのたすを通してひとつのキャラクターを演じてるってこと?
ミコ「うん。でも、それは無理に演技してるってことじゃなくて、自然にそうなってる感じなんです。ふぇのたすのときは、無意識のうちに自分のなかで何かが切り替わっているように感じるから」
ヤマモト「それは俺も見ていて感じるよ。それに、さっき彼女が〈自分にはいろんなキャラがある〉と言ってましたけど、僕もそういう感覚で曲を作ってるから、そこも合ってるんだよね」
ミコ「歌詞も全部ショウさんが書いてますからね(笑)」
――そうだったんだ! てっきりミコさんが書いてるものかと。
ヤマモト「でも、僕からすると歌詞はメンバー全員で書いてるような感覚なんです。みんなとの会話から受ける影響が大きいからね。そもそも、僕らはほとんどスタジオで集まらないんですよ。曲作りや練習は各自でやるから、あとはいっしょにご飯を食べれば良くて(笑)」