ソンドレ・ラルケやヤング・ドリームスらポップ・センスに秀でたミュージシャンを多数輩出し続けるノルウェーから、またぞろ注目新人の登場だ。2015年、若干18歳のときに発表したシングル“Keep On Playing Nice”が国営ラジオでヘヴィー・プレイされたのに加えて、英NMEでもブラーやトゥー・ドア・シネマ・クラブを引き合いに出されての高評価を獲得。そして、この度ファーストEP『Loners Get Lonely Too』が、オー・マイ!やヴァージン・スーサイドら数々の北欧インディー・バンドを送り出してきたRimeoutから日本盤リリースされた。シャープなギター・リフと80年代ポップ風のシンセ・サウンドがダンサブルなビートの上で弾む同EPを、英ガーディアンも〈スカンジナビアの若きポップ職人による、緻密さとウィットに富んだギター音楽〉と絶賛。そのポテンシャルは1975やロイヤル・コンセプト級とも噂されるキラ星の如きニューカマーの正体に、日本初となるインタヴューで迫っていこう。 *Mikiki編集部

 

キッド・アストレイのジェイコブは僕の兄なんだ

「普段は保育園の先生をしていて、子供たちにバットマンやスポンジボブの絵を描いているよ」

そう話してくれたのは、ノルウェーのオスロ郊外の街サンビカ出身の20歳、マグナス・ベックマン。「街の大半がショッピングモールで、残りは住宅と学校」だというこの小さな街の音楽シーンについて、彼はこんな風に語っている。

「サンビカに関してクールなことといえば、やっぱり地元のクラブ・シーンかな。Musikkflekken(英語にすると“The Music Spot”)って名前の店があって、地元のバンドも、国中で名が知れ渡っているバンドも、海外から来たバンドもプレイしている場所なんだよ。機材はとても充実しているしね。サンビカでは多くの人たちが音楽をやっていて、みんな結構いい曲を書くんだ」

その言葉通り、彼の祖父もまたジャズ・ミュージシャンだった。

「僕のおじいちゃんはレコードをリリースしたことはないんだけど、昔シーサイド・ジャズメンっていうジャズ・バンドをやっていた時に、地元のミュージシャンたちが参加したコンピレーションに楽曲が収録されたことがあるんだ。僕も何度も聴いたけど、古き良きトラディショナルな風味の曲で最高なんだよ。もちろん、おじいちゃんからの大きな影響はあるよ。決して子供向けのものではない、音楽の世界に僕を誘ってくれたからね。本当にいろいろなことを教わったよ」

そんな祖父からの影響でトランペットを吹くようになったマグナスだったが、小学校5年生になるとトランペットをベースに持ち替え、レッド・ツェッペリンやAC/DCのカヴァー・バンドで演奏するようになる。

「ずいぶん昔の事ではあるけれど、間違いなく今に活きていると思うよ。バンドでの演奏がどういうものか知ることができたし、あとは女の子たちのこととか、ベース・プレイヤーとはどういった存在なのかとかね」

彼に音楽を教えてくれたのは、祖父だけではない。何を隠そうマグナスの兄は、ここ日本でも一足先にデビュー・アルバム『Home Before The Dark』(2015年)がリリースされたノルウェーの人気バンド、キッド・アストレイのジェイコブ・ベックマンなのだ。

キッド・アストレイの2015年作『Home Before The Dark』収録曲“Still Chasing Nothing”
 

「ジェイコブは僕の兄だから、彼は当然愛情を注ぐ対象なんだけど、他のメンバーも良い仲間って感じだね。とても優しい連中だし、分別があって、シャレの効いたことも、とても大切なことも言ってくれるしね。あと、ムカつく位にハンサムな連中だよ」

そして2015年、19歳になったマグナスはソロ・アーティストとしての活動を始め、同年6月には同じくキッド・アストレイのメンバーであるベンジャミン・ヨーシュをプロデューサーに迎えたデビュー・シングル“Keep On Playing Nice”を、あのカックマダファッカも在籍するベルゲンのレーベル、ブリリアンスからリリース。翌年の3月には、オスロの大規模なフェスティバル〈By:Larm〉で、初めてのステージを踏んでいる。

