田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。昨日1月21日、〈グラストンベリー・フェスティヴァル〉が2021年の開催も中止することが発表されてしまいました。日本のフェスはどうなるのでしょうか……」

天野龍太郎「フェスのない夏はさみしいですが、海外や日本の大型フェスもこの例に続くのではないでしょうか。厳しい状況が続きますね。それと、今週の話題といえば、やっぱり1月20日に開催されたジョー・バイデン米大統領とカマラ・ハリス副大統領の就任式です。国家を歌ったレディー・ガガをはじめ、ブルース・スプリングスティーンやケイティ・ペリーら、多くのミュージシャンがパフォーマンスを披露しました」

田中「22年ぶりに一夜限りの再結成をはたしたニュー・ラディカルズが最高でしたよね。彼らの代表曲“You Get What You Give”を、亡くなられたバイデンの息子ボーさんが愛聴していたんだとか。あの曲のポジティヴなメッセージも、今回のセレモニーにぴったりだったと思います。天野くんが特に印象に残ったものは?」

天野「僕はジョン・レジェンドとブラック・ピューマズでしょうか。DJキャシディとともにオスナやルイス・フォンシのようなラテン・アーティストも出演して、アメリカの結束を伝えるラインナップだったと思います。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

1. Deb Never “Someone Else”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉は、デブ・ネヴァーの“Someone Else”です。デブ・ネヴァーは米LAのシンガー・ソングライターで、ベッドルーム・ポップの有望株。ライアン・へムズワーズやシュローモらが名を連ねるLAのアーティスト・コレクティヴ/レーベル〈WEDIDIT〉からのリリースで知られています」

田中「2019年のEP『House On Wheels EP』は、彼女が影響を受けたというグランジや90年代オルタナティヴ・ロックをほうふつとさせるメロディーと、エモ・ラップ的なトラックがうまく融合していましたよね。今回の“Someone Else”は、ジャム・シティ(Jam City)とこれまでも彼女とコラボしてきたマイケル・パーシー(Michael Percy)によるプロデュース。両者とも〈WEDITIT〉人脈ではないところに注目です。ジャム・シティは、2020年に5年ぶりのアルバム『Pillowland』をリリースしたエレクトロニック・ミュージック・シーンの鬼才ですね」

天野「最近、ネヴァーはパーシーと一緒にLAから英ロンドンへと拠点を移したようです。前作から音楽性もがらっと変わっていますし、“Someone Else”は彼女の新たな一歩を踏み出したことを告げる曲だと言えるでしょう。メランコリックなメロディーはこれまでどおりですが、中盤から個性が立ってくるビート・プロダクションが印象的です。正直に言って、僕はベッドルーム・ポップって保守的な音楽だと思うんです。みんな似たような音楽性だし、新しい音を求める意志を感じないものも多い。そんななかで、ネヴァーは今回チャレンジングな姿勢を見せたので、すごく心強く感じましたね」

田中「“Someone Else”は、ちょっと歪んだ音作りがまさにジャム・シティ印ですよね。最後のコーラスでドラムンベース/ドリルンベース調の性急なビートになるところには、〈おっ〉と思いました。リリックは別れたパートナーへの思いを綴ったもので、〈あなたが他の誰かと恋におちないでほしい〉と未練を込めて歌われます。LAで何かあったのかな……なんて思っちゃいましたが、彼女のロンドンでの活動は楽しみですね!」

 

2. Flo Milli “Roaring 20s”

天野「2位は、フロー・ミリの新曲“Roaring 20s”。これが〈SOTW〉でもいいくらいだったのですが、先週リリースされた曲だったので2位にしました」

田中「フロー・ミリは僕たち2人の間ではよく話題に上がるラッパーなのですが、意外にも〈PSN〉初登場。Mikikiにも彼女についての記事がありませんでした。ただ、昨年のデビュー・ミックステープ『Ho, why is you here?』は話題になりましたし、それ以前から注目されていたので、知っている方も多いかもしれません」

