ヤセイの洋楽ハンティングをご覧の皆様、ヤセイコレクティブ中西道彦です。
今回は、ヤセイコレクティブをご存知の方にはお馴染みのKneebodyについて掘り下げていこうと思います。

前々回のブログで紹介したNate Woodをはじめメンバーの演奏力が超絶、そして曲が最高ですよね。僕は映画音楽なんかも結構好きなのですがそんなスケールのデカさと、LAのインダストリアルな空気のようなものが絶妙にマッチしているように聴こえるのです。

そんな彼らがちょうど今月、再び来日するのです! 9月28日(月)~9月30日(水)の3日間、東京・丸の内コットンクラブにて! 読者の皆様もぜひチェックしてみて下さい。

※ニーボディ来日公演の詳細はこちら

僕は『Low Electrical Worker』(2007年)というアルバムと『Kneebody Live, Volume One』(2005年)は本当によく聴きました。上掲動画の“Roll”という曲もそうなのですが、淡々とした8分のリズムを細かく縫い合わせていくようなビートは彼らの真骨頂でしょう。

彼らの演奏を聴いていると、途中で急に速くなったりするところがあります。

7:37あたりをよーく訊いてみてください。

サックスの〈バー・バー・バー・バー!〉というフレーズでバンドが急にテンポアップしたのわかりました?

Wayne Krantzのこの動画

4:49あたりでWayneがKeith Carlock(ドラムス)の方を向いてなにか口を動かしていますがこれがWayne流の〈Cue〉です。〈キューが出たら次のセクションへ……〉とかで使うキューですね。ミュージシャンの皆様は良くご存知だと思います。

こうやって曲中でテンポを上げ下げするのはWayneのトリオでは常套句なのですが、これをKneebodyもやっているんです!!
〈Kneebodyもちゃんとインプロのトレンドを採り入れている! すごい!〉

そんなこんなでヤセイコレクティブはKneebodyを日本に呼び、それはそれは熱いライブを繰り広げたわけです。もう1セットずつやりたいくらい楽しかったですね。

そしてその打ち上げの際、青山の居酒屋でBen Wendel(サックス)をつかまえた僕は、いろいろな質問をしました。クラシック音楽にはどのくらい影響を受けているのか、など。Benはクラシック教育を受けて育ってきたとのことで、チャイコフスキーやメンデルスゾーンが作曲のインスピレーションになっていると言っていました。なるほどそれがどこか〈ジャズではない何か〉を感じさせる一因だったのかと。
※彼らが2009年のグラミーにノミネートされたのも、Theo Bleckmannとともに作り上げたアメリカ現代音楽の作家Charles Ivesの曲集『Twelve Songs By Charles Ives』(2008年)だったわけですが

そんな打ち上げの飲み会の終盤、いい感じになってきたところで、僕はもう一つ訊きたかったことを訊いてみました。

――Wayneが使っているMusical Cueみたいなのを、Kneebodyも使っていますよね? テンポアップのCueだけですか?

Ben「え、ほぼほぼCueだけど」

――え。じゃあ何個ぐらいCueあるの?

Ben「40~50個ぐらいじゃない?」

――…………。

なんと! Kneebodyのあの縦横無尽な音楽は、まさかすべてCueで構成されているのか!!?? 打ち上げ飲み会はいつの間にか〈Musical Cue講座〉になっていました。

簡単に言うと、曲中に誰かが〈あるフレーズ〉を弾いたり吹いたり叩いたりします。それがそのまま〈次のセクションに行け〉とか〈誰がソロをとれ〉とか、挙句の果てに〈次このキーで!〉そういう合図になっていると。

Kneebodyの曲って、たまに人を喰ったようなフレーズがポンと聴こえるんですけど、それって、全部Cueだったんですか……。これには唖然としてしまいました。

だって、Cueといえば〈ソロが終わるよー〉のときとかに顔を見合わせてウンウンってうなずいたりするものだと思ってましたんで(ヤセイコレクティブはジャム・セクションでテンポの上げ下げを良くしますが)。

上掲の動画の0:38あたりを聴いて下さい。ヘッドフォンだと左耳から出てくるShane Endsley(トランペット)のフレーズ、これがCueです。そのあとすぐにヴァースに突入していますね。

また1:33、1:49のAdam Benjamin(キーボード)フレーズも、上のものと音形が一緒ですね。要するにこの〈タタラララ~〉ってやつは〈次のセクションに行け!〉というCueということになります。裏を返せばこのフレーズが出てこなければ延々とここの部分を演奏することができるというわけですね。

このあたりから話はエグくなってきます。

5:00からのAdamのフレーズを聴いて下さい。ちょうど映像が抜きの部分なんでいかにシレッと弾いているかがわかります。〈タラタラララ~〉っていうのと〈タ・タラララ〉っていうのが聴こえますね。このあと何が起きているでしょうか???

