日常のすべてが“ダンス”という解釈に基づいて生まれたアルバム
好評を博した2013年発表のアルバム『Beyond』に続き、原摩利彦とPolar Mこと村中真澄のコラボレーション・アルバムが、マレーシアのクアラルンプールに拠点を構え、メロディアスな電子音楽を発信するレーベル=ミューネスト(mü-nest)より再び登場。共にソロ名義による音楽活動以外も活発で、原摩利彦が数々の映像や舞台の音楽を手掛け、インスタレーションなども行う一方、Polar Mも映像作品の音楽に携わり、またギタリストとしても様々なアーティストをサポートするなど実に闊達であったが、前作『Beyond』リリース以降は、2人での活動が活性化。昨年はクアラルンプールで開催されたミューネストのレーベル・ショーケース〈mü-nest night〉でライヴを披露し、奈良のsonihouseで行ったライヴの音源をBandcamp限定で無料配信した他、振付家ロサム・プルテンシャド・ジュニアのダンス作品にも音楽を提供している。そして最大のトピックといえば、Polar Mの同級生であり友人の俳優・桐谷健太のファースト・アルバム『香音-KANON-』に収録されたタイトル曲の作曲を手がけたことで、2人の名はいよいよお茶の間にも届かんばかりという勢いだ。
さてそんな最中に届いた『Dance』と名付けられた本作は、2016年初頭に、あるダンス・パフォーマンスのために作った曲がきっかけで生まれた。もちろん世界的にダンス・ミュージックの機運がいくら高まっているとはいえ、彼らが突飛に傾倒するはずもなく、このプロジェクトで出会ったダンサーたちとの相互作用を通じ、自分たちの日常のすべてが“ダンス”であることに気づき、その解釈に基づいて制作されている。こうしてこれまで通りポスト・クラシカルやエレクトロニカ、フォーク、ジャズのテクスチャーを用い、時には異国情緒も漂わせて鳴らされる今作も、前作からの流れを汲んでアンビエンスを含んだリリカルな美旋律がとめどなく溢れ、心の淀みを洗い流してくれる。
その普遍的な2人の魅力を今回より引出させたのは、原摩利彦のピアノとPolar Mのギターが、繊細な音色を保ちつつも、全面に押し出されたことが挙げられるだろう。両者の楽器が明らかに主張を強めたことによる影響は、音のコントラストが大きく描かれることに繋がり、穏やかな耳あたりでも躍動感が漲り、楽曲をよりドラマチックなものへと昇華させているのだ。それぞれの音の輪郭が立ち上った分、幻想的な要素は若干後退した印象を与えるかもしれないが、聴き手の感情に訴えかけるという点においては、格段にその強度は増しており、“ダンス”がもたらした歓迎すべき変化がみてとれる。