天野「フロー・ミリことタミア・モニーク・カーター(Tamia Monique Carter)は米アラバマ州モービル出身のラッパーで、2000年生まれの21歳。プレイボーイ・カルティ&イシリアルの“Beef”からビートを借用した“Beef FloMix”(2018年)がInstagramやTikTokなどでヴァイラル・ヒット。続くシングル“In The Party”(2019年)もソーシャル・メディアで話題になり、注目を集めました。アイコニックな歌声は特徴的で一度聴いたら忘れられないものですし、ひたすらビッチであることを歌うリリックも〈Flo Milli shit〉というお決まりのフレーズもインパクトがあります。なにをやっても〈映える〉感じですよね。ニッキー・ミナージュやカーディ・Bに続く、新世代のフィメール・ラッパーと言っていいでしょう」

田中「今回の新曲は、まず曲名がいいですよね。〈Roaring 20s〉とは、いわゆる〈狂騒の20年代〉のこと。第一次世界大戦後に社会が激変していった、アメリカの1920年代を指す言葉です。経済が成長して大量生産・大量消費の時代が到来、ジャズや文学などの文化も花開いた時代でした。ただ、2020年代は新型コロナウイルスがもたらした混乱で、1929年以降の世界恐慌の時代みたいですけどね……」

天野「〈狂騒〉であることには変わりないのかもしれません。この曲について、フロー・ミリ自身の言葉を要約してみましょう。〈1920年代は社会と政治が激変した時代。困難に満ちた昨年は、新時代の狂騒の20年代を生きているようだった。また、1920年代は自立した女性と性の解放の時代で、女性たちが『女性らしからぬ』ファッションや振る舞いをした時代だった。私のスタイルやリリックはその自由と共鳴している。私こそが狂騒の20年代だ〉。かっこいいメッセージですね。それに反してというか、その言葉どおりにというか、リリックはどこまでもダーティー。男どもを脇に追いやって、〈このプッシーは高価〉とか、〈プッシーが世界を支配したら憎めないでしょう〉とか、強烈なラインが繰り出されます」

田中「プロデューサーのケニー・ビーツ(Kenny Beats)によるビートもいいですよね。ミュージカル『屋根の上のバイオリン弾き』の“If I Were A Rich Man”(64年)をサンプリングしているのが、かなり効いています。これを聴くと、2021年はフロー・ミリの年になりそうな予感がしますね!」

 

3. Weezer “All My Favorite Songs”

天野「ウィーザーの新曲 “All My Favorite Songs”が3位です。ウィーザーは、サプライズに近い形で新作『OK Human』のリリースを発表、この曲は同作からのリード・シングルです。『OK Human』は来週1月29日(金)に発表されるのですが、さらに5月にはハード・ロック魂を爆発させたという新作『Van Weezer』をリリースするのだとか。精力的ですね」

田中「あまり中堅やヴェテランのバンドを推してこない天野くんが、今週ウィーザーをプッシュしてきたのにはびっくりしたのですが、どういう風の吹き回しだったんですか?」

天野「メッセージやサウンドの真摯さと、これまでのウィーザーのいいところを引き継ぎながら新しいことに挑戦しているところに惹かれました。というのも、『OK Human』はピアノやオーケストラによる演奏を中心に据えたアルバムなんだそうです。これは、ハリー・ニルソンがランディ・ニューマンの楽曲を歌った70年のアルバム『Nilsson Sings Newman』やビーチ・ボーイズ『Pet Sounds』からインスピレーションを受けたからなのだとか。リヴァース・クオモ特有の甘さと切なさを併せ持つメロディーと管弦楽器のアレンジは合うだろうな、と期待していました。それに、レディオヘッド『OK Computer』への当てこすりみたいなアルバム・タイトルがいいじゃないですか(笑)。歌詞にはコロナ禍での複雑な思いが表れていますし、〈人間の力を信じよう〉という愛も伝わってきます。Twitterのコメントにもぐっときました」

田中「なるほど。この“All My Favorite Songs”は、まさに期待どおりと言うか、ウィーザーならではのエモさと華やかでゴージャスなストリングス・アレンジが見事に合わさっていますね。個人的には、スピッツがオーケストラをフィーチャーしたコンセプト作『オーロラになれなかった人のために』を思い出しました。なお、『OK Human』ではクリックなどのハイテクな録音技術をいっさい使わず、人間の生演奏を全面に出し、アナログな技術のみでレコーディングしたそうです。来週リリースのアルバム、楽しみですね」

