彗星のように現れ、瞬時に我々の心を掴み、たった2枚のアルバムを残して消えたポスト・グランジの雄が、20年の時を経て動き出す! 夢の続きのさらに向こうをめざして!!

 74年生まれのティム・クリステンセンは、幼少期から父親が家で毎日のように聴いていた60年代の音楽に親しみ、気がつくとビートルズに憧れるようになっていた。当時の彼はそのバンドがすでに解散していたことを知らず、いつか〈レノンマッカートニー/クリステンセン〉というクレジットで名曲を生み出したいと夢見ていたそうだ。

 ディジー・ミズ・リジーは、そんなティム(ヴォーカル/ギター)を中心に、やはり同じ年頃で同じような音楽趣味を持つマーティン・ニールセン(ベース)、ソレン・フリス(ドラムス)が集ったデンマーク出身の3人組。バンド名自体も、ビートルズがカヴァーしていたラリー・ウィリアムズの曲タイトルに由来している。そして、94年発表のデビュー盤『Dizzy Mizz Lizzy』が本国の音楽史に残るほどの記録的な大ヒットとなり、哀愁味溢れるメロディーを満載した同作は、日本でもすぐさま支持を集めたのであった。

94年作『Dizzy Mizz Lizzy』収録曲“Silverflame”
 

 時代的に言えば、ちょうどグランジの嵐が吹き荒れた少し後。トリオ編成という共通点から〈ニルヴァーナに対するデンマークからの回答〉などと形容をされる場面も多く、当時、彼ら自身も『Nevermind』を愛聴していることを認めていた。それと同時に、「腐敗した世界について陰鬱に歌うよりも、リスナーをハッピーにできたほうがいい」と語り、マニック・ストリート・プリーチャーズオアシスなどに対する共鳴も口にしていたものだ。

 96年に登場したセカンド・アルバム『Rotator』もバンドとしての進化が体現された秀作で、こちらも当然のようにヒットを収めている。が、残念ながら音楽的な方向性の相違を理由に、彼らは98年に解散。以降、ツアーのみの一時的な復活を遂げることはあったものの、この3人で新たな音源を制作するには至らなかった。

 しかし、さまざまな世代から再評価の声が高まるなか、2015年初頭に正式なリユニオンを表明。ほどなくして発表されたシングル“I Would If I Could But I Can't”が地元のチャートをあっさり制圧し、国内ツアーでは人口約560万のデンマークにおいて30万人もの動員を記録。さらに同年10月には〈LOUDPARK〉で日本のフェスに初参戦を果たし、変わらぬ魅力とさらなる説得力に満ちた力強いライヴを披露している。

DIZZY MIZZ LIZZY Forward In Reverse Columbia/ソニー(2016)

 このたび日本先行でリリースされた復活後第1弾アルバム『Forward In Reverse』は、実に20年ぶりとなる通算3枚目のオリジナル作品。強靭なグルーヴに支配されたインストゥルメンタルでの幕開けはやや意表を突くところがあるし、音像もかつてに比べると分厚く感じられるが、人懐っこいメロディー、効果的な変則リズムの多用を伴った鋭角的な作曲センス、濁りのない歌声といったディジー・ミズ・リジー本来の魅力は少しも損なわれておらず、むしろすべてが熟成されているといった印象だ。ビートルズ的でもプログレ的でもあり、懐かしくもありどこか新しい。やはりこのバンドは、いまも彼らならではの独特な温度感を伴った音楽を奏でている。今作に触れたなら、5月に控える来日公演も、さらにその先に広がる3人の未来にも、きっと注目せずにはいられないだろう。