手練バンドと奇才ビートメイカーの描く新世界

 ブレインフィーダーは現在世界でもっとも革新的なレーベルのひとつと言えるだろう。ビート・ミュージックと現代ジャズを極めてクリエイティヴなやり方で繋ぎ合わせてきたこのレーベルの革新性は、主宰者であるフライング・ロータスの作品群はもちろん、カマシ・ワシントンサンダーキャットらの作品に結実。また、そうした作品の登場によって〈ジャズ〉の領域ははっきりと拡張され、〈ジャズ〉を取り巻く文脈は活性化された。ジャンルの境界線を無効にするだけじゃなく、新しいルールを作り出してきたレーベル。それがブレインフィーダーだ。

KNEEBODY & DAEDELUS Kneedelus Brainfeeder/BEAT(2016)

 そんなブレインフィーダーが新たに送り出すのが、LAのジャム系バンドであるニーボディと、レーベルきってのビート職人デイデラスのコラボ作『Kneedelus』だ。〈ジャム系バンド〉と一言で言っても、ニーボディは現代音楽の巨匠チャールズ・アイヴスの作品集『Twelve Songs』(2009年)を制作していたり、ベーシストのカーヴェー・ラステガーブルーノ・マーズシーロー・グリーンと、ドラムのネイト・ウッドスティングティグラン・ハマシアンと、さらにトランペットのシェイン・エンズリーアーニー・ディフランコとも共演するなど、いわゆる〈ジャム・バンド〉の範疇からは少々ハミ出すバンドだ。

 また、ニーボディが2000年代以降のビート・ミュージックのリズム感覚を熟知しているように、デイデラスは学生時代にベースを演奏し、ジャズの素養を持つ人物。加えてニーボディのサックス奏者であるベン・ウェンデルとデイデラスは高校時代からの旧友だそうで、そんな両者の共演がありがちな〈異ジャンル・コラボ作〉に終わるはずがない。

 「自分たちがいままでに足を踏み入れたことのない世界に入ってみたかった。ジャズでもエレクトロニックでもなく、その中間の音楽を作りたかったんだ」(デイデラス)。

  「エレクトロニック・ミュージシャンとバンドのコラボで、ここまでオーガニックに聴こえるものはないと思う。エレクトロニック・ミュージックでは、サウンドの展開はあってもハーモニーやフォームの展開はなく、よりシンプルだよね? 今回は音を繰り返すだけではなく、曲構成や展開にもこだわったんだ」(ベン・ウェンデル)。

 本作には過去、誰も聴いたことがないビートメイキングとアンサンブルの世界が広がっている。名手ネイト・ウッドが凄まじいばかりのドラミングを聴かせる冒頭曲“Loops”はフライング・ロータス『You're Dead!』の衝撃からいまだ覚めやらぬリスナーをノックアウトするだろうし、LAジャズの伝統とデイデラスが長年培ってきたビートメイキングのセンスが美しい融合を見せる“Home”や“Move”などには(ニーボディでもデイデラスでもない)まさに〈ニーデラス〉ならではの音が表現されている。

 ブレインフィーダーという野心的レーベルだからこそ作り上げることができた意欲作『Kneedelus』。〈ニーデラス〉の今後の可能性も含め、またもやワクワクするような作品がブレインフィーダーから届けられた!