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オアシスの全シングルを揃えたベスト盤が新装リイシュー!!

 昨夏、世界待望の再結成を発表したオアシス。チケットが熾烈な争奪戦となったワールド・ツアーは、7月にイギリスから開始、10月には日本に上陸する。その復活を私たちが目撃する日も近づいてきた。そんな絶好のタイミングで、オアシスの全シングル曲を網羅した2枚組ベスト・アルバム『Time Flies... 1994-2009』が、リリース15周年を記念してリイシュー。音源は最新リマスターを使用、日本盤はいしわたり淳治による新対訳付き、歴代ロゴ・ステッカー封入、7インチ・サイズの3面紙ジャケットという超豪華限定仕様だ。これを機に、本稿ではキャリアを俯瞰したベスト盤だからこそ浮かび上がるオアシス像について論じたい。

OASIS 『Time Flies... 1994-2009』 Big Brother/ソニー(2010)

 2016年のドキュメンタリー映画「オアシス:スーパーソニック」は、95年の2作目『(What’s The Story) Morning Glory?』の大ヒット後に開催された、ネブワースでの歴史的なライヴで幕を閉じる構成だった。それが象徴するように、オアシスは初期2作がすべて――甘く見積もっても3作目『Be Here Now』(97年)までという論調は根強い。だが、ベスト盤で改めて振り返ると、むしろ4作目以降の歩みは積極的に再評価されるべきだと思う。

 リアルタイムで聴いたときの印象といちばん乖離があると感じたのは、4作目『Standing On The Shoulder Of Giants』(2000年)からのシングル“Go Let It Out”。リリース当時、まだ学生だった筆者は〈キャッチーなサビがない! 地味すぎる……〉と落胆した記憶がある。だがいま思えば、それこそが彼らの狙いだったのだろう。特に大作志向が強かった3作目はアンセミックな曲が並び、ディストーション・ギターによるウォール・オブ・サウンドが終始鳴り響く重厚なアルバムだった。しかし“Go Let It Out”はその対極をめざしている。トレードマークだった爆音ギターに代わって、主導権を握るのはアコースティック・ギター。曲の展開は抑制されていてミニマル。ドラムは当時のブレイクビーツを意識しており、ベースがグルーヴを牽引するスタイルも新しい。3作目までとは明確に異なる音楽性の模索を始めたという点で、非常に意義深い曲だろう。

 そして初期オアシスとは一線を画する、ミニマルで抑制されたグルーヴの完成形が聴けるのが、6作目『Don’t Believe The Truth』(2005年)からの“Lyla”や“The Importance Of Being Idle”だ。特徴的なのは、ストロークスやリバティーンズらへのオアシスからの回答とでもいうべき、削ぎ落とされたアレンジと生々しい音色。ギターのカッティングを含むリズムのアタック感でグルーヴを醸成しているのも新鮮だ。

 リアルタイムでは、聴き手が初期の幻影を追い求めるあまり、4作目以降の評価が低いこともあった。しかし、解散から十分な時を経てフラットに聴けるようになったいま、初期のフォーミュラに固執せず、新しいグルーヴを探究した中期~後期オアシスはもっと見直されていいのではないか。

 そしてもうひとつ、ベスト盤を聴いて改めて感じたのは、キャリアを通してサイケデリアへの欲望が絶え間なく流れていること。初期の轟音ギターをジーザス&メリー・チェインに通じるサイケデリアと捉えるなら、その志向はデビュー曲“Supersonic”から始まっている。そしてそれは、現時点での(と言っておこう)最後のアルバム『Dig Out Your Soul』(2008年)からのシングル“Falling Down”に至るまで一貫したものだ。無論その背景にあるのは、中期ビートルズを筆頭とする60年代への憧憬。ただし、オアシスはストーン・ローゼズの後継者、つまりレイヴ・カルチャー以降に生まれたバンドという側面も持つ。レイヴ・カルチャーとサイケデリアが密接に関係していたことを踏まえても、オアシスのサイケへの執着は理に適っている。

 もちろん、初期2作の名曲群はいまも燦然と輝いている。ポスト・グランジ時代のオプティミズムを力強く歌い上げた“Live Forever”。持たざる者たちの刹那な快楽主義を最高にゴキゲンなブギーで祝福した“Cigarettes & Alcohol”。〈いまが最低の生活でも、生きてればいいことあるかもしれないだろ?〉という初期オアシスのメッセージを体現した“Some Might Say”。そして説明不要の大アンセム“Don’t Look Back In Anger”。どれも圧巻だ。一方で、“All Around The World”をはじめとする3作目のシングルは、リリース当時は大仰すぎると感じていた。だが、〈最低でもスタジアム〉という今回のツアーの規模を考えると、むしろこのくらいのスケール感が映えるのかもしれないと、いまでは思う。

 改めて聴き返すと、思いがけない発見や気付きが次々に出てくる。あなたもこのベスト盤を手にして、もう一度オアシスと出会い直してほしい。 *小林祥晴

オアシスの日本独自企画ボックスセット『Complete 7Inch Singles Collection Box Vol.1』と『Complete 7Inch Singles Collection Box Vol.2』(共にソニー)

オアシスの作品。
左から、94年作の30周年記念盤『Definitely Maybe(30th Anniversary Deluxe Edition)』、98年の編集盤の25周年記念リマスター盤『The Masterplan - 25th Anniversary Remastered Edition』(共にBig Brother)