 

4. Cassandra Jenkins “Hard Drive”

天野「4位です。カサンドラ・ジェンキンズの“Hard Drive”。Pitchforkが〈Best New Track〉に選んだこともあり、注目を集めている曲ですね」

田中「カサンドラ・ジェンキンズはNYCのシンガー・ソングライターで、これまでにエレナー・フリードバーガーやクレイグ・フィン、ローラ・カークのバンドで演奏。デイヴィッド・バーマンが亡くなってしまったのでキャンセルになってしまいましたが、パープル・マウンテンズのツアーにも参加する予定だったのだとか」

天野「NYCを中心に、アメリカのインディー・ロック・シーンで活躍してきた才能なんですね。僕は最近まで彼女のことを知りませんでした。ジェンキンズは2017年のファースト・アルバム『Play Till You Win』に続く新作『An Overview On Phenomenal Nature』を2月19日(金)にリリースする予定で、この“Hard Drive”は同作からのサード・シングルです。プロデューサーは、ジョシュ・カウフマン(Josh Kaufman)。ナショナルやホールド・ステディ、ウォー・オン・ドラッグズらとの仕事などで知られる音楽家です。このあたりにも、NYのインディー・コネクションを感じました」

田中「チェンバー・ポップ風の密室的な音作りが印象的で、アンビエンスを漂わせたカウフマンのギターやサックス、ミニマルなベースとドラムのビートが、とてもドリーミーでユーフォリックです。語りと歌とを行き来するヴォーカルも素晴らしくて、ジェンキンズの実体験をもとにしたと思われる、警備員やドライヴィング・インストラクターなど市井の人々が登場するリリックも魅力的ですね」

天野「冒頭のボイスメモの挿入や〈ワン・トゥー・スリー〉というささやきなど、とても深みのある曲ですよね。胸を打たれました。『An Overview on Phenomenal Nature』を聴くのが楽しみです。きっと傑作にちがいありません」

 

5. Gentle Dom “I Miss Dancing In New York”

田中「今週最後の曲は、ジェントル・ダムの“I Miss Dancing In New York”。アーティスト名を聞いてもぴんとこない方が多いかと思いますが、ジェントル・ダムはMGMTのアンドリュー・ヴァンウィンガーデン(Andrew VanWyngarden)によるソロ・プロジェクト。ウィーザーにMGMTなんて、〈PSN〉はどうしちゃったんでしょうか。今週は懐かしのロックにフォーカスしていまね」

天野「といっても、この“I Miss Dancing In New York”は思いっきりハウス・トラックなんですけどね! アンドリューは5年ほど前からジェントル・ダム名義でSoundCloudにDJミックスやデモをアップしていました。2020年にはコナン・モカシンやサッカー・マミーなどの楽曲のリミックスを手掛けていて、名前を見かけるようになりましたね。オリジナル作『Fante Se EP』もリリースしています」

田中「これまでのリミックスやEPを聴くかぎりは、アンドリューが自身のサイケデリック志向やエレクトロニックなサウンドへの興味を、リミットせずに追求するプロジェクトなのかなと思いました。なかでも今回の“I Miss Dancing In New York”は、超パワフルなダンス・ミュージック。各音域が前に出てきたり急に引っ込んだりするクレイジーなミキシングや、ヴォーカル・サンプルのラフな貼り付け方、さらにガヤの音が入っているところなど、ムーディーマンやセオ・パリッシュといったデトロイト・ハウス勢を意識したのかなと思いました」

天野「荒々しさがかっこいい曲ですよね。ただ、キックの音のしょぼさが気になります(笑)。そのラフさも魅力だと言えますが。〈NYでダンスするのが恋しい〉というタイトルからわかるように、コロナ禍以降窮地に陥ったクラブ・カルチャーの状況を反映していて、ダンスへの飽くなき欲望を表現しているところが最高ですね! まさに僕たちも〈We Miss Dancing In Tokyo〉状態ですから」