リバース・クオモとスコット・マーフィーがJ-Pop愛を爆発させたプロジェクト、スコット&リバースが通算2枚目のニュー・アルバム『ニマイメ』をリリースした。同作に収録された“スコリバのテーマ”で〈洋楽じゃない…We’re スコリバ!〉と歌われているように、日米の豪華ミュージシャンとのコラボでも話題を集めている今作で、遊び心に富んだオンリーワンの音楽性はさらなる進化を遂げている。そんなアルバムの聴きどころを、2人のインタヴューを交えながら紐解いていきたい。 *Mikiki編集部
目標は〈紅白〉出演! スコリバが意気投合するまで
リバース・クオモとスコット・マーフィー。日本とJ-Popをこよなく愛するふたりのアメリカ人が日本語で歌うことも含め、彼らなりに J-Popに取り組むプロジェクト。それがスコット&リバース。略してスコリバだ。
リバースはご存じ、ちょっと切ないパワー・ポップが94年のデビュー以来、大人気のロック・バンド、ウィーザーのフロントマンだ。96年の初来日をきっかけに、アメリカでは是とされるマッチョなタイプとは対極にあるナイーヴでセンシティヴな自分が、日本では居心地良く過ごせることに気づいた彼は、その後、2006年に日本人女性と結婚。奥さんが観るTV番組を通して、アメリカの音楽にはない J-Popならではの魅力に気づき(「とにかくメロディーの良さ。ファンタスティックだよ」とリバース)、いつしかJ-Popのアーティストとして、日本で活動できないものかと考えるようになっていた。
そんな時に出会ったのがスコットだった。現在は細美武士が参加するバンド、MONOEYESのメンバーとしても活躍しているスコットは、98年に加入したシカゴのポップ・パンク・バンド、アリスターのメンバーとして日本に来たとき、日本の音楽に興味を持ち(きっかけは沖縄の屋台で聴いた三線の音色だったそうだ)、アリスター時代からスピッツ、サザンオールスターズ、BEGINらの曲をカヴァーしてきた。
リバースもウィーザーでBOAの“メリクリ”をカヴァーしていたが、ただカヴァーするだけでは飽き足らないふたりは「NHK紅白歌合戦」に出演することを目標として、2008年にスコリバを結成した。それから時間をかけて、 J-Popを聴きながら吸収した曲作りの方法論を実践しながら曲作りに挑戦。その成果が2013年にリリースした『スコットとリバース』というアルバムだった。その後は単独ツアーを開催するだけに留まらず、〈COUNTDOWN JAPAN〉〈ROCK IN JAPAN〉など邦楽のフェスにも出演し、それまでの洋楽ファンとは違うリスナーにもその存在をアピールしてきた。
〈スコリバ感〉を拡張した、新作『ニマイメ』でのチャレンジ
そして、前作から4年。待望の新作『ニマイメ』が完成した。タイトルはもちろん、〈2枚目〉のアルバムであることと、歌舞伎から生まれた美男子を意味する〈二枚目〉の掛詞。そんなところも日本の文化を愛するスコリバならではだ。
「スコリバはカッコイイんだ」(リバース)
「見た目だけじゃなくて、音楽もカッコイイという意味も込めているんだ。スコット&リバースは遊び心があるから、それをタイトルでも表現してみた」(スコット)
リバースが曲と英語の歌詞を書き、スコットが英語の歌詞をもとに日本語に書き直すという曲作りの基本スタイルは今回も変わらなかったそうだが、「前回は1曲ずつ全然違うミュージシャンとレコーディングしたんだけど、今回はほとんどをスコリバのサポート・メンバーが演奏してくれたので、前作より〈スコリバ感〉が出たアルバムになった」とスコットが言うように、MONGOL800のキヨサクをフィーチャーした“Doo Wop”や“カリフォルニア サンシャイン”をはじめ、前作以上にバンド・サウンドをガツンと鳴らした今作は洋楽のリスナーも含むロック・ファンも楽しめるものになっている。
