「お父さんとご飯食べられるの、もう今日が最後かもしれない」「ヤバい。向こうの席に、元カレがいる!」――たまたま入ったレストランで聞こえて来た、隣の席の会話。そんな、思わず聞き耳を立ててしまうシチュエーションをテーマに、レストランの客席の一部をそのまま舞台装置として繰り広げられるコント。さらに、そのオチをステージ上の生演奏と出演俳優による歌が受け持つという、まったく新しいエンターテインメント『コントと音楽vol.01 「振り返れない。」』が、12月6日(金)~8日(日)に横浜・赤レンガ倉庫のライヴ・レストラン、モーション・ブルー・ヨコハマで上演される。
演出・脚本を務めるのは「虹色デイズ」「荒川アンダー ザ ブリッジ」など数々の映画やドラマを世に送り出してきた映画監督/脚本家の飯塚健。演劇でもなくライヴでもない〈会場一体型コント〉の実現は、監督にとってもモーション・ブルー・ヨコハマにとっても初の試みだ。上演を前にその意図や意気込みを公演会場にて、飯塚監督並びにキャストの関めぐみ、加村真美、日高七海に伺った。
普通の劇場が会場だったら100%やってなかった(笑)
――いよいよ12月の公演が近づいて来ましたが、まずは、今回の「コントと音楽」が生まれた経緯について教えていただけますか。
飯塚健「僕は映画以外にミュージック・ビデオもやらせていただいているんですが、以前ミュージック・ビデオを一緒に作ったプロデューサーから〈ブルーノート※ × 飯塚で何かやらないか〉とお話をいただいたんです。これが普通の劇場だったら100%やってなかった(笑)。時期的にちょうどクランク・インする新作映画も控えていましたし。でも、ほかに似たような場所があるかと考えた時にパッと思い浮かばないような場所って、実はあんまりないんですね。横浜で海が見えて、洒落ているんですが、洒落すぎていない、そして格好良さがあるライヴ・レストラン。そんな素敵な場所で何ができるだろうと、興味が湧きました。
※公演が開催されるモーション・ブルー・ヨコハマはブルーノート東京のプランニング・サポートによるライヴ・レストラン
それで、まずはモーション・ブルー・ヨコハマでなかの綾さんのライヴを観させていただいたんです。そこには、お酒を飲んで食事をしてライヴを観て歓談を楽しんで……という、ディナー・ショーとも違うライヴ・レストランならではの時間の流れがあった。さらに当日提供する料理も含めて一緒に考えないか、というお話だったので、これはやったことがないものばかりだぞ、だったらやりたいぞ、と(笑)。それから本気で〈この場所で何をやったらおもしろいか〉を考えた時、演劇よりも観やすいコントがいいんじゃないかと思ったんです。
〈ライヴ・レストランのテーブル〉という動きが限定される場で演じて、そのオチとして俳優達がステージに歌いに行く。そこには生のバンドと音楽があって、今度はオンステージの場面に変わっていくという形ができたらおもしろいなと。俳優さんには負荷がかかって申し訳ないんですが(笑)」
――コントのオチに歌がある、という仕組みがおもしろいですね。そこで何が歌われるのかも気になります。
飯塚「最近流行の音楽じゃないだろう、と。自分たちが聴いてきたものよりもっと前の曲、例えば浅川マキさんとか。あとは90年代の歌を昭和のキャバレーみたいな雰囲気のアレンジにできたらおもしろいと思ったんです。しかもコントのオチという意味もあるので、これはもう海田さん※にしかできないなと思って、音楽プロデュースをお願いしました。聴いたことがある歌を聴いたことがないアレンジで聴ける、しかも生ですから。そこは普段のライヴと近い感じになればと」
※作曲家、海田庄吾。「虹色デイズ」「荒川アンダー ザ ブリッジ」など飯塚の手掛ける作品でもたびたび音楽を担当
芝居の〈揺れ〉を間近で観ることができる
――初の試みである今回の作品を、どうディレクションしていったのでしょうか。
飯塚「すごくチャレンジングな企画なので、キャスティングもチャレンジングなものにしました。映画やテレビ以外で活躍している上手い人、おもしろい人はいくらでもいるし、そういう人たちのプレゼンの場にもなったらいいな、という思いもあって。関さんとは12年ぶりかな? 加えて初めましての方もいます。
そもそも〈隣の席から聞こえてくる会話〉をコントにしていくので、わかりやすいキャスティングだとおもしろくない。喫茶店とかでも、明らかに詐欺みたいな話をしている二人とかいますよね(笑)? そういった世界を再現したいから、新しい顔ぶれでやりたかった。
脚本にしても、今回はナシで始めたんです。普段の映画だと脚本を書いて書いて、準備稿の段階まで作ってから決め込んでいくんですが、今回は稽古場で集まって〈こういうシチュエーションで何かやってくれ〉という感じ。どんな話が聞こえてきたらおもしろいか、そして、それを芝居じゃなくどうコントにして行くかを、まさにライヴで作っていった感じです。最終的には5本のコントと5曲の音楽になる予定です」
――芝居ではなくコントとなると、俳優の皆さんにとっても挑戦ですね。
飯塚「そうだと思います。特にコントは活字にして渡すと、途端に〈隣から聞こえて来た会話〉じゃなくなっちゃう。そういう、俳優にとっての〈芝居と自身のせめぎ合い〉がこんなに近い距離で観られることもないですから、そこも見どころだと思います。カメラを通しては絶対にわからない〈揺れ〉みたいものが観れるというか。まさにライヴですね。俳優さんはいつもより緊張するんじゃないですかね(笑)」
正解がない世界で、どうしよう!
