インタビュー

スザンネ・リンケが16年ぶりの来日! ピナ・バウシュと並ぶ現代舞踏界のレジェンドとしての存在意義と観どころを紐解く

スザンネ・リンケが16年ぶりの来日! ピナ・バウシュと並ぶ現代舞踏界のレジェンドとしての存在意義と観どころを紐解く

日本女子体育大学、松澤慶信教授に聞くスザンネ・リンケの存在意義

 ドイツ現代舞踊界のレジェンド、スザンネ・リンケが〈フェスティバル/トーキョー〉の招きで16年振りに来日公演を行う。これに先立ち、日本女子体育大学の松澤慶信教授に公演の意義や見所を伺った。

 「16年ぶりか。ピナ・バウシュが1940年生まれ、リンケは1944年生まれだから、ピナの4歳下ということになるね。彼女たちは世代としては、今回のテーマであるドーレ・ホイヤーとか、リンケの師でもあったマリー・ヴィグマンら戦前からのAusdruckstanz = ドイツ表現主義舞踊の次の世代ということになる」

――ピナとリンケの関係というのは、どういうものだったのでしょう?

 「ピナに対しては、尊敬もあるけど、ちょっと嫉妬に近いような葛藤もあったんじゃないかな。いわゆるピナ流の〈タンツ・テアター〉にも、リンケはちょっと距離を感じてもいたと思う。ピナについて見落としてならないのは、彼女は1960年頃にニューヨークのジュリアード音楽院に行ってること。しかもバレエのコースに学んでる。ピナは、ヨーロッパにアメリカ的なダンスを持ち込んだわけだけど、その基本にはバレエがあったということだよ。リンケもピナも、同じエッセンのフォルクヴァングのダンス学校の出身。クルト・ヨース(1901-1979振付家・舞踊教育家)がナチス・ドイツを嫌って亡命した英国から、戦後いち早く1947年にドイツに戻って再興した学校だ。クルト・ヨースはその後アメリカ的なダンスをどんどんカリキュラムに取り入れたんだ。その初期の申し子がピナというわけ」

――今回、リンケがテーマにしたドーレ・ホイヤーは、〈ドイツ表現主義舞踊〉という名で語られるわけですが、それは美術の分野でいう〈表現主義〉と完全に重なるものなのか? という疑問が湧くことがあるんですが。

 「時代としては、美術の方が10年ほど早いかな。20世紀に美術は表現主義かフォルマリズム(抽象主義)に向かうけど、ダンスは生の身体のフィギュールやフォルムを必然的に持っているから、どうしても意味から完全に自由になることはできない。つまり形だけを追うというような完全に抽象的なゼロ度化になれない。でも逆に言えば、表現主義舞踊は、人間の情念を表出するといっても、どうしても身体のフィギュールや運動態というフォーメーションに対する形へのこだわりを持つんだよね。しかもダンスには〈プラスティック・ダンス(造形ダンス)〉というのがあって、ダンスもやっぱりフォルムというものから逃れることはできない。つまりダンスは意味からも形からも離れられないダブル・バインドを強く受けていて、それがダンスの魅力かな。フォルマリスティックな抽象を得るには、マース・カニンガムを待たなければならないわけね」

 「ところで、ドイツでは1933年にナチスが政権を取ると、当初は、ダンスを群舞とかマス・ゲーム的演出に利用する。ベルリン・オリンピックの前夜祭にヴィグマンが群舞の振付に起用されるのがそのいい例。でも1940年代になると、表現主義舞踊家たちはそういうマス・ゲーム的なものに反撥して、やがてソロ・ダンスに向かい始めると、ナチスはもうそれを許さなくなっていく。ドーレ・ホイヤーもそうだし、ウィグマンでさえも抑圧されていく。それで戦後になって、ドイツ表現主義舞踊は復活しようとするけど、戦中のナチスに対する反動もあって、ヴィグマンもホイヤーも行き詰まってしまう。結局、彼女らは戦前のように活躍できず、ホイヤーは1967年の大晦日に自殺することになる。ドイツ表現主義舞踊は、先生が〈俺の真似をするな!〉と言ったので、一代で終わっちゃう。メソッドの体系的なシステムを作ろうとしなかった。逆にそれをやったのがアメリカン・モダンダンスなわけで、たとえばマーサ・グラハムの呼吸法とかのテクニックを弟子がマニュアル化して、そうしてマニュアル化されたからこそ、アメリカのモダンダンスは世代を繋ぐことができたし、世界を席巻して20世紀のダンスを確立した。そこで、ヨースが戦後ドイツに戻ってやったことは、ドイツ表現主義の復興ではなくて、グラハムなんかのアメリカのダンス・テクニックを早速導入したのだった。結局、ドイツ表現主義舞踊は、〈俺の真似をするな〉という一代主義と、第二次大戦とによって断ち切られてしまうことになる」

スザンネ・リンケ
  

――そういう意味では、今回リンケが、ドイツの戦前からの流れを汲む、ドーレ・ホイヤーを取り上げるというのは、非常に興味深いですね。

 「まさに、そうだね。ある時リンケに、あなたにとってヴィグマンってどういう人? って訊いたら、彼女はゴッド! だって言うんだよ。対して、ドーレ・ホイヤーはって訊くと、デヴィル! だってさ。ホイヤーはいつもピリピリしてて怖かったらしい」

――リンケのダンスの見どころは、どんなところにあるんでしょう?