その意味では、中尾憲太郎(ベース/Crypt City 、元・ナンバーガール)、菱谷昌弘(ドラムス/HINTO)、山口美代子(ドラムス/DETROITSEVEN、BimBamBoomなど)、スコット・シュライナー(ベース/ウィーザー)らによる熱演も聴きどころ。熱心なロック・ファンなら、参加ミュージシャンの顔ぶれから、どんなサウンドなのかなんとなく想像できるだろう。
ちなみに前述した“カリフォルニア サンシャイン”は、スコリバが2014年に配信リリースしたシングル“カリフォルニア”のリアレンジ・ヴァージョンだが、リバースはよっぽど気に入っているのか、ウィーザーの『Weezer(White Album)』(2016年)でも“California Kids”というタイトルでやっている。また、前回のツアーで歌っていた“ドラえもんのうた”に代わって、今後はライヴで挨拶代わりに使われるにちがいない“スコリバのテーマ”は、スコットらしいメロコア・ナンバー。そこでも疾走感あふれるバンド・サウンドを堪能できる。
その一方で、「前作はただ純粋に日本語で歌うことを楽しんだけど、今回はもっとチャンレジしたいと思ったんだ。日本語で歌いつつ、サウンド面で新しいことを成し遂げたいってね」とリバースが語っているとおり、バンド・サウンドに終始しないアレンジにも挑戦している。RIP SLYMEのPESがラップを加えた“FUN IN THE SUN”はR&B、レゲエ、サーフ・ミュージックが溶け合ったような魅力が感じられるポップ・ナンバー。“ハミングバード”と、miwaのアルバム『SPLASH☆WORLD』にも提供された“変わらぬ想い”の2曲は、嵐の楽曲で知られる楽曲制作ユニットのyouth caseと一緒に、リバース曰く「東京のスタジオで缶詰め状態になって、サビと歌メロ、ラフなデモ音源を作った」そうだ。『SPLASH☆WORLD』のヴァージョンとは反対にスコリバのふたりがメイン・ヴォーカルを、miwaがコーラスを務めたスコリバ版“変わらぬ想い”はストリングスもフィーチャーしたことで、今回のアルバムでJ-Pop色が一番濃いものになっている。
洋楽ファン注目のコラボで、ますます際立つ日本っぽさ
そんなふうに共作・共演陣に多彩な顔ぶれを招いた成果も、スコットが言う〈スコリバ感〉と共に新作の聴きどころと言えそうだ。サム・ホランダー(ケイティ・ペリー、オリー・マーズなど)、ダン・ウィルソン(アデル、ディクシー・チックスなど)といった洋楽ファンのマニア心をくすぐる共作陣の中で見逃せないのが、アメリカではメインストリームでもっとも成功を収めたインディー・ロック・バンドの一つに数えられるデス・キャブ・フォー・キューティーのフロントマン、ベン・ギバードの存在だ。
「デスキャブのベンが作る音楽も、彼の声も昔から大好きで、ずっと〈一緒に曲を書かないか〉って声を掛け続けてたんだ。そしたらある日、彼がスタジオに来てくれて、一緒に書いたのがこの曲。原曲の歌詞は英語だったんだけど、スコリバの新作にぴったりなんじゃないかと思って、スコットに日本語の歌詞を書いてもらった」(リバース)
「この曲のデモを聴いた時はすごく興奮した。だから、この曲はずいぶん前から〈次のアルバムに絶対収録する〉と決まってた」(スコット)
ふたりが絶賛する、そのベンとの共作曲“君はサイクロン”は、どこか70年代~80年代の日本のポップスを思わせるような魅力があるんだからおもしろい。もしかしたら、スコットが書いた日本語の歌詞がそう思わせるのかもしれない。そう考えると、なんだかタイトルもそれっぽい。意識しているんだろうか?
ともあれ、MONOEYESの活動に力を入れるため、シカゴから日本に引っ越してきて2年。スコットの日本語は、どんどん上達している。一方のリバースの日本語はまだちょっとたどたどしいけど、それが歌になると、彼らしさとしてちゃんと個性になってしまうところがおもしろい。リバースもスコットもそれぞれに忙しいから、完成までに4年かかってしまったが、スコリバは2枚目にして、洋楽ともJ-Popともちょっと違う彼らならではの独特の世界を作り上げてしまったようだ。