音楽と映画と公園。その3つが不思議なハーモニーを奏でる映画「PARKS パークス」が完成した。東京・吉祥寺のランドマークともいえる井の頭恩賜公園の開園100周年を記念して制作された本作は、60年代に作られた未完成の楽曲をめぐって、純(橋本愛)、ハル(永野芽郁)、トキオ(染谷将太)の3人が不思議な冒険をする物語だ。

監督の瀬田なつきは、これまで木下美紗都や蓮沼執太、池永正二(あらかじめ決められた恋人たち)など、さまざまなミュージシャンと作品を通じてコラボレートしてきたが、本作で音楽監修を務めたのは、サントラや舞台音楽など幅広い分野で活躍するトクマルシューゴ。2人は脚本制作の段階からアイデアを交換して、音楽と映画をしっかりとリンクさせていった。エンディング・テーマを担当した相対性理論のほか、スカート、シャムキャッツ、高田漣、Alfred Beach Sandal、大友良英、井手健介、NRQら、20組を越えるミュージシャンがサントラに書き下ろし楽曲を提供しただけではなく、一部のミュージシャンは出演もしている本作は、音楽ファンも必見の作品だ。瀬田なつき監督とトクマルシューゴは、どのようにして本作を作り上げていったのか。2人に話を訊いた。

 

音楽制作とは違う脳の使い方をした気がする

――まず、トクマルさんが音楽監修を手掛けることになった経緯を教えてください。

瀬田なつき「この映画のストーリーを考えている時に、〈音楽を作る話にしよう〉というアイデアが出たんです。そしたら、プロデューサーの樋口泰人さんが〈だったらいい人がいるよ〉ってトクマルさんの名前を出してくれました。〈トクマル君は井の頭公園に縁があるから〉って。私はもともとトクマルさんの音楽を聴いていたんで、〈いいんですか!? ぜひ!〉って。それで参加して頂くことになったんです」

※2014年に閉館した吉祥寺・バウスシアターとも縁深いboidを主宰する日本の映画評論家/音楽評論家

――いちファンとしてトクマルさんの音楽を聴かれていたんですね。

瀬田「高校か大学の頃から聴いてました。気が付いたら、結構アルバムも持ってて。前に作った作品で、音楽の方向性を考えているときに仮でトクマルさんの楽曲で試したりもしていたんです。本人の前で言うのは、ちょっと恥ずかしいですけど(笑)」

トクマルシューゴ「ありがたいです(笑)。その時、お願いしてもらっても良かったですけど」

瀬田「こっちはトクマルさんを〈フジロック〉とかで観ていたので、ちょっと雲の上の人というか。樋口さんがトクマルさんの名前を出した時、〈私がトクマルさんを聴いているのを知っていたのかな?〉と不思議な気がしました」

トクマルシューゴの2016年作『TOSS』収録曲“Lift”

――偶然だったんですね。〈井の頭公園に縁がある〉というのは?

トクマル「あそこで10代の頃からバンドの練習をしたり、遊んでたりしてたんです」

――馴染みの場所だったんですね。トクマルさんは瀬田監督の作品を観たことはありました?

トクマル「蓮沼(執太)君が音楽をやったりしていたので知っていました。なんか、ちょっと言葉では表現しにくい不思議な手法の映画が多いですよね。映画には明確な答えを出す作品と出さない作品があると思うんですけど、(瀬田監督は)ハリウッド映画みたいに明確な答えを出す作品は好きじゃないんですか? 最後に抱き合って終わりみたいな(笑)」

蓮沼執太が音楽を担当した瀬田なつきの2011年作「5windows」トレイラー

瀬田「いや、そういうのはそういうので好きなんですけど、作ってるとなぜかそこから逃れたい気持ちになってしまうんです。〈ほかに選択肢はないのかな?〉って」

――自然にそうなってしまうんですね。今回、トクマルさんとはどういうふうに作業を進めていったんですか。

瀬田「シナリオ作りの段階から協力してもらって、音楽をどういう方向にしていくかというのを一緒に考えてもらいました。映画の中で音楽を作っていく内容だったので、ある程度シナリオが完成してから音楽を頼むより、今回のやり方はすごく良かったと思います」

©2017本田プロモーションBAUS

――これまでと比べてどういうところが良かったと思います?

瀬田「例えば〈曲を演奏する〉って文字で書くのは簡単なんですけど、(それまでは)実際にそれがどんな曲なのか、自分の頭の中に明確なイメージはなかったんです。それを今回はトクマルさんが具体的にしてくれました。60年代の曲のシーンでは〈こんな音楽はどうですか?〉と、いろいろと聴かせてくれて」

トクマル「僕が全面的に曲をつけるというやり方ではなかったこともあるんですけど、いつもの音楽制作とは違う脳の使い方をした気がします。監督が言っている内容、脚本に書かれたこと、撮影の雰囲気を手掛かりにして、〈どれが正解だろう?〉っていうのを探していく作業でした。大変といえば大変でしたけど、すごく楽しかったですね」

――サントラには20組を越えるアーティストが参加していますが、どういうふうに選んでいったのでしょうか。

トクマル「吉祥寺にゆかりがある人を中心に、僕がある程度リストアップしたものを監督に渡して聴いてもらいました」

瀬田「知ってる人もいたし、初めて聴く人もいて。いろいろ聴くのは楽しかったです」

VARIOUS ARTISTS 『PARKS パークス』 TONOFON/Pヴァイン(2017)

――リストをもらう前に、監督のほうでこの人にお願いしたいというリクエストはありました?

瀬田「それは特になかったです。ただ、時間がないなかで曲を書き下ろしてもらうので、柔軟で優しい方がいいなと(笑)。そういうところはトクマルさんの人脈というか、友情でなんとかしてもらいました」

――大切ですね、人脈と友情(笑)。曲を依頼する際は、〈こういうシーンにかかるから、こういう感じの曲で〉というような具体的なディレクションはありました?

トクマル「そうした人もいればそうでない人もいましたね。こういう映画なんですっていう、ざっくりした説明だけでオファーした人もいるし、映像を見せて〈このシーンのここからここまでの部分を、こういうイメージであてて下さい〉と頼んだ人もいます。でも、みんな映画が好きな人ばかりだったので、深く理解してくれて助かりました」