 「リンケのダンスには、彼女の人柄が出てるんだと思う。ピナみたいにキラッとした鋭利さはなくて一見地味だけど、よく噛んでると味が出て来る滋味かな。ホイヤー作品《人間の激情》はソロの作品で、いくつかのパートにそれぞれ特定の感情を表わすタイトルがつけられているんだけど、その各感情が強いのはわかるが確定するのは難しいので、ダンスのどの部分がどの感情を表わしてるかは見てても、わからないかも。見当がつくのは“愛”の部分くらいかな。それで“激情”といってもリンケの手にかかると、鬼気迫った感じではないんだよね。ちょっと丸みを帯びてるというかな。でもそれがいい」

 
 
『エフェクテ』
 

――リンケはダンスに使う音楽も多彩ですね。今回の《エフェクテ》は、ピエール・アンリとかを使ってたようですし、他の作品でもクセナキスリゲティを使ってますね。その一方で、バッハかやシューベルトのようなクラシック作品も使ってる。

 「現代作品を使うのは、やっぱり同世代の現代作曲家という意識があるんじゃないかな。バロックや古典曲を使うのは、カウントが取りやすいという振付にとって実践的な面もあると思う。そうそう、カニンガム・カンパニーのダンサーにどんな音楽が踊りやすいか?って訊いたら、モーツァルトだっていうんだよね。それで、一番踊りにくいのが、ジョン・ケージだってさ(笑)」

――今回は、リンケはダンサーとしてではなく、振付家としての来日ですね。やはり自身の作品を次の世代に繋いでゆきたいという思いがあるのでしょうか?

 「ドーレ・ホイヤーが1967年に亡くなった時、ベルリンでは一般紙に〈ドイツ表現主義舞踊は終わった〉と大きく報じられたという。だから、後世代だけど、リンケには、自分たちの軌跡を刻印したいという強い思いがあるかもしれないね。今回のホイヤー作品は、まさに表現主義舞踊のど真ん中、これぞAusdruckstanz! だからね」

――最後に今回の公演について、一言お願いします。

 「ダンスっていうのは、言葉を発しなくてもマイムをしなくても、情念を表出できる。ただ立ってるだけで、感動しちゃうことってあるでしょ、それはもう、たまらない体験。だからそういう体験をダンスに関心のある人は絶対見て体感して欲しいね」

 
『アフェクテ』
 

 今回は、リンケによって復元されたドーレ・ホイヤーのソロ作品《人間の激情》と、リンケ自身のデュエット作品《アフェクテ》、《エフェクテ》が上演される。席数約300という会場なので、大劇場では体験できない濃密なステージを、是非堪能して欲しい。

 

スザンネ・リンケ(Susanne Linke)
振付家、ダンサー。1944年生まれ。ドイツ表現主義舞踊創始者の一人、マリー・ヴィグマンに師事。その後エッセンのフォルクヴァング・スクールにて学び、ピナ・バウシュが芸術監督をつとめていたフォルクヴァング・ダンス・スタジオのダンサーとなる。80年代半ばから、国際的なソロダンサー、振付家としてのキャリアを積む。ブレーメン劇場やコレオグラフィック・センター・エッセンの芸術監督をつとめ、01年より、再び振付家、ダンサーとして独立。2015-16年シー ズンよりトリアー市立劇場ダンス部門の芸術監督に就任。

 

松澤慶信(マツザワヨシノブ)
日本女子体育大学教授。舞踊美学/舞踊史学専門。美学会/ 舞踊学会。監修『現代的なリズムのダンス指導』(2010)プチパブリッシング、『インプロヴィゼーション・テクノロジーズCD-ROM(日本版)』ウィリアム・フォーサイス著(2000)慶應義塾大学出版会、『20世紀ダンス』ナンシー・レイノルズ他著(2013)慶應義塾大学出版会、『ダンスは国家と踊る』アニエス・イズリーヌ著(2010)慶應義塾大学出版会

 


EXHIBITION INFORMATION

演劇×ダンス×美術×音楽…に出会う、国際舞台芸術祭
〈フェスティバル/トーキョー16

会期:10/15(土)~12/11(日)
会場:東京芸術劇場/あうるすぽっと/にしすがも創造舎/池袋西口公園/森下スタジオ/ほか

ドーレ・ホイヤーに捧ぐ
『人間の激情』『アフェクテ』『エフェクテ』
構成・振付:スザンネ・リンケ
○12/9(金)19:00 ○12/10(土)13:00 / 19:00 ○12/11(日)13:00
会場:あうるすぽっと

ドイツ表現主義舞踊の流れを汲み、ピナ・バウシュらと共に、現代ドイツの舞踊表現を牽引してきたスザンネ・リンケが16年ぶりに来日。自らをダンスの道に導いたドーレ・ホイヤーに捧げる3作品を上演する。

『人間の激情』
ドーレ・ホイヤーによる初演:1962年  スザンネ・リンケによる初演:1987年
振付:ドーレ・ホイヤー(虚栄心、欲望、不安、愛)、スザンネ・リンケ(哀しみ)
※12月の公演ではどの部分を上演するかは未定です。
出演:レナーテ・グラツィアデイ(ラボーアグラス・ベルリン) 音楽:ディミトリ・ヴィアトヴィッシュ

『アフェクテ』
初演:1988年
振付:スザンネ・リンケ、ウルス・ディートリッヒ
出演:ルイーザ・ブラーツ・バティスタバウル・ヘス(カンパニー・スザンネ・リンケ)

『エフェクテ』
初演:1991年
振付:スザンネ・リンケ、ウルス・ディートリッヒ
出演:ルツィナ・ズヴォリンスカセルゲイ・ズーコフ(カンパニー・スザンネ・リンケ)

www.festival-tokyo.jp/

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