FEBB AS YOUNG MASON
待望のセカンド・アルバムが登場——真打ちが語るストリートの洗練

 発表当時「オーセンティックなラップ・アルバム」と自身で語っていたファースト・ソロ・アルバム『The Season』から3年強。ヒップホップが様変わりしていくなかにあって、FEBBのヒップホップ観もそうした流れと無縁ではなかった。「音楽の嗜好が変わった部分もあって、濃い3年間だった」と彼はこの3年間の話を始める。

 「ヒップホップでもいままで聴かなかったトラップとかに手を出すようになって聴く幅も広がって、昔は90年代とかのほうが好きだったけど、最近はそっちのほうが好きで。チーフ・キーフとかも好きで、〈何? このヤンキーの音楽〉みたいな。ってかそういうスタンスのアーティストが好きなんですよ、自分のトラックのスタイルは必ずしもトラップそのままじゃないかもしれないけど」。

FEBB AS YOUNG MASON So Sophisticated VYBE(2017)

 

いろんな曲を作ればいい

 彼がFEBB AS YOUNG MASONとしてリリースする待望のセカンド・アルバム『So Sophisticated』は、(あるいはタイトルからイメージしにくいかもしれないが)そうした志向の変化が背景にある一枚だ。そもそもの制作の始まりは、彼がレジェンドと評すUSのヴェテラン・ラッパー、AZとの共演を思い立ったことだったという。それがアルバムのド頭で実現した“ANGEL”。本作のテーマともなったアルバム・タイトルの『So Sophisticated』は、いわばAZに対して彼が持っているイメージ(と自身の手によるこの曲の清々しいトラック捌き)と重なるものともいえよう。

 「1曲目にAZがフィーチャーされてるアルバムを出したらすごいことになるなって草案が浮かんで、(今回は)それを形にしてった感じですね。AZはトラックを選ぶセンスがメロウで一貫してて、洗練された感じがハンパないと思うし、リリシストとしてすごい尊敬できる。自分の痕跡を残すじゃないけど、ヒップホップをやってるならそういうリリシストと一緒に曲をやったっていう結果が欲しかったっていうのもありました」。

 みずからの根っこにある90sヒップホップを踏まえてクラシック然とした前作のトラック選びを、より現代の鳴り/ノリへと引き寄せた『So Sophisticated』は、聴き進めるごとにラップの面でもFEBBの変貌を窺わせるものとなっている。英語のライミングやメタファーを随所に配し、フレーズ単位で成り立っていたリリックと流れるようなフロウは、よりあるがままのリリックやラップに取って代わられた。それはこのアルバムが3か月ほどの短期間で制作されたこととも関係があるようだ。同時にそれは彼が現行USシーンのリリース・ペースに触発された結果でもある。

 「例えば向こうの『XXL』で目立った若手を挙げるフレッシュマンとかあるじゃないですか。その人たちを検索すると、もうミックステープ10枚ぐらい出してるような人が多くて、こんぐらいリリースするんだったら一曲一曲別にこだわる必要もなく、いろんな曲を作ればいいんじゃねえかな?みたいに思ったり。そこで出すものは深さというよりはノリで聴きやすい音楽を提供できればいいのかなと思ったんで」。

 

いままで何をやってたんだろう

 加えて、本作がそうしたものになった裏には、DOGGIESのEPでの初共演をきっかけに交流を深めたA-THUGの存在が大きかったに違いない。FEBB自身もそれは大いに認めるところでもある。

 「ファーストを出した頃の俺のリリックって難解な部分があったと思う。だけど、A-THUGさんと一緒にレコーディングしていくなかで、〈ラップってこんな簡単でいいんだ〉とか〈こういうこと言ってもいいんだ〉みたいな部分を学んだ。やっぱりあの人は天才だと思うんですよ。狙ってあの感じは出せないと思うんで、ホントに直感がすごい切れてる人だと思うんですよね」。

 先のAZとの共演や、エイサップ・ロッキーもアルバムに起用したV・ドンのビートで、昨年来ますます好調なB.D.との硬派なマイクリレー“Don”に加え、日々のハスリンを歌うKNZZとの楽曲~チーフ・キーフらを手掛けるルカ・ヴィアリのトラックで曲中ギアを変えるA-THUGにマイペースで応えた“THE GAME IZ STILL COLD”といったDOGGIESの延長ともいうべき楽曲。その他プロディジー(モブ・ディープ)の弟分的なブーグス・ブーゲッツとの曲など、US勢も含めた客演/プロデュース陣は、いずれもFEBBが自分でコンタクトを取ってリンクしたもの。そんな中で、“OPERATION SURVIVE”は、予期せぬ出会いから生まれた曲だという。ホーンのサンプルが晴れやかに飾るトラックの端々に耳に残るラインを繋いでいく楽曲は、ラップぶりとあわせてアルバム後半のクライマックスの一つだ。

 「チャドGのことは全然知らなかったし、面識もなかったんですけど、Twitterでトラップのビートを募集したら速攻でメールが来て。それでトラップのビート集をもらったんですけど、そのなかに1曲だけ普通のヒップホップのトラックが入ってて、あ、これいいなと思って。ああいう感じのトラックでいままでラップしたことなかったし、だったら新しいテーマに挑戦してみようかなと思って、自分がどうやってサヴァイヴしていくかみたいな曲を作ったんですよ。ああいうストレートな曲はいままで書いたことがなかったですね」。

 延期を重ね、難産の末に生まれた前作が嘘のように、一日に3~4曲録ることすらあったという『So Sophisticated』を前にして「いままで俺は何やってたんだろう」と笑ったFEBB。Fla$hBackSやDOGGIESの動きも含め、旺盛な創作意欲は今後のリリースへと反映されそうだ。

 「いろんな曲を出して、いろんな側面をいろんな人に知ってもらいたい。なんで今年はソロもコラボも含めていろいろリリースを予定してるし、いままでのアルバムで見せられなかった、いまの音楽が好きないまの自分が反映された部分を出せたらいいなと思ってます」。

 

『So Sophisticated』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

 

『So Sophisticated』に参加したアーティストの関連作を一部紹介。