Art Direction ミルキィ・イソベ/Photo 坂口亜耶

 

ダンスのフロントランナーとジャズピアノの巨匠
世界的に活躍する二人が挑む一期一会の真剣勝負!

 ダンスを核に、オペラ、映像、造形芸術といったさまざまな表現領域で唯一無二の活動を続ける勅使川原三郎が、フリージャズ・ピアニストの巨匠・山下洋輔との共演を実現する。

 もともと10代の頃から山下洋輔トリオの音楽に惹かれ、熱い思いを寄せていたという勅使川原には、彼自身の芸術を培ってきた道程とも重なる、自由な精神への共鳴があったという。

 「ジャズという音楽の成立ちそのものが、アフリカ系ミュージシャンが都市文化のなかで、自分たちの本来の民族性を引き寄せていった歴史から生まれたものですが、そこから時代は大きく変化しました。ぼくがダンスに出会った10代の頃、フリージャズは時代を映す重要な文化でした。山下さんの音楽には、既存の音楽を『壊しながら新しいものをつくる』という自由の精神が鳴り響いていました」と勅使川原は語る。

 昨年4月、新宿のライヴハウスPIT INNで、彼はすでに山下とサックス・クラリネット奏者、梅津和時とのライヴ初共演を果たしている。そこでは互いの分野を超えて「全員が対等で、フェアに渡り合い、最大限に吸収したものを返しました。そこではそのとき起こるべきことが起こりました」という。

 この秋、東京芸術劇場の公演では、いよいよ広い空間をもつプレイハウスで対峙する。勅使川原が「3本脚の生きた荒馬を乗りこなすように、人馬一体でピアノを自在に手なづける」と敬意を表する、この稀代の音楽家との真剣勝負に期待が高まる。

 ところで、インプロヴィゼーション(即興演奏)はジャズ・セッションの重要な要素であり、それは音楽の空間に無限の広がりをもたらし、一瞬ごとに革命の精神を継承する、独創と技巧のアートである。

 勅使川原とKARASが探求してきたダンスもまた「インプロヴィゼーションの精神」をもつ。明快なコンセプトをもちながら、概念をなぞることに陥らず、予定調和的な筋書きや演出、形式化した振付を超越する、かつてない創造性を30年以上にわたり醸成してきた。

 クラシックバレエを学んだ後、既存の芸術の枠組みのなかで息苦しさを感じた彼は、1980年代、より呼吸しやすい表現領域へと自らの身体を投げ出すことによって独自のダンスを獲得する。

 「生命の摂理としての身体は、演劇的な演出によって限界を設定されたとき、身体のリアリティを失うことがあります。サッカーなどのスポーツ選手もそうだと思いますが、起こるべくして起こりうるあらゆる現象を予測し、宇宙のランダムな法則のなかで組み合わされた偶然性を許容する『自明の理』という感覚が大事なのです。それは自由というよりむしろ自在と言っていい。そのためには徹底した技術の修練が不可欠であって、計算しうる範囲の百倍千倍でも間にあわないほどです」

 フリージャズのプレイヤーとの抜差しならない剥き身のセッションは、勅使川原の表現活動を新たな発見へと向かわせているのだろうか? 

 デジタルメディアが加速させた音楽言語の電気的進化が、音楽芸術そのものの創造性を変化させるに至らなかったように、ダンスという身体言語に先端的なメディアがもたらしたものも表層の変化に過ぎない。勅使川原の関心もまた、よりいっそう身体性の拡張と深化にフォーカスしていると感じた。研ぎ澄まされた美意識に従い、身体、光、音が舞台空間の質をも変容させるその総合芸術はいま「開かれた儀式」の神秘性にも到達しようとしている。

 


LIVE INFORMATION

東京芸術祭2016 芸劇オータムセレクション
芸劇dance 勅使川原三郎 × 山下洋輔 「up」

○10/7(金)19:30開演
○10/8(土)16:00開演
○10/9(日)16:00開演
会場:東京芸術劇場プレイハウス
構成・振付・美術・照明 :勅使川原三郎
出演:勅使川原三郎 佐東利穂子/山下洋輔
www.geigeki.jp