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世界の55か国以上を回ってきて、一番苦戦しているのが日本

――いろいろなインタヴューを読むと、海外でプレイするにあたって、最初はやり方もわからず教えてくれる人もいなかった、ということをおっしゃってますよね、でも海外でコツコツ活動を続けている人はMONO以前からたくさんいるし、いまも多いと思うんです。例えば同じスティーヴ・アルビニ繋がりでも、メルト・バナナZENI GEVAなど、先駆的にがんばっている人たちは確実にいた。そういうノウハウというのは、なかなか継承されないものなんでしょうか。

「アヴァンギャルドやノイズ・ミュージックは、またちょっと別のマーケットがアメリカやヨーロッパのアンダーグラウンド・シーンには根強くあると思います。でも僕らはノイズだけじゃなくちゃんとメロディーがある音楽で、しかも単なるエンターテイメントじゃなくアートとして、きちんとした大きな会場で聴かれている日本人のアーティストとして勝負をしたいと思った。特定のオーディエンスだけではなく、さまざまな人を感動させ昂揚させるような、例えばレッド・ツェッペリンみたいな王道のロックをやって、堂々と世界で戦ってみたいと思ったんです」

ZENI GEVA & スティーヴ・アルビニの93年作『All Right, You Little Bastards!』収録曲“I Want You”
 

――そう考えると、確かに前例がないですね。

「全然ないですよ」

――じゃあ実際に世界を回って、ほかの日本のバンドの評判を聞くことはありませんか。

「唯一聞くのはBorisenvyですね。周りから訊かれるんです、日本人ならBorisを知ってるか、envyを知ってるかって。お互い10年以上へこたれず世界を回ってきたから、リスペクトも生まれてくる。彼らに最初に会ったのは日本ではなく海外でしたけど、同じ経験をシェアしてきたという仲間意識はありますから。そういうふうにシェアできる仲間を、先ほど話したインディペンデントなコミュニティーを通じて20年かけて増やしてきた。マネージメントを通じてどんなに売れているバンドから共演のオファーが来ても、そういう価値観をシェアできない、信用できない相手だったら断りますから。一時的にはお金になるかもしれないけど、長続きしない、糧にならないものとは関わりたくない。アートなんだから、目先のお金よりも日本のアートの水準を引き上げるような活動をやりたいんです」

――MONOが何もないところから畑を耕して、いまの地位を築いた。そうしたノウハウやスキルが後進に受け継がれていかないと、日本の音楽シーンが世界に開かれていかないと思います。

「そうですね。でも(日本の若いバンドと)話していても、海外に出たいという人は少ないと感じています。昨年は〈After Hours〉の開催などで若いバンドに接する機会が多かったんですけど、彼らはそこまで野心がない。海外に出るべきとか、進出したから偉いとは思わないけど、そもそも訊いてもこないし関心もないみたいで」

※MONO、envy、downyの3組が立ち上げた音楽フェス。昨年4月の〈SYNCHRONICITY'16 - After Hours -〉を経て、今年4月9日(日)に正式な第1回となる〈After Hours'17〉が開催される

――日本国内だけで成り立つだけの市場があるから、ということもありますね。

「そうなんでしょうね。結局、可能性があるのに目を背けてるということだと思うんですよ。限られた時間のなかで何をするかという選択の問題なので、最終的にはその人の判断でしかないけど、僕らは日本だけで音楽をやっていたら間違いなく潰れてましたからね。そもそも日本に活動基盤のないまま世界に出ちゃったので、いまだに日本での居場所がないというのもある。逆に日本で成功したバンドが海外に居場所を求めても、なかなか上手くいかないのかもしれない」

――MONOが日本でライヴをやると〈来日公演〉という感じになりますもんね。

「そうなんですよ(苦笑)。今回は〈HCW〉に日本人として初めて出演させてもらうんですけど、逆輸入って感じですもんね。〈フジロック〉には過去2回出てますけど、いつも〈初めまして!〉という感覚なんですよ(笑)。MONOというバンドです、日本のバンドです、みたいな(笑)。18年間で世界の55か国以上を回ってきて、一番苦戦しているのが日本ですね。(ライヴ会場の)キャパが少なくて認知度も低い。1年の半分は海外でツアーしていますけど、日本に帰ってくると居場所がなかった頃の自分に戻っちゃうようで、息苦しくなる。やはり日本人ですから、世界でどう評価されようが、日本人の人ともっときちんとシェアしたいと思いますね」

