話題のコミック「気になってる人が男じゃなかった」にサントラが登場!

 CDショップで働いているミステリアスな〈おにーさん〉が気になって仕方がない女子高生・あや。しかし、〈おにーさん〉の正体は空気のように存在感のないクラスメイト・みつきだった――2023年4月に第1巻が、今年2月に第2巻が刊行されて累計40万部を突破している新井すみこの人気コミック「気になってる人が男じゃなかった」。作者がSNSで公開するやバイラル化し、単行本が出て以降は漫画界における賞やランキングでも高く評価されている、文句なしのヒット作品である。

VARIOUS ARTISTS 『気になってる人が男じゃなかった<コミック・サウンドトラック>』 ユニバーサル(2024)

 そんな話題作をここで紹介するのは、登場人物のあやとみつきには洋楽が好きという共通点があり、ストーリーにも往年の洋楽ロック名曲が数多く絡んでくる漫画だから……というだけではなく、その漫画の〈サウンドトラック〉として作中で登場する楽曲をコンパイルした『気になってる人が男じゃなかった COMIC SOUNDTRACK』がリリースされているから。コミックを元にしたイメージ・アルバム的なコンピやドラマCDのような作品は珍しいものではないが、目で見る作品の世界を音楽で補足するというスタイルのサントラはなかなか珍しいんじゃないだろうか。すでに5月にリリースされて話題になった同作は、この7月にヴァイナル化も実現する。

 ふたりの好みの共通点のなかでも特に重要なのは、出会いのきっかけとなったニルヴァーナをはじめとする90年代のオルタナティヴ・ロック。作品の舞台設定は現代なので当然ふたりともリアルタイムで聴いていたリスナーではないが、みつきの叔父でもあるCDショップ店長の影響もあってか、サウンドガーデンやコレクティヴ・ソウル、ウィーザーなどこの時代のロックには強く惹かれるものがあるようだ。今回のサントラで聴けるニルヴァーナの“Heart-Shaped Box”(この曲がコンピ収録を許可されたのは初めてだという)やベック“Loser”といった名曲は作中であやがみつきに送ったプレイリストに入っていたものだし、サントラには他にもレッチリ“Higher Ground”、キラーズ“Mr. Brightside”など作中で由縁のある楽曲が並んでいる。そうしたなかにボン・ジョヴィ“You Give Love A Bad Name”やウィロウ“<Coping Mechanism>”など、時代も分類もバラバラな曲が混在してくる感じもリアルでいい(こうした無造作なノリは別にサブスク世代といった括りに限ったものではないだろう)。

 そうした洋楽ロックにリアルタイムで親しんできた世代のリスナーなら漫画とサントラを併せて自然にエモい気持ちになれるかもしれないし、そうでなくても周りと容易に共有しづらい趣味を持って思春期を過ごした人なら、そうした〈好き〉の気持ちがコミュニケーションの媒介として価値を持つことの楽しさや尊さは共感できるところだろう。その意味で、音楽の聴かれ方は変わってもその機能は大きく変わるものではないのかもしれないし、コミュニケーションにおける大事なことの根本も変わらないものなのかもしれない……と大きく構える必要はまるでない。〈◯◯世代〉的なノリで不必要に区切る必要もなく、それぞれが何かに照らし合わせることのできるモダンな青春ストーリーをサントラと共に純粋に楽しんでみよう。

ドラマCD『ドラマCD 気になってる人が男じゃなかった』(フロンティアワークス)

新井すみこによるコミックの原作。
左から、2023年の「気になってる人が男じゃなかった VOL.1」、2024年の「気になってる人が男じゃなかった VOL.2 KITORA」(共にKADOKAWA)

左から、ニルヴァーナの93年作『In Utero』(DGC)、ランDMCの86年作『Raising Hell』(Profile)、レッド・ホット・チリ・ペッパーズの89年作『Mother's Milk』(EMI)、ベックの94年作『Mellow Gold』(DGC)、サウンドガーデンの94年作『Superunknown』(A&M)、ボン・ジョヴィの86年作『Slippery When Wet』(Mercury)、ウィローの2022年作『<COPINGMECHANISM>』(MSFTS/Roc Nation)、ウィーザーの94年作『Weezer』(DGC)、コレクティヴ・ソウルの94年作『Hints Allegations And Things Left Unsaid』(Atlantic)、キラーズの2004年作『Hot Fuss』(Island)