EGO-WRAPPIN'これまでの20年、そしてこれからの――。音楽的な変遷を捉えた24曲と、ルーツや趣味嗜好を反映したカヴァー集の3枚組で届いた、二人からの経過報告!


こういう音楽いいなあ

 今年で結成20周年を迎え、11月には日本武道館でのライヴも控えているEGO-WRAPPIN'が、20周年記念のベスト&カヴァー集『ROUTE 20 HIT THE ROAD』をリリースした。野外の開放的な空気を感じながら聴きたい楽曲を集めた〈太陽盤〉と、月明かりの下で酒を飲みながらじっくり聴きたい楽曲を集めた〈月盤〉、そして新録のカヴァー曲を収めた〈星盤〉から成る3枚組。このリリースを機に、森雅樹(ギター)と中納良恵(ヴォーカル)の発言を交えながら、改めて彼らのメジャー・デビュー以降の歩みを振り返ってみよう。特に初期~中期は、リスナー体質であるふたりのその時々での趣味嗜好がダイレクトに作風にも反映されているから、そうした変遷を追うのも一興かと思う。

EGO-WRAPPIN' ROUTE 20 HIT THE ROAD NOFRAMES/トイズファクトリー(2016)

 まず、『満ち汐のロマンス』(2001年)と『Night Food』(2002年)の頃は、ふたりはスウィンギーなジャズやミュゼットワルツなどと共振するグッド・ミュージックを奏でていた。「もともとダンス・ミュージックが好きだったから、スウィング・ジャズもそのひとつとして聴いていたんですよ」という森は、当時ジャンゴ・ラインハルトに傾倒しており、特にジャンゴがコールマン・ホーキンスらと共演した『In Memoriam』を愛聴していたという。大阪のスカ・バンド、デタミネーションズからの影響もあり、レゲエやスカやロックステディなどにも耽溺していたのも重要だ。また、中納はエヴリシング・バット・ザ・ガールフェアーグラウンド・アトラクションなど、アコースティックな質感の音楽に惹かれていたという。

 そして、パンチの効いたビッグバンド・サウンドが鮮烈な『Night Food』リリース後、NHKホールでフル・オーケストラをバックに演奏を披露したことが、ふたりにとってひとつの区切りになった。

 「スウィング・ジャズとかビッグバンド的なものから離れて、スタジオワークで作り込んだものに興味が湧いてきたんです。アヴァンギャルドで遊びのあるものに惹かれるようになった」(森)。

 その結果、2004年の『merry merry』でそれまでのパブリック・イメージを打破する音楽性を披露。ニューウェイヴ風のアレンジや音響的に凝ったサウンドで多くのリスナーを驚かせた。

 「『merry merry』の時は、ロバート・ワイアットとか、カンタベリー系をよく聴いてましたね。あと、トウヤマタケオさんからカーラ・ブレイとかチャーリー・ヘイデンを教えてもらってハマったり」(中納)。

 「僕はヘンリー・カウとかスラップ・ハッピーニューズ・フロム・ベイブルとかですね。フレッド・フリスが好きで、彼の活動を追った映画『ステップ・アクロス・ザ・ボーダー』を観たり。『merry merry』とその次の『ON THE ROCKS!』(2006年)にはそのへんの成果が出てます。この頃は、その時々で聴いていたものが作品にもストレートに出てましたよね。ふたりで〈こういう音楽いいなあ〉って言い合いながら作っていた。だから、ベスト盤を聴き直すと、〈ああ、この頃こういう音楽聴いていたなあ〉というのが蘇ってくるんですよ」(森)。

 この頃から中納のヴォーカルも変わりはじめた。勢いで押しまくるのではなく、慈愛に満ちた歌声で聴き手を包み込むようになった、と言うべきか。

 「いま振り返ると、“サイコアナルシス”とか“くちばしにチェリー”とか初期の曲は、勢いだけでガーッとやってる。若いですよね。自信満々で、〈絶対これカッコええやろ〉って思いながら歌ってたから。森君のギターのチューニングが狂ってたこともあるし、全然綺麗じゃないけど、その勢いがとっても格好良いんですよ。でも、『merry merry』の頃から変わってきて、歌ってて自分の声がすごく気持ち良く感じられるようになった。自分で自分を癒してるみたいな感じで。倍音とか音の切れ際とかに耳がいくようになったんです。あと、細かいニュアンスよりも全体の雰囲気を大事にするようになったというのもありますね」(中納)。


通過点であり、経過報告

 その後は森がヘンリー・カウのドラマー、クリス・カトラーに夢中になった。結果、バンド・サウンドの強靭さを前面に打ち出した『EGO-WRAPPIN' AND THE GOSSIP OF JAXX』(2009年)には、カトラー率いるカシーバーのカヴァーも収録。だが、この頃から既存の音楽に触発される度合いは減っていったという。

 「最近は自分のなかから自然に出てきたものを音にするようになりましたね。『ないものねだりのデッドヒート』(2010年)の頃はアコースティックなのもエレクトリックなのもごちゃごちゃに聴いていたし、『steal a person's heart』(2013年)の時は、スタジオでジャムりながら、とりあえず録音テープを回しといて良かったフレーズを元に曲を作ったり。僕がドラム叩いた曲が入っていたりするし」(森)。

 「だんだん音楽に〈美しさ〉を求めるようになってきてるんですよね。あと、間(ま)とか余白を活かすことを考えるようになったり。そういう意味では変わりましたね」(中納)。

 2枚のベスト盤は、「それぞれのアルバムから〈これ!〉という曲を選抜した」(森)と同時に、「初めてエゴを聴く人にもわかりやすいようにした。10代のリスナーが聴いてどう思うか楽しみ」(中納)という作り。また、〈太陽盤〉には“human beat”、〈月盤〉には“admire”という新曲が収められており、いまの彼らの音楽的モードがわかるようになっている。「“human beat”は僕が最初にベースで弾いたリフが元になって出来ていった曲ですね」(森)とのことで、セッションから曲を編み上げていく昨今の制作スタイルがベースになっているようだ。

 常に実験と発見を繰り返してきたEGO-WRAPPIN'の20年。〈だから、ベスト盤も集大成というよりは、通過点であり、経過報告だと思います〉とふたりに水を向けると、「経過報告、まさにそれですね。その言葉、いただきますわ」と森が即答したのが印象的だった。