Ben(サックス)とNate(ドラムス)の2人がバトりはじめました……。このCueは〈BenとNate、2人で!〉というものなんです。

理屈は以下です。メンバー一人一人に決まった音形が割り当てられていて
Nate(Ds)          タ
Kaveh(Ba)    タラ
Adam(Key)     タララ
Ben (Sax)        タラララ
Shane(Tp)      タララララ

たとえば Adamが〈ここはNateとBenが2人でやってほしいな〉と思ったらそこで上のようなフレーズを弾くというわけです。

 

Adamのインタヴュー記事

We have cues to change most major aspects of the music.
僕たちは音楽のほぼすべての要素を変えることができるCueを持っている。

We have cues for changing meter, changing key, and each member of the band has a musical name.
拍子、キー、そしてバンドメンバー一人一人が音楽的に名前をつけられている。

Adamの発言です。僕はまだ、拍子を変えるCueは発見できていないんですが……。
まとめると、〈曲の断片とつながる順番は決まっているが、それぞれのセクションの長さと誰がそこを演奏するかなどは、全部その場で変えられる〉というわけです。

これは、ちょっと本当にすごいことではないでしょうか? なぜなら、これだけのコミュニケーションをとっていながらまったく音楽性、緊張感を失っていないこと、トリック/ギミックではなくKneebodyサウンドに昇華させていること、まず一人一人が全員の音を完全に聴き取れるだけの能力と、爆発的なソロを取っていながらどこか冷静に他人のことを聴いていられるだけのキャパシティーがあることが最低条件だからです。

彼らのなかで〈インプロをする=ソロを取る〉ということではすでにないのかも。曲を演奏するということ自体がインプロヴァイズ、とでも言えるのでしょうか。ゆるやかに決まっているパーツの形と組み立て方を、その場の空気で誰もが変えられるということですね。

But one of the cool things about the cueing is that if we’re on the bandstand playing some hard song, and I’m half lost, and someone plays the “Adam Solos” cue, I’m just like, “F%%k.”
Cueを使ううえでクールなことは、ステージで難しい曲をやっていて、しかも半分ロストしているときに自分へのCueが出るときなんだな。そういう時は〈F%%k〉ってなるよね。

Because you can’t argue with the cue. I mean, what I could do is cue myself back out, or cue someone else to solo right away.
だってステージに上がってしまったらCueには逆らえないからね。だから自分の演奏を終わらせるCueを出すか、誰か別のメンバーにソロを回す。

But you try to trust the other person’s instincts.
でも他のメンバーの直感を信じるべきだとも思う

If I get cued to solo and I’m really uncomfortable or lost, then maybe I’d cue something different behind me to solo over, or I’d cue someone to solo with me or trade with me, but I wouldn’t just be like, “eh, shut up.
Cueを出されたときにキツかったら、別のCueを出して上でソロを取れるようにするか、誰かに一緒にソロをとってもらうか、トレードするかだろうね。でも、ただ単に〈おい、黙れ〉とは言わないだろう。

一番心に残ったのが、Cueをギミックとして使うということではなくて、常に音楽的に自由であるため、決まった型に満足することなく、ロストしたり間違えたりを恐れずに、お互いを信頼して新しいことにどんどん挑戦し続ける姿勢です。Kneebodyの開拓者精神には本当に感銘を受けますね。

そして、これからも新しいCueをどんどん作り続けていってほしい(笑)。

今回触れたCueはほんの一部分でしかありません。耳を澄まして聴くと、どこかで必ず何かが起こっているはずです。サウンドの手触りだけでなく、その奥まで一歩踏み込んでみてはいかがでしょうか?

アルバム『Low Electrical Worker』(2007年)、『You Can Have Your Moment』(2010年)、『The Line』(2013年)に加えて、現在ライヴ盤が3作入手できますので、全部聴いてコットンクラブで僕と意見交換しませんか(笑)?

なんだか講座のようになってしまいましたが、こんなヤバイことをやっている連中がいることを少しでも多くの人に伝われば幸いです。長々とありがとうございました。

 

オススメCD

KNEEBODY You Can Have Your Moment Winter & Winter(2010)

THEO BLECKMANN,KNEEBODY Twelve Songs By Charles Ives Winter & Winter(2008)

KNEEBODY The Line Concord(2013)