「ライヴでは僕を含めた5人編成のバンドでやっているんだけど、みんなとても良い仲間なんだ。僕の兄を通じて知り合ったんだけど、兄(パーカッション)と ベンジャミン(ギター/キーボード) 、ヘンリク・リルハ(ギター)は僕の2歳年上で、同じ高校のクラスメイトだった。あと、アレックス・ブラーテン(ドラム)はキッド・アストレイの元マネージャーなんだ。で、彼らに僕のバック・バンドをやってくれないかと頼んだってわけさ。それからはこのバンドでうまくいっているよ」


僕の音楽を子供たちに聴かせたら、みんなすごく踊っていたらしいよ

そんなバック・バンドのメンバーと一緒にレコーディングしたのが、この度日本でもリリースされることになったファースト・ミニ・アルバムの『Loners Get Lonely Too』だ。

MAGNUS BECHMANN Loners Get Lonely Too RIMEOUT/Brilliance(2017)

 「すべての曲のベースと大半のシンセは僕が弾いているけど、あとはバック・バンドのメンバーにスタジオで演奏してもらったんだ。自分自身でクリエイティヴな判断ができるから、ソロ・アーティストでいるほうが好きなんだけど、後ろには僕を支えてくれるバンドがいるからね。彼らがいなくちゃ楽しくないよ」

そうマグナスが語っている通り、〈孤独〉をテーマにしたタイトルや歌詞とは裏腹に、フェニックスやトゥー・ドア・シネマ・クラブを思わせる、アッパーなポップ・チューンが並んだ本作。リズミカルなギターのカッティングと、ギター・ソロをシンセで代用したような、耳に残るフレーズが満載だ。

「うん、それは意図してやった事だよ。軽快なギターと、メロディックなシンセのフレーズのコンビネーションが僕の好みなんだ。参考にしたものはたくさんあるからリストアップするのは大変だけど、このインタヴューを読んでいるみんなへの宿題として、僕のミニ・アルバムを聴いてもらって、誰を参考にしたか当ててもらおうかな」

 と、少々意地悪な答えが返ってきたが、そんなマグナスが大ファンだと公言してはばからないのが、同郷のシンガー・ソングライターであるソンドレ・ラルケ。日本盤のボーナス・トラックとして収録された“Colors”に漂うブルーアイド・ソウルっぽい雰囲気は、確かに彼の作品にも通じるものがある。

「ああ、僕は彼の大ファンなんだ。この冬に彼と一緒にツアーに出たんだけど、やさしくて最高の人だったよ。最近は(最新作の)『Pleasure』(2017年)をよく聴いているんだけど、彼の1曲を挙げるなら、 そのアルバムに入っている“Serenading In The Trenches”が好きだね。僕自身ゴスペルやソウルのエッセンスを感じさせる曲は好きだし、そういったものが“Colors”には表れていると思うよ」

キングス・オブ・コンビニエンスからチーム・ミーまで、優れたインディー・ポップを輩出することにかけては定評のあるノルウェー。マグナスにもオススメのアーティストをいくつか挙げてもらった。

「最近、ノルウェーからはいっぱいクールなアーティストが出てきているけど、サンビカのアーティストで言うとアリー(Ary)かな。最高にかっこいいエレクトロ・ポップを奏でている女の子なんだ。あと、 イフィ・オービット(Iffy Orbit)ってバンドもすごく良い曲を書いているよ」

アリーの2016年のシングル“Higher”
イフィ・オービットの2017年のシングル“Let It Go”
 

そんなマグナスは、ファースト・アルバムへの展望をこんなふうに語っている。

「ファースト・アルバムは今回のミニ・アルバムよりも、もっとヴァラエティーに富んだものになると思うよ。アルバムにはコンセプト的なものを持たせたいと思っているんだけど、まだどんなコンセプトになるかは決まっていないんだ。たぶん、かなり喜びに満ちた感じの作品になるんじゃないかな」

ところで、保育園の子供たちはマグナス先生の正体を知っているのだろうか?

「まだ子供たちの前で演奏したことはないんだ。でも、僕の同僚がこのEPを子供たちに聴かせたら、みんなすごく踊っていたらしいよ」

なるほど、子供たちの反応は正直だ。カレッジ・ロックならぬキンダーガーテン・ポップの第一人者として、マグナスが保育園から世界に飛び出す日も、そう遠くないのかもしれない。