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どう聴いてもEGO-WRAPPIN'でしかない、さまざまなシーンの名曲たち

 3枚組となった『ROUTE 20 HIT THE ROAD』のなかでも目玉となるのがカヴァー曲を集めた〈星盤〉だろう。これまでもニック・ロウモノクローム・セットシンディ・ローパーなどのカヴァーをアルバムに収録してきたEGO-WRAPPIN'だが、今回はすべて新録で、長年エゴを応援してきたファンにも訴求する作りだ。イアン・デューリー&ザ・ブロックヘッズ“Inbetweenies”やカーティス・メイフィールド“Move On Up”のように、彼らのルーツとして重要な曲も収められているが、むしろ目立つのは意外性に富むナンバーのほう。その最たるものが、たまの“さよなら人類”だろう。

 「近藤聡乃さんっていうイラストレーターの方が、たまの“電車かもしれない”にアニメを付けた動画があって、それで初めてちゃんとたまを聴いたんですよ。もう、ビックリしました。たま、名曲しか残してないじゃないですか。4人の個性がすごいし。ビートルズみたいですよね、ほんと」(森)。

 「寺山修司も思い出すんですよね、たま。見たらあかんけど見てまう、見世物小屋的な世界で。歌詞がまたすごくて、世の中の真理を突いている。“さよなら人類”は歌っていて泣きそうになってしまいました」(中納)。

 ジャジーで退廃的な香りを漂わせる久保田早紀“異邦人”は、中納がカラオケの十八番にしているという曲。軽妙なホーンがスウィンギーなノリを際立たせている。和モノの名曲=平岡精二“謎の女B”は、エゴのジャケットや詞も制作したことがある美術家の大竹伸朗に薦められて知ったとのこと。原曲のハードボイルドな空気を活かしたアレンジが秀逸だ。リトル・ウィリー・ジョン“Fever”は米国のリズム&ブルース・シンガーの代表曲。「サム・クックオーティス・レディングに比べて過小評価されているけど、すごくいいシンガー」と森は話しており、中納の表情豊かなヴォーカルと森のフリーキーなギターがハマっている。レッタ・ムブール“What's Wrong With Groovin’”は、南アフリカの女性シンガーの定番曲で、ムーディーでしっとりとした唱法が印象的。一時期、いわゆる〈ワールド・ミュージック〉に関心のあった中納が選んだ曲だそうだ。 

 “Ziggy Stardust”を取り上げたデヴィッド・ボウイなど、今作を機により深く聴き込んだアーティストもいたそうだが、そのどれもがEGO-WRAPPIN'の色に染め上げられていることに驚く。原曲をエゴの磁場に引き寄せ、自分たちの土俵で相撲を取っているというべきか。このふたりが歌い、演奏すればどんな曲でもEGO-WRAPPIN'のものになるのだ、という自信と自負がふたりにはあるのではないだろうか。そう思わせる見事なカヴァー集である。