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インタビュー

マーク・ターナー(Mark Turner)が考えるジャズの現在地――ECMからの新作『Return From The Stars』やジョン・コルトレーンからの影響を語る

SF作家スタニスワフ・レム作品に因んだ『リターン・フロム・ザ・スターズ』
新たな深みを見せる、複雑な作曲と緊密なインタープレイの充溢

 『Lathe Of Heaven』(2014年)以来のECMからのリーダーアルバムをリリースしたマーク・ターナー。対位法とリズムの複雑な相関性が目指された全曲オリジナルの楽曲に、長年切磋琢磨してきたメンバーとの自由かつタイトなインタープレイが繰り広げられる。演奏同様、的確で真摯な語り口から、彼の考えるジャズの現在地が見えてくる。

MARK TURNER 『Return From The Stars』 ECM/ユニバーサル(2022)

 

――パンデミックで音楽に対する視点などは変わりました? 新作には深化を感じますが。

「単純にいつもピアノの前でヴォイス・リーディングに熱中してその時間が増えたので、理解が一段と深まったかもしれないね」

――新作タイトルは、SF作家のスタニスワフ・レム作品にどう関係していますか。

「特定の章や登場人物に直接関連づけたわけではないにせよ、作品は主人公の感情に関係している。話をかなり端折ってまとめるならば、主人公は10年間宇宙空間で過ごすなか、地球では120年がたっていた。言語も文化も違う環境下で、主人公はどう対峙するかという話だね」

――今作の共演者について教えてください。

「ジェイソン・パーマー(トランペット)は研究熱心で、さまざまな先人たちの伝統を受け継ぎつつも、進歩的で冒険を好むんだ。ファイト心があるのが自分と近い。ジョー・マーティン(ダブル・ベース)とはこの25年間、さまざまなバンドで共演している。オーケストラをベースで支えるオーケストレーター的存在で、低音を弾くピアニストのようだ。大抵のドラマーとよく合い、曲の各部分に流れを保ちつつリズム的風景を作ることができる。ジョナサン・ピンソン(ドラムス)も過去をよく研究しつつ、現在の音楽をやれている。情熱があるので好きだ。ピアニスト不在で各奏者の責任が大きくなるなか、複雑性をもたらしてくれる」

――今回、アンサンブルの精度、特に音色、響き、音楽語法の統一が素晴らしいです。

「もう長年やっているからね。それらの要素をよくするため、何ヶ月も何年も前から一緒に練習している」

――リズム構造が面白いと感じました。例えば7曲目の“Unacceptable”はどう作りましたか。

「大まかに言うと3拍子、13/8拍子、13/4拍子の3つがあって、さらにその中に細分化されたリズムがある。メロディには4つの区分があるね」

――対位法の勉強について伺います。

「 レニー・トリスターノ、アルバン・ベルク、ヒンデミットら。常に彼らを研究しているんだ。前作と今作で大きな影響を受けているね」

――あなたの音楽には、協和音/不協和音の独特のバランスや複雑な音楽的要素があります。もはや新たな境地にいると感じますが、自身の音楽を新い言葉でカテゴライズしたい欲求はありますか?

「自分はアフリカン・アメリカンの伝統に由来している。ハイアート的音楽要素も、ブルース的要素も失いたくない。ハイアートとフォークロアの組み合わせが音楽を一層魅力的にするのだと思う。これが今、自分が生きているカルチャーだと言うことだ。何かジャンルを宣言したり、ジャズから離れることはしたくない。音楽の中で本当に愛していることを自分の音楽に取り入れていたい。あとは歴史家や批評家に任せている」

――BLM(ブラック・ライヴズ・マター)の渦中で感じる変化はありますか?

「今アメリカではとても大きな文化的変化が生じていて、音楽も間違いなく大きな影響を受けるだろう。ただ、まだ全体的な視野は持ち合わせていない。20年後には何か確かなことが言えるかもしれないね」

――ハーモニーを作っていて、特に使わないように努めている古典的クリシェなどはありますか?

「伝統色が強いから使わないということはないね。全ての情報は配置によって決まる。文脈や意図が大事で、ジャズの場合は、リズム・セクションでも決まってくる」

――あなたに一番影響を与えた、ジョン・コルトレーンについて。

「彼は、音楽的な技能に加え、アーティストとしてのヴィジョンを持っていた。自分は音楽的文脈の中で必ずしも同じルートを辿ってはいないけれど、比喩的、寓話的、美学的な意味において自分も近いところにいたいと思う。彼が常に変化していたところに共感するし、ものごとを捉え追求する際のインスピレーション源であり続けている。音楽面では、昔本当によく学習したね。ハーモニーをサックス演奏に適応させたこと、ハーモニーとリズムのバランスをとるのが本当に上手いなと感じている。ネット上には私が15年前に“Resolution”を演奏している動画もある。その後、私は自分のやり方でハーモニーを追求してきたんだ」

 


PROFILE: マーク・ターナー (Mark Turner)
オハイオ州出身、カリフォルニア州で育ち、’90年代初頭からニューヨークのジャズ界で活躍。ジョシュア・レッドマン、カート・ローゼンウィンケル、トム・ハレルらと共演を重ねながらリーダー・アルバムも約10枚リリース。現代ジャズ・テナー・サックス界を牽引する重鎮サックス奏者の一人。

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