2017年2月の東京公演のティーザー映像
 

――いまやMONOはシェラックモグワイロウといったレジェンドたちと同格以上の存在として海外でも認められているのに、日本ではまだまだ知名度が低いですね。

「そうなんですよ。ポスト・ロックという括りでも、アメリカならスリントやエクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイ、イギリスはモグワイ、カナダならゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラー、ヨーロッパならシガー・ロス、そしてアジアならMONOなんですよ。イギリスでもアメリカでもそういう認識なのに、日本ではまだそこまで認識されていない。今日はそこをぜひ伝えていただきたいと思って(笑)」

――そこは大事な情報を伝えきれていない、われわれメディアの責任でもありますね。抽象的な質問ですが、海外でやっていて日本人である自分を意識することはありますか。

「つい先週も韓国に行きましたけど、社会的・政治的な問題について〈日本人代表〉として意見を求められることはあります。僕は政治的な発言はしたくないけど、気付いたらステージ上で〈政府同士はいがみ合っているけど、俺たちは愛し合っているよね?〉なんて言ってたりする(笑)。音楽には国とか国籍、国境を超越した橋になれるって感覚があるじゃないですか。こんな世界中に俺たちのことをサポートしてくれる人たちがいるのに、政府が決めたからといって殺し合えるはずがない。むしろ僕らは日本じゃなく海外の人に居場所を作ってもらった恩がある。国の意思はどうであれ俺たちは殺し合うなんてできない。音楽を通じてきちんとリスペクトし合おうよ、という。そういう気持ちは常にあります」

――言葉がない音楽であるがゆえに、作り手の意図を超え、いろいろな聴かれ方をされる可能性がありますよね。

「以前サンフランシスコに行った時に、イラク・アタックに加わって負傷したアメリカ兵から手紙をもらったんです。彼は戦いの間ずっと、毎晩MONOの音楽を聴いて過ごしたんだと。でもその一方でイラクの人から、アメリカからのアタックの恐怖を逃れられたのはMONOの音楽のおかげだ、というメールをたくさんもらっている。どっちがどっちなんて言えるはずがなくて、そんなことが起こらないように願うしかない。自分が救われるために、魂が許されるために書いた曲が、いろんな場面でいろんな人に聴かれ、その魂を癒やしている。そこは僕がコントロールできることじゃない」

――そうですね。

「60年代にはロックはカウンター・カルチャーだった。当時のロックはエンターテイメントでもなければビジネスでもなく、確固たるメッセージだったんですよ。僕はいまでもそういう精神でもってロックをやっているつもりです。ツアーで毎日お客さんの前で演奏していると、すごく熱いエネルギーを感じる。音楽の力はちゃんと残っているんだなと実感します。インターネットじゃわからない、人と人が触れ合うってこういうことなんだと痛感するというか。今回の日本公演でも、そういう経験がしたいと願っています」

――今回は東京で単独公演があり、〈HCW〉での出演も決まってますね。

「今回は中国、ヨーロッパ、アジア、北米、南米、オーストラリアと世界中を回る過程で日本でもライヴがあり、海外と同じショウを観てもらうことができる。母国できちんと自分たちの音楽をシェアしたいという想いが強くありますから。それこそ〈HCW〉は、海外のフェスに出るのと同じ感覚でできる。こちらも楽しみです」」

 


『Requiem For Hell』 Live in TOKYO
日時/会場:2017年2月12日(日) 東京・代官山UNIT
オープニング・アクト:Klan Aileen
開場/開演:18:00/18:30
料金:3,800円(税込/1D別)
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Hostess Club Weekender
日時/会場:2017年2月25日(土)、26日(日) 東京・新木場STUDIO COAST
開場/開演:12:30/13:30
出演:〈25日(土)〉ピクシーズ/MONO/ガール・バンドピューマローザ
〈26日(日)〉キルズリトル・バーリーレモン・ツイッグスコミュニオンズ
料金:通常2日通し券/13,900円、通常1日券/8,500円(いずれも税込/両日1D別)
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