Peter Gowland

ウィーザーの〈ブルー・アルバム〉は30年経ってもまだまだ青い!

 新年早々に開催される新たな洋楽フェス〈rockin’on sonic〉にヘッドライナー出演が決定し、大阪・名古屋での公演も発表されているウィーザー。それに先駆けて現在の彼らは、リリースから30年を迎えた94年のデビュー作『Weezer』収録曲を全曲演奏する〈Voyage To The Blue Planet〉で北米をツアーしている真っ最中だ。近年はメタル作品『Van Weezer』(2021年)や四季を表現した連作EP〈SZNZ〉シリーズ(2021〜22年)といったコンセプチュアルな試みが目立っていたが、このアニヴァーサリーはバンド自身もファンも輝かしい過去からの祝福を受け取るべきターンなのだろう。そんな節目を祝って、同作の〈30周年記念エディション〉がこのたび登場と相成った。

WEEZER 『Weezer (30th Anniversary)』 Geffen/ユニバーサル(2024)

 もっとも、それがノスタルジーのみに傾いた動きでないのは言うまでもない。〈史上最高のデビュー・アルバム〉のひとつとして名高い『Weezer』は時代や世代を超えて愛されてきた作品で、後進の世代が未知の〈90年代〉〈パワー・ポップ〉〈ギーク・ロック〉といったタグからエンターする際の入口として機能し続けてきた(ミーム化に適したジャケも忘れちゃいけない)。出た瞬間にシーンの流れをひっくり返した作品ではなかったかもしれないが、しばらく経って海原の源流を遡ってみるとその上流に位置していたような、そんな名作と言えるのかもしれない。

 そんなウィーザーの物語は、コネチカット州マンスフィールド育ちのリヴァース・クオモ(ヴォーカル/ギター)が高校で組んだメタル・バンドと共にLAへ移った89年から始まる。バンド解散後の彼はパトリック・ウィルソン(ドラムス)と出会い、友人のマット・シャープ(ベース)の家に引っ越した時点でメタルを離れてオルタナに傾倒。いくつかのバンド結成と解散を経てジェイソン・クロッパー(ギター)が加わり、92年2月にウィーザーとして結成された。同年の秋にバンドは〈The Kitchen Tape〉と呼ばれるデモを録音。そのテープがゲフィンのA&R担当の耳に届いたことで、彼らは順調にメジャー契約を手にしている。

 セルフ・プロデュースを望んだ彼らではあったが、レーベルからの指示されて最終的にはカーズで名高いリック・オケイセックをプロデューサーに指名。93年の8月から9月にかけてNYのエレクトリック・レディ・スタジオでレコーディングを行う。その期間中には私生活の都合で不安定な状態に陥ったジェイソンを解雇するという出来事もありつつ、録音が済んでいた彼のギター・パートはすべてリヴァースが録り直し、並行して後任のギタリストにブライアン・ベル(録音への参加はヴォーカルのみ)を招き、かの有名なジャケットには4人の姿が並ぶこととなった。

 ナードなユーモアやカルチャーへの造詣の深さを下地にしたリヴァースのソングライティング、ギターとベースのユニゾン演奏で増幅したパワフルな勢いをダイナミックなフックへ接続するオーセンティックでキャッチーな音楽性を備えた『Weezer』は批評家の絶賛を集め、“Undone - The Sweater Song”や“Buddy Holly”“Say It Ain’t So”といった強力なシングルの効果もあって全米16位のヒットを記録。いま聴き返しても冒頭の“My Name Is Jonas”(ジェイソンが共作している)からクロージングの“Only In Dreams”までワクワクするような青さに溢れている。

 このたびの〈30周年記念エディション〉はヴォリューム満点なCD 3枚組仕様。オリジナルのアナログテープから新たにリマスターした本編に加え、先述した〈The Kitchen Tape Demo〉の8曲、ガレージでの練習やリハーサル音源などの最初期の録音が10曲、さらには初期のライヴ録音が12曲、BBCのラジオ放送用音源から6曲(未放送分も含む)……とプリミティヴな原石が磨かれるまでの流れを楽しめる秘蔵音源が特盛りだ。一部は過去のデラックス・エディションなどで世に出たこともあるが、実に36トラックが公式には初出となるのだから凄まじい。

 なお、初作が成功して以降の彼らは96年にセルフ・プロデュースで2作目『Pinkerton』を発表するも当時は失速したと見なされ、その後はレンタルズに専念すべくマット・シャープが脱退。そして、ブランクを経て届いた3作目が再度オケイセックをプロデューサーに迎えた2001年のセルフ・タイトル作『Weezer』だった……というのはまた別の話だが、その〈グリーン・アルバム〉の登場をもって彼らの初作が〈ブルー・アルバム〉と広く呼ばれるようになったのは言わずもがな。以降も彼らのセルフ・タイトル作は多彩な色味で定期的に発表され、ファンからも特別な意味合いで受け止められているが、それもこれも初作が纏った永遠のブルーの効力があってこそ。来日を楽しみにしつつ、この機会に青の奥深くまで潜り込んでみよう。

左から、ウィーザーの94年作『Weezer』(DGC)、往年のギーク・ロックを集めた2024年のコンピ『Generation Blue』(Big Stir)、ビリー・コブの2021年作『Zerwee』(Needlejuice)

ウィーザーの作品を一部紹介。
左から、2001年作『Weezer』、2008年作『Weezer』(共にDGC)、2016年作『Weezer』、2019年作『Weezer』、同年作『Weezer』(すべてAtlantic)