本人も「ある種の頂点」と呼んだ73年ツアーのすべて
昨年の『デュエッツ』発表後、ヴァン・モリソン本人が原盤を持つ72~2009年の作品の発売権がソニー傘下のレガシーに移り、名作の数々が最良な形で再発売されていくと伝えられたが、その第1弾は我々の期待をはるかに上回る豪華な作品で、本当に嬉しい驚きだ。
VAN MORRISON It's Too Late To Stop Now...Volumes II, III, IV & DVD ソニー・ミュージックレーベルズ(2016)
74年の『魂の道のり』は、73年ツアーを収録したアルバムで、自己評価の厳しい本人が「ある種の頂点のようなもの」と呼び、史上最高のライヴ・アルバムとも呼ばれる名作。それがCD2枚組『魂の道のり Vol.I』としてリマスター再発されるのに加え、未発表録音だけで構成されたCD3枚組+DVD『魂の道のり Vol.II、III、IV&DVD』も同時発売されるのだから、もう興奮を抑えられない。
当時のヴァンは偉大なアーティストと認められながら、「強情で怒りっぽく、予想のつかない」パフォーマーとも考えられていた。だが、そのツアーでの彼は自信に溢れた姿を見せて、そんな評価を吹き飛ばし、絶賛を浴びたのである。『魂の道のり』はその素晴らしいパフォーマンスをダビングや手直し一切無しで届けた正真正銘のライヴ盤だ。ヴァンを支えるカレドニア・ソウル・オーケストラも素晴らしい。2管のホーンと5人のストリングスを含む11人編成で、親分の即興性の強いソウルフルな歌唱に反応するだけでなく、メンバー間でもお互いの演奏に音楽的会話をたっぷり交わす。
『Vol.I』は3会場での録音から18曲を選んだが、『Vol.II、III、IV』はそれにダブらないように、全曲初出の録音を会場別にまとめた。これでそのツアーで歌われたのべ39曲中36曲を聴けることになる。『魂の道のり』の選曲の特徴はルーツを明らかにするブルーズ/R&Bのカヴァーが3分の1を占め、その熱い歌唱は聴きものではあったのだが、《ムーンダンス》などの名曲が外されていた。そんな不満もこれで解消だ。
そして、50分のライヴ映像を収めたDVDが凄い。これはロンドンのレインボウ劇場出演をBBCが生中継した映像が保存されていたもの。感涙の一言だ。