――そのあたりについて、俳優の皆さんにもお訊きしたいと思います。脚本がないコントを舞台としてやることは、やはりあまりないことですよね?
関めぐみ「はい、すごく困ってます(笑)。理解すればいいという世界じゃないので、何を勉強すればいいのか(笑)。覚えたらいいというものではなく、その場の雰囲気のなかで、生の人間として違和感なく存在して、でも少しだけおもしろい違和感を漂わせて物語を進行させていくことが、こんなに難しいものなのか、と」
飯塚「僕がその場で、口答でセリフを渡したりするんで。みんな大変だと思います(笑)」
関「私は歌もやったことがないし舞台に立ったこともないので、どんなゴールに向けて、何を克服したらいいのか、と(笑)。実際にこうしてお店に来てみると、改めて舞台装置とお客様との距離が近いな、とも思いました。メンタルを強く持たなければ(笑)。内容については監督にすべてお任せしているので安心ですが」
飯塚「この距離で俳優の芝居を観るなんて、普通はできないですよ。助監督くらいです。でも俳優さんとしてはこの距離、嫌だろうなぁ(笑)」
加村真美「私は監督とは3年ぶりにご一緒させていただくので、最初はただただ嬉しかったんです。でも稽古に参加してみたら本当に正解がない世界で、どうしよう!と(笑)」
日高七海「私は5月に最新作の撮影でご一緒させていただきましたが、飯塚監督は映画の撮影現場でもライヴ感を大切にする方なので、毎回何をやらされるんだろう、というのがあります(笑)。なので今回の企画を聞いた時、(飯塚が監督に)すごく適任だなぁと。いまも毎日、稽古がライヴですね(笑)」
第2弾もこの場所で
――公演タイトルには〈vol.1〉とありますが、今後の展開も、飯塚監督の中では用意されているのでしょうか。
飯塚「ぜひ第2弾もこの場所でやりたいですね。なのでスケジュール調整をしてます。まだ一回も上演してないのに(笑)」
――最後に「コントと音楽」を楽しむ秘訣を教えていただけますか。
飯塚「コントはもちろん、お伝えしたように今回はそれに合わせて料理もアイデアを出させていただきました。オリジナル・カクテルもありますので、美味しく食べて飲んで、気楽に笑って音楽を楽しんで、特別な日にしてもらえたら嬉しいです。〈酔った者勝ち〉です(笑)」
――ありがとうございました!
EVENT INFORMATION
コントと音楽 vol.01 「振り返れない。」
2019年12月6日(金)~12月8日(日)神奈川・横浜 モーション・ブルー・ヨコハマ
全席指定席10,000円(税込)
演出・脚本:飯塚健
出演:関めぐみ、中別府葵、三浦俊輔、加村真美、日高七海、山田瑠々、久具巨林、平田貴之、市原朋彦、福田航也、他
12月6日(金)
[1部] 開場16:30/開演17:45
[2部] 開場19:30/開演20:45
12月7日(土)
[1部] 開場15:00/開演16:15
[2部] 開場16:00/開演19:15
12月8日(日)
[1部] 開場15:00/開演16:15
[2部] 開場18:00/開演19:15