サックス奏者川嶋哲郎の新作『ラメンテーション』は、レギュラー・カルテットによるライヴで、しかもCD2枚組という圧倒的な質と量を誇る作品だ。今、ジャズ界で2枚組ライヴ盤というのはきわめて珍しいが、実現した経緯をまず訊いてみた。

 「毎年年末に、東京TUCさんで僕を中心としたセッションをやっているんですが、お世話になったプロデューサーの横田健生さんが去年亡くなったので、彼に捧げるライヴをやりたい、と思ったんですね。じゃあせっかくなら録音してCDにしましょう、というオファーをいただいてこういうアルバムになったわけです。横田さんはさすがに年の功というか、とても適切なアドヴァイスをいつも下さった方でした」

川嶋哲郎カルテット LAMENTATION ~ Live at Tokyo TUC ~ B.J.L.(2014)

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 今回のCDは、川嶋哲郎のオリジナルとクラシック楽曲からの選曲になっている。

 「今の僕の活動は、いわゆるジャズが6割ぐらいで、あとの4割は広い意味での即興演奏民俗音楽の方との共演とか、ソロでバッハを吹くとか、なんですよ。で、ジャズを演奏するときの半分以上はスタンダードをやっているんです。僕の曲を聴いて、僕の音楽のファンになってくれるのはうれしいんですが、”ジャズ”という音楽のファンになってほしいと思います。だから、意識的にジャズのすばらしさを分かってらえる曲を演奏して、その上で僕も言いたいことがある、ということでオリジナルをやる、ということですね」

 なるほど。とは言え川嶋哲郎の曲はどれも魅力的なメロディを持っている。

 「メロディアスであることは心がけています。曲は自然に溢れでてくる場合と、いろいろ手を尽くして形にする場合とがありますが、やっぱり最初からいいものがいちばんいいんです。サックスのリード選びや、人間の付き合いもそうですよね。今回はライヴ盤ということもあり、今までの曲の中から自然にメロディが溢れでてきたものを抜粋しています」

 スタンダードとオリジナルの、演奏においての気持ちの違いはありますか?

 「スタンダードというのは、すばらしいお手本がたくさんありますよね。そこからの距離をどうとって演奏するか、という点で、オリジナルは誰も演奏したことがないので難しいんですよ。サックスという楽器は特に吹く人の個性が出やすい楽器ですよね。《モリタート》のテーマをロリンズ以外の人が吹いても、なかなかああいうすばらしい演奏にはならない。で、速いフレーズがぱらぱらある曲は逆に簡単なのね。僕はシンプルなメロディのオリジナルを、説得力をもって吹くようにしたい、